腹部大動脈瘤に対するステントグラフト術の現状(大木隆生)
寄稿
2007.09.03
【Medical Frontline】
腹部大動脈瘤に対するステントグラフト術の現状
大木 隆生(東京慈恵会医科大学 外科学講座 統括責任者 血管外科学分野 教授・診療部長)
はじめに
腹部大動脈瘤(Abdominal Aortic Aneurysm:AAA)は放置すると破裂し,その際の致死率は9割に達する。一方で,破裂する前に待機的に手術できれば95%以上の確率で救命できる。そのため早期発見・早期治療の意義は高い。本稿では最近日本で保険適応となった腹部大動脈瘤の新しい手術,ステントグラフト術を概説する。
腹部大動脈瘤
腹部大動脈瘤はもっとも発生頻度の高い動脈瘤であり,本邦では毎年1万例(米国では毎年6万例)を超える手術が行われてきた。動脈瘤が臨床的に問題となる理由はいくつかあるが,最も重要なのが破裂である。破裂したら,病院にたどり着いたとしても救命率は5割に満たない。破裂以外に,塞栓症(ブルートゥ),血栓症,尿管圧迫による水腎症,感染などが動脈瘤に伴うことがあるが,治療をする理由としては稀なほうである。
破裂を予測する因子として(1)動脈瘤の大きさ(男性5cm,女性4.5cm),(2)拡大速度(5mm以上/半年),(3)のう状瘤,(4)痛みの有無,(5)喫煙,(6)女性,(7)高血圧,肺気腫,(8)家族歴などが挙げられる。これら因子と,手術リスク,患者の推定余命などを総合的にみて手術の適応を決める。
開腹手術
手術治療法では腹部正中切開による方法と,側腹部斜切開による腹膜外アプローチがある。いくつかのくじ引き試験で腹膜を開けない後者の術式のほうが,呼吸器合併症が少なく,経口摂取が早いことが証明されているので,筆者は腹膜外アプローチを第一選択としている。大動脈を露出した後に,遮断し人工血管に置き換える。
本法のメリットは,長期の成績が確立されていることである。短所としては,侵襲が大きく,80%に上る術後勃起障害のほか,20―30%と高率に発生する重篤合併症が挙げられる。また,少なからずハイリスクな手術不能例が存在する。
ステントグラフト術
ステントグラフト術(以下,SG術)は,1990年にアルゼンチンの医師Parodiにより考案された術式で,開腹せずに動脈瘤を治療する方法である。ステントグラフトは文字通り金属製のステントと布でできた人工血管(グラフト)の組み合わせである(図1)。図1 日本で薬事承認され保険適応となっている腹部大動脈瘤用のステントグラフト(左:ゴアテックスジャパン社製のExcluderス |
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