医学界新聞

2007.10.01

 

精神障害者 就労支援セミナーの話題から


 昨年10月に施行された障害者自立支援法のもと,精神障害者を支える福祉の枠組みは大きな転換期を迎えている。また,全国の精神科病院では退院促進が進んでいる。このような背景のもと,精神障害者が安心して地域で暮らしていくために,医療・行政・社会が連携した生活支援体制の早急な整備が求められている。

 9月15日,東京都千代田区で催されたセミナー「精神障害者の自立・就労における保健・医療・福祉・社会の役割と連携」では,この体制整備について就労支援という側面から考察が行われた。

 東京都世田谷区の精神障害者就労支援センター「しごとねっと」の松田由紀子氏は「就労支援の現場から見えること」として講演を行った。世田谷区から同事業の運営を受託する社会福祉法人「はる」は以前より通所授産施設の運営を通じた就労支援を行ってきたが,その対象は施設利用者に限られていた。

 地域のなかでより多くの就労希望を持つ精神障害者を支援するため,区との協議を経て04年に同区初の精神障害者就労支援事業として業務を開始した。精神障害,高次脳機能障害,発達障害をもつ区内在住者(社会復帰施設の利用者含む)が利用可能。障害者手帳がないと支援を受けられないケースも多いが,同センターでは手帳の有無は問わない。また,訓練機関をもたず,区の担当者,保健所,授産施設や作業所などによる連絡協議会や,ハローワークなどとの連携を基盤に,個々の状況に応じた支援を行うのが特徴だ。

 実際の就労に際しては,障害の露見を恐れる障害者が多く,これを事前開示するかどうかが大きなテーマとなる。「しごとねっと」の06年度の実績では,就労総数63件のうち,事前開示が43件,非開示が20件であった。

 また年度末の時点で,開示群では60%が就労を継続していたのに対し,非開示群では45%が離職,加えて解雇も17%に上った(開示群ではゼロ)。企業側の理解を得たうえでの就労が,継続勤務につながる要件のひとつといえるだろう。

 続いて,精神科医の立場から南光進一郎氏(帝京大)が講演。統合失調症患者は8割が非雇用であると指摘したうえで,通院・服薬を継続し病状を安定させることで就労が可能となると述べた。また患者に病識と治療へのアドヒアランスがあれば,症状が残っていても就労は可能とし,旧来の鎮静を前提とした多剤大量処方に警鐘を鳴らした。この後,多職種で研究する精神障害者の自立・就労に向けた評価スケールについて紹介を行った。荒木葉子氏(荒木労働衛生コンサルタント事務所)は産業医の立場から,「産業保健において,職場復帰に向けた医療と職場をつなぐ評価尺度は重要」とこの研究を評価した。

 会場では内閣府による障害者週間とのリンクアップ事業「ペパーミント・ウェーブ」による就労支援活動団体への表彰も行われ,賛同人の日野原重明氏(聖路加国際病院)らによる審査のもと,8団体にヤンセンファーマ賞などが授与された。