アクロメガリー 早期診断のポイント(齋藤洋一)
寄稿
2007.07.30
【Medical Frontline】
アクロメガリー 早期診断のポイント
齋藤洋一(大阪大学大学院医学系研究科 脳神経外科准教授)
アクロメガリーの病態
先端巨大症,末端肥大症とも呼ばれるアクロメガリーの患者数は40歳から65歳が多く,3-4人/百万人・年とのことです。成長ホルモン(GH)という下垂体から分泌されるホルモンが,過剰に分泌されることにより,顔の形の変化,手や足の肥大,心肥大,高血圧,糖尿病,消化器の癌などが起こり,平均寿命が短くなり,QOL低下などが起こってくる病気です。本来,GHは成長期の身長増加などに必要なホルモンですが,成長期が終わる前に,GH過剰分泌が起こると巨人症に,成長期が終わった後にGH過剰分泌が起こると先端巨大症になります。ほとんどが,下垂体に良性腫瘍(下垂体腺腫)があって,過剰の成長ホルモンを分泌することで起こります。
多彩な症状
数年以上の時間をかけてゆっくりと顔の形が変化し,鼻や舌の肥大がおこり,唇が厚くなります。また眉の部分が前方に突出し,両方の額にかどができたり,下顎が突出したりします。手の指が太くなり,指輪が入りにくくなり,足が大きく厚くなって靴のサイズが合わなくなります。手のひらの厚みも増して,ぼってりとした手になり,手などに汗をかきやすくなります。中には手のしびれが起こり(手根管症候群),いびきがひどくて睡眠が浅くなり(睡眠時無呼吸),日中眠くて仕方がない方もいらっしゃいます。下垂体腺腫が大きい場合,頭痛(眼の奥の痛みで,鎮痛剤が効きにくいことがあります)や視野障害(視野の耳側が見えにくい)があることがあります。以上のように過剰GHが下垂体腫瘍から分泌されることで,さまざまな症状を引き起こし,まだ解明されていない内分泌学的側面もたくさんあります。合併症として高血圧や糖尿病になることもあります。有名人としてはK-1のチェホンマンがいます。彼はMRIで下垂体腫瘍も指摘されていますが,治療を拒否しているそうです。
治療の進め方
治療のアルゴリズムを示します(図1)。●外科療法
腫瘍の形状,サイズにもよりますが,現在,経蝶形骨洞手術による腫瘍摘出が一般的です。それも熟練した医師による経鼻孔的内視鏡手術は,痛みも軽く,入院期間も短期間です(図2)。 腫瘍のサイズが大きいときには術前にソマトスタチンアナログであるオクトレオチド(商品名サンドスタチン)を投与して,腫瘍を小さくして手術することもあります(図3)。すでに心不全等の症状が出ている場合には,それらの症状を術前に改善させる目的で,術前にオクトレオチドを使用することもあります。手術成績を上げる工夫を専門医は日夜考えておりますが,早期発見し,腫瘍が小型であるうちに手術を行うことが治療成績の向上につながります。
●薬物療法
手術ができない場合,希望されない場合は薬物治療になります。治療薬にはドパミン作動薬(ブロモクリプチン,カベルゴリン),ソマトスタチンアナログ(オクトレオチド),GH受容体拮抗薬(ペグビソマント)があります。
ドパミン作動薬としてはブロモクリプチン(商品名パーロデル)がアクロメガリーに適応を持つ唯一の経口薬です。プロラクチンも産生する腫瘍の場合にはカベルゴリン(商品名カバサール)も使用されますが,血中IGF-1正常化率は30%以下です。
オクトレオチドでは血中GH,IGF-1正常化率はそれぞれ53%,66%です。月に一度の投与で済む,徐放性製剤(LAR)による治療はコンプライアンスの向上に寄与しています。
最近,GH受容体拮抗薬ペグビソマント(商品名ソマバート)も保険適応になりました。オクトレオチド,ペグビソマントの薬物治療は,すぐれた一面がありますが,安価とはいえず,注射剤であるという課題が残されています。
●放射線療法
放射線療法は外科治療,薬物治療が奏功しないときに選択されますが,最近は定位放射線治療(ガンマナイフなど)が選択されるのが通例です。
治療目標は,OGTTで血中GHが1.0ng/ml未満に抑制され,IGF-1が正常範囲にあることです(コルチナコンセンサス)。
他科診療医が診るときに見逃さないでほしい症状・症候
発見のパターンとして最も多いのは,内科での診療ですが,最近は患者さんがインターネットで調べて,自己診断するケースも増えてきています。下垂体腫瘍によるGH分泌過剰による症状は多岐にわたります。各科の診療医の先生方で下記のような症状の患者を診たときには,アクロメガリーの可能性も疑ってみてください。◆内科系の兆候
手足の肥大,頭痛(眼の奥が痛い),難治な高血圧,難治な糖尿病,難治な高脂血症,発汗過多。
◆耳鼻科の兆候
いびき,巨大舌,睡眠時無呼吸。
◆産婦人科の兆候
月経異常,乳汁漏出,プロラクチンが高値のこともある。
◆泌尿器科・整形外科・神経内科の兆候
泌尿器科の兆候としては性欲低下,尿路結石。整形外科,神経内科の兆候としては手足のしびれ(手根管,足根管症候群),脊椎の変形,変形性関節症。
◆歯科・眼科の兆候
歯科の兆候としては咬合不全。眼科の兆候としては視力視野障害。
もしも,診療されている患者にアクロメガリーを疑ったら,まず(1)血中または尿中GH,血中IGF-1(ソマトメジンC)の測定。(2)基準値を超えていたら下垂体の造影を含めたMRI撮影。(3)OGTTでの血中GHの抑制(1.0ng/ml未満)がないことを確認。の順に検査を進めてください。上記(2)(3)までいかなくても,血中または尿中GH,血中IGF-1の測定で,アクロメガリーが疑われたら,内分泌内科または脳神経外科の下垂体専門医にご紹介ください。
アクロメガリーは多岐にわたる症状を呈するので,どの科の先生方も,そのことを心に留めていただいて早期発見に努めることが,患者の治療負担を軽減し,治癒率の向上,QOLを改善することができると考えられます。
齋藤洋一氏
1982年阪大医学部卒業。86年同大学院博士課程修了。テーマは下垂体腫瘍病理。同年日本脳神経外科学会賞(ガレヌス賞)受賞。関西労災病院,阪和記念病院勤務を経て,89年ニューヨークマウントサイナイ病院,91年ウイスコンシン霊長類研究所留学。93年阪大脳神経外科助手。99年大阪労災病院脳神経外科副部長。2002年阪大講師,07年准教授となり現在に至る。日本臨床電子顕微鏡学会02年度論文賞を共同受賞。
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