医学界新聞

2007.08.20

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


《標準理学療法学 専門分野》
地域理学療法学 第2版

奈良 勲 シリーズ監修
牧田 光代 編

《評 者》半田 一登(九州労災病院リハビリテーション科・技師長)

対象者の生き生きとした生活を支えるための理学療法を明示

 日本リハビリテーション病院・施設協会では,「地域リハビリテーションとは,障害のある人々や高齢者およびその家族が,住み慣れたところで,そこに住む人々と共に,一生安全に生き生きとした生活を送れるよう,医療や保健,福祉,および生活にかかわるあらゆる人々や機関・組織が,リハビリテーションの立場から協力し合って行なう活動のすべてをいう」としている。この文中にある「生活にかかわるあらゆる人々」の中に理学療法士は存在しており,地域理学療法を提供している。理学療法士は急性期医療からこの地域リハビリテーションまで強いかかわりを持っているが,提供される理学療法は各ステージによって根本的な違いがあることを承知しなければならない。またこの「あらゆる人々」には特定の制限を設けずに自由競争的となっており,この領域で力を発揮するためには柔軟な発想と幅広い知識,そして対応能のある技術のすべてが求められている。

 近年,この分野の理学療法士に関する2つの話題をよく耳にする。1つは医療機関と比べた場合,理学療法士の数が増えていないということであり,もう1つはこの領域の理学療法士に対する周辺職域からの落胆の声である。これらは理学療法士教育がいまだに理学療法士および作業療法士法でいうところの「身体に障害のあるもの」を狭義に解釈して教育が構成されていることが要因かもしれない。また,長期実習が病院中心に終始していることも大きい。これらを受けて“医療職としての理学療法士”というフレーズを意図的に使い,地域リハビリテーションの領域から理学療法士を排除する動きすら感じる。この領域に地域理学療法を確立することは,地域リハビリテーションを効率的かつ効果的に行なうために必要であり,そのための努力がわれわれ理学療法士に求められている。

 編者の牧田光代氏は,本書の序文の中で「理学療法士としては,医学的視点と生活の場での視点を併せ持ってよりよいアプローチを考える必要がある」とし,「理学療法の知識,技術だけでは地域でその力を発揮することはできない」とも記述している。医学の場では患者の文化や個性などは否定され,没個性として存在するが,地域リハビリテーションや地域理学療法の対象者にはその人の文化や個性を尊重したうえでの対応が求められる。「生き生きとした生活」を支えるための理学療法は本当に幅広く難解である。

 この難解な地域理学療法を本書ではまず概念としてとらえ,次いでシステムとその展開,生活環境,疾患別の地域理学療法の実際と丹念に構成されている。本書が多くの理学療法士に方向性と勇気を与え,理学療法士が数多くの障害者や高齢者の生活を本質的に支え,そして理学療法士が社会的に評価される日が到来することを期待する。

B5・頁288 定価4,935円(税5%込)医学書院


発達期言語コミュニケーション障害の新しい視点と介入理論

笹沼 澄子 編

《評 者》岩田 誠(東女医大教授・神経内科学)

高次脳機能の喪失とは異なる発達性障害を理解するために

 本書の書評の依頼を受けていささか困惑した。私にとっては専門外の領域の物事を扱った書物であり,しかもタイトルから察するに,大変難解な内容であるような感じがしたからである。しかし,いざ本を手にして中を読み出すと,各章や,それを構成している各項の概要がそれぞれの冒頭に示されており,これを頼りにして読み進むと,意外に読みやすいことに気づいて,まずは安心した。

 私自身は,これまで成人における失語,失読,失書といったような,いったん獲得した機能が脳病変によって失われたことに基づくさまざまな障害に接し,それらの障害をヒトの大脳における機能局在の原則に従って理解しようと試みる研究に従事してきた。そのような方法論を扱いなれた視点から眺めていると,本書で扱われているような発達性障害の病態を理解することはきわめて困難である。このことを自分自身で強く感じたのは,今からもう十数年前になろうか,本書でも取り上げられているWilliams症候群の患者に初めて出会った時であった。この特異な症候群の患者に図形の模写をしてもらった時,私はそれまで幾度となく経験してきた成人における視覚構成障害とは,根本的に違う何かを感じたのである。自分がそれまで金科玉条として信じていた大脳機能局在論では理解しがたい,何か不可思議なことが起こっているということに気づいたのである。その時が,私にとっての発達性高次脳機能障害への開眼元年であった。

 それまでも,本書で取り上げられているさまざまな病態,特に自閉症スペクトラムや発達性読み書き障害の神経心理学的研究に接する機会がなかったわけではないが,そんな時私にとってはいつも消化不良の感じで終わるのが常であった。それは,いつも成人における神経心理学的手法がうまく適合できなかった例として,それらの研究を見てきたからだと思う。それは,私自身の誤りであったと同時に,この分野の研究者の方々の誤解に基づくものであったことも否定できないであろう。大脳の発達過程で生じてくるさまざまな病態と,それによって生じる障害,それらのことを,できあがった機能の喪失と同列に扱い,同じような理論で理解しようとすることが,そもそも適切ではないということが,どち...

この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook