インフルエンザ菌 type b ワクチン接種のすすめ(福地貴彦)
寄稿
2007.08.20
【投稿】
インフルエンザ菌 Haemophilus influenzae type bワクチン接種のすすめ
福地貴彦(秩父市大滝国民健康保険診療所)
日本におけるワクチン導入の遅れ
インフルエンザ菌Haemophilus influenzae type b(以下Hib)ワクチンは他の先進国ではすでに接種が一般的なワクチンであるが,日本においては2007年1月にようやく販売認可された。日本の行政によるワクチンへの対応は残念ながら著しく遅い。Hib髄膜炎で後遺症をきたした児を持つ親が,Hibワクチン・肺炎球菌結合ワクチン(PCV)の早期承認・普及を厚生労働省に訴えたと聞く。WHOが1998年にすべての国に対してHibワクチンを定期接種プログラムに組み入れることを推奨してから,すでに9年が経過しようとしている。この9年の間に救えた,そして後遺症を避け得た小児はいったい何人であっただろうか。さて,そのHibは5歳以下の乳幼児に重篤な感染症,特に髄膜炎,sepsis(敗血症)を起こすことで知られている。Hib髄膜炎の日本での発症頻度は5歳未満人口10万人に対し7.5-8.9人であるとされる。一方,米国では1990年よりHibワクチンが導入され,5歳以下人口10万人あたり25人であった発症率がほとんどゼロにまで劇的に減少している。
Hibの重篤感染症(Invasive diseases),なかでも髄膜炎に関する最近のエビデンスがほとんどないという事実はご存じだろうか。日本以外の先進国ではHibワクチンが導入されてすでに10年以上経っており,Hibの髄膜炎そのものをほとんど考慮しなくてよいためである。例えば感染症実地診療の有用なツールであるポケットマニュアルSanford『熱病』(2007)によると,細菌性髄膜炎(生後1か月-50歳)の起因菌では,S. pneumoniae,N. meningitidisが「通常」考えられ,H. influenzaeは「現在非常にまれ」とされている。すなわち実際に治療に関わる際,重要な指針となる最近の欧米のエビデンスはほとんどない。しかし日本では今でも決してまれではなく,むしろ起因菌の最有力候補である。さらに肺炎球菌とともに耐性化が進み,H. influenzaeと判明した髄膜炎でのampicillin感受性株は27.7%しかない。
Hib感染症がこれほど多く存在するのは恥ずかしいこと
日本でBLNARのエビデンスを作ればよい? いや,そもそもこの細菌がこれだけ多数存在することは,世界的に見れば「恥ずかしい」ことなのだ。麻疹が大流行すること,欧米に輸出していることも,とても「恥ずかしい」ことであるのと同様である。感染症診療の基本は予防することであり,ワクチンで予防可能な疾患は,ワクチンでこの記事はログインすると全文を読むことができます。
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