地方中規模病院での教育回診の試み(佐藤泰吾)
寄稿
2007.09.10
【寄稿】
地方中規模病院での教育回診の試み
佐藤泰吾(諏訪中央病院 内科/総合診療部)
「難産でしたが,やっと上梓の運びとなりました。続編は,みんながそれぞれの持ち場で書いてください」。2002年,当時舞鶴市民病院で内科研修中であった私は,副院長の松村理司先生から,出版された直後の著書『大リーガー医に学ぶ――地域病院における一般内科研修の試み』(医学書院)をいただいた。冒頭の一文はその際のメッセージカードからの引用である。
2006年,私は長野県にある諏訪中央病院で内科医として勤務していた。初期臨床研修義務化とともに,研修医の受け入れをはじめ,その時点で初期研修医を受け入れてまだ3年目の病院であった。久しぶりに『大リーガー医に学ぶ』を手に取った時に手元に落ちてきたのが,松村先生からいただいたカードだった。
地方の,とりわけ中小規模病院がおかれている状況はたいへん厳しい。それでも間違いなく言えることは,地域には医療を必要としている人々がいることだ。私は舞鶴で5年間,内科研修を受けた。松村先生のもとで,「できるだけ間口を狭めず,かといって深み・緻密さ・微妙さを極力失うことのない一般内科と地域医療の展開」をするチームのメンバーに加えていただき,「大リーガー医」のClinician/educator(一般内科医・教育者)としての見事な姿をたくさん見せていただいた。その自分が,現在の持ち場で何をできるのか。4年前の松村先生のメッセージは,現在の私に問いかけてきた。
ソフト面の充実こそが研修医を育て,地域医療を支える
諏訪中央病院は362床の中規模病院で,急性期病床は266床。他に回復期リハビリ病棟や緩和ケア病棟,療養型病床を擁し,背景人口約8万人を抱える地域の基幹病院となっている。初期・後期研修医を受け入れ,病院内に変化が生まれてきた。研修医が,フットワークよく,柔らかい頭と強靭な体力,そして自分の未熟さを認める謙虚な姿勢で,救急,外来,病棟,往診とさまざまな医療現場を走り回り,数少ない多忙な専門家たちの隙間をつないでくれることで,病院全体に活気をもたらしてくれた。コメディカルとの関係も深めてくれている。諏訪中央病院は専門各科の大学への引き上げなどにより,たいへん厳しい状況にある。それでも彼ら研修医の存在が,地域住民を守るための新たな戦力となってきていた。
その研修医たちに,臨床医としてさらに成長するための機会を提供したかった。具体的に何ができるか。舞鶴で「大リーガー医」からともに学んだ卒後10年目前後の,臨床医として脂がのってきている先生方に力を借り,臨床医として成長するために必要な種をまいてもらおう。ただしそのためには私たち自身が,種をまくための土地を耕し,まかれた種を育てなければならない。その覚悟を持って,松村先生のもとでともに働いた先輩である,川島篤志先生と植西憲達先生に当院での短期研修医教育を「教育回診」と銘打ってお願いした。
川島先生は市立堺病院(総合内科),植西先生は洛和会音羽病院(総合診療科)において,研修医教育を通じて,地域医療を支えている医師である。お二人と各々の所属病院は,当院の招聘を快諾してくれた。
「教育回診」はいわば「お祭り」である。「ハレ」の企画であって,日常ではない。「教育回診」を通じて研修医をチームの一員とした,地域中規模病院での日常臨床をいかに充実できるか。私たちの問題意識はここにあった。さまざまな点で未熟な研修医であるが,適切な教育環境とそれを支える体制があれば,地域住民のために十分貢献できるはず。野球だって4番バッターだけでは成り立たない。戦力が少ない以上,少しでも各自が自分の役割を的確に果たすことが求められる。そのためには教育が必要であると考えた。
「教育回診」を行うにあたって4つの目標を定めた。
1)初期および後期研修医のプレゼンテーション能力の育成
2)初期および後期研修医のディスカッション能力の育成
3)上級医,指導医の教育能力の育成
4)基本となる身体診察能力の育成,身体診察教育法の育成
研修医をチームの一員とするためには,ハードよりもソフトをつくり上げることが必要であった。
専門性に縛られない,幅広い臨床力の模範

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