医学界新聞


急性中毒標準治療の現状

2007.09.03

 

急性中毒標準治療の現状

第29回日本中毒学会の話題から


 日本中毒学会学術委員会は,日本における急性中毒初期治療の標準化を目的として,「急性中毒の標準治療」を提唱。2002年4月より同会のホームページで公開している(http://web.jiho.co.jp/toxicol/index.html)。同委員会は,「標準治療」提唱から6年目を迎えた本年,全国の医療機関を対象とし,急性中毒初期治療の現状に関するアンケートを実施。7月27日,昭和大学(東京都品川区)にて開催された,第29回日本中毒学会のパネルディスカッション「急性中毒の標準治療」(司会=吉岡敏治氏 大阪府立急性期・総合医療センター)で,アンケート調査結果を報告した。本紙ではその一部を紹介する。


◆胃洗浄(奥村徹氏 佐賀大)

 標準治療提唱後,治療に変化があったかとの問いに,高度救命センター・救命救急センターの7割があったと回答。内容は「適応の限定」が86%ともっとも多く,「洗浄液に水道水を使用するようになった」「大きな口径の胃洗浄チューブを使用するようになった」が10%,「標準治療推奨体位とした」「気管挿管の頻度が増えた」が5%。奥村氏は「適応の限定化は確実に進んでいるが,その他の項目の変化は少ない」と指摘した。また胃洗浄時の体位では,標準治療では側臥位+頭低位を推奨しているが,推奨どおり行っているのは9%で,ほとんどの施設(86%)は左側臥位であった。また,頭低位を併用した9%の施設は,すべて施設内で処置を統一しており,施設内での標準化が進んでいる病院は標準治療に準ずる治療法が行われているという結果が明らかになった。高度救命センター・救命救急センターを対象にした胃洗浄時の2次被害に関する質問では全体で2割が何らかの2次被害を経験。前者で43%,後者で14%が対策を採っていると回答した。

◆活性炭(浅利靖氏 弘前大)

 活性炭の投与頻度は,高度救命センター,救命救急センター,大学病院など中毒の専門的治療施設で高く,一般病院,診療所では低い傾向にあった。活性炭の懸濁液は水道水(推奨)が最も多いが,下剤を用いているところも多い。下剤の種類はマグコールが最も多く,ソルビトール(推奨)はそれほど多くないという結果が見られた。浅利氏は「懸濁に下剤を用いることに関してはエビデンスがはっきりしていない。活性炭は食べ物やアルコールがあると効果が下がるが,下剤が果たしてどういう効果を示すのか」と疑問を呈した。最後に,「活性炭投与は早期投与が有効。診療所で投与すべきか,一般病院で投与すべきか,それとも3次救急医療機関での投与が現実的かを今後検討すべき」と述べた。

◆腸洗浄(白川洋一氏 回生病院)

 腸洗浄は,他の除染手段に比べて特殊であり,試行頻度は極端に少ない。高度救命センター・救命救急センターを対象とした調査の結果,洗浄液は推奨のPGEが大多数(98%)だったが,注入速度や継続時間にはばらつきがあった。

◆強制利尿(嶋津岳士氏 阪大)

 標準治療では,「脱水,意識障害,呼吸抑制,痙攣などに対する対応が適切であれば,強制利尿の有用性は一般的に乏しい」とされており,適応は近年縮小されている。特にバルビタールとサリチル酸以外では,安全で効果的という臨床的エビデンスがない。高度救命センター,救命救急センター,大学病院,病院,診療所を対象としたアンケートでは,強制利尿を「まったく行わない・まれにしか行わない」「ほとんど全症例に行う・50%以上に行う」施設の割合がおよそ2対1で,両極化している状況であると指摘。高度救命センター・救命救急センターに行った詳細アンケートでは,酸性利尿の経験があるのは6.8%,アルカリ利尿は51%で,約半分でしかない。強制利尿の適応は減らすというメッセージは伝わったが,アルカリ利尿の重要性はあまり浸透していないと問題提起した。

◆血液浄化法(村田厚夫氏 福岡和白病院)

 標準治療の中では,「どの血液浄化法も予後を改善するという明確なエビデンスはなく,確立された治療と言うよりは実験的治療,あるいは何らかの理由で他の療法が施行できないか,施行しても効果がないときの代替的治療としての意味合いが大きい」とされている。高度救命センター・救命救急センターを対象に調査した結果,全国の高度救命センター・救命救急センターでは血液浄化法はほとんど行われておらず,行っている施設でも適応を縮小する方向にあった。しかし,施行されている場合,方法は標準治療に沿ったものが多いとは決していえず,理論的に効果がない方法がいまだ用いられている例もあると指摘。適応の限定だけでなく内容の啓蒙も今後重要な課題であると締めくくった。

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