医学界新聞


ハワイ・クアキニ病院を訪問して

寄稿

2007.07.23

 

【投稿】

看護管理者に必要な能力とは
ハワイ・クアキニ病院を訪問して

真下綾子(東京大学大学院・看護管理学分野)


 看護管理者に必要な能力として,アメリカではどのようなことが要求されているのか。筆者はその答えを探るため,ハワイ・クアキニ病院を訪問した。

 クアキニ病院は,1900年,ハワイ・オアフ島で日本の移民に対する無料の医療サービスを提供する慈善病院として創立された。その後,日本人移民に対するものだけではなく,コミュニティー全体へと医療サービスの拡大を図った。病院は212床の急性期病院であり,心臓血管,心臓外科,クリティカルケアユニットがある。総入院数(Total admissions:2004)は5901人で,その大多数がメディケアによる入院(4170人)。平均在院日数は6.8日である。

 病院の組織としては,President/Chief Executive Officerがトップであるが,医師ではなく,ビジネスバックグランドの経営学修士と公衆衛生学修士の取得者であった。アメリカで病院の経営者となるためには,American College of Health Care Executiveからの認定等が必要な場合もある。クアキニ病院では,その下にシニア副院長(Sr. Vice President/Chief Operating Officer)の役職が設定されている。その他,医師であり,診療部門の長として副院長である“V.P. of Medical Affairs”や,さらに看護部門の長であり,副院長である“V.P. of Clinical Services”があり,それぞれの部門のトップとしての役割を果たしている。

看護師のキャリアパスと管理者に求められる能力

 クアキニ病院では,スタッフから看護管理者に至るまで,レベル1から5までの段階を設定しており,レベル3は,リーダーシップ,コミュニケーション能力,看護管理実践上での判断力等を持ち合わせた者,そして役割モデルとなる人となっている。レベル3となった後,看護管理者教育等を受け,段階的に看護部門の長となる。もちろん適任者がいなければ,公募をとっている(後述)。

 クアキニ病院の病院長(President/Chief Executive Officer)であるGary K Kajiwara氏は,看護部門の長が持つべき能力として,第1に「すべての看護の領域に対して基準を明確にできること」(To be able to set the standard to all nursing area)。第2に「他部門,看護部門内等の規制・調整をすること(Regulatory)」,最後に「看護の原則(Nursing principle)として,常に患者ケアを重視すること」であった。さらに,「病院経営における財務等について把握・貢献,スタッフへの配慮,論理的思考などさまざまな能力が必要となってくる」と述べた。

 クアキニ病院では,離職者が少なく,スタッフナースから昇格し,管理者になる者が多く,現在の看護部門の長もスタッフナースから昇進してきた方であった。しかし,看護部門の長を他病院から公募する場合もあり,何よりもその人自身がどのようなキャリアおよび経験を積んできたかを最重要視しているということであった。

 さらに,看護部門の管理者としての経験および教育者としての経験を持ったDrothy Motoyama氏,クアキニ病院の看護部門の長であるJune Drumeller氏(Vice President:Clinical Service),看護師長(Head nurse)として活躍しているCheryl Tanaka氏にインタビューを行った。

 アメリカでは,キャリアパスとして,経験のある看護師はスタッフナースに看護技術を指導する役割を担い,専門看護師(Clinical nurse specialist)をめざすために修士課程に進むという。専門看護師は新たなポジションを求め,一部は病院の看護管理部門へとキャリアを展開する。

 このような,キャリアパスの中で,看護部門の長における重要な能力とは,第1に「すべての分野,例えば人,物,金,情報,時間に関する管理ができること」,第2に「財務に関して精通していること」,第3に「看護ケアに対して,あらゆる側面から考える柔軟性を備えていること」,第4に「新しいアイディアを実現するという創造性を持っていること」,最後に,「看護ケアに関するミスを正確にレポートすること」という5つであった。そして,何より,「自分の病院をよりよくしたいという意欲があること」が必須条件であった。さらに,自分の能力を自覚し,部下,他部門からの質問に対して的確に回答できるコミュニケーションスキルも重要であった。

 看護師長の能力としても同じように,コミュニケーション能力,スタッフの育成,医師との役割調整が挙げられていた。特に癌病棟の看護師長として18年間クアキニ病院で働いてきたTanaka氏は,元の上司であるMotoyama氏から高い評価を受けており,その理由として,「病棟でおきていることについて,何を聞いてもすべての状況を把握し,スタッフ教育に熱心であり,さらに,医師との関係もよく,患者と常に話すことを心がけていること」が挙げられていた。

常に批判的に,深く考える

 看護管理者にとって必要な能力は,看護に対する熱意,部門・部署の長としてスタッフに明確なビジョンと指示が出せること,コミュニケーション能力,管理実践において自分の経験と知識を駆使して病院をよりよい方向に導きだす方法を創造することである。そして,それを高めるための方法は「常に批判的に,深く考えること」にあるということが確認できた。

 日系移民であり,日本の看護教育にも精通しているMotoyama氏は,アメリカと日本の看護師を比較し,「日本の看護師はとても優しく繊細であるが,看護サービスを提供するうえで推測が多い。なぜ医師の指示がこのようになるのか,患者の状態が予測されるのかなどのエビデンスをもとに考える力が弱いのではないか。日本の看護師自身もっと自分の地位を確立するよう努力するべきだ」と述べていた。今後の日本の看護基礎教育の方向性,そして管理者教育の在り方を考えるうえで非常に参考となる意見だと考える。病院の中に自分しかできないポストを確立し,努力し,長年病院の看護管理者として看護に携わってきた彼女の苦労と自信から,日本の看護管理者への熱いメッセージがそこにあった。

 本文には記載しなかったが,今回クアキニ病院での訪問インタビューでは,クアキニの開業医である三木絹恵先生に訪問打診の段階から大変お世話になった。また,インタビューに際しては,クアキニ病院副院長である三木信幸先生,ハワイ在住のNurse practitionerである大城紀代美氏にご助力いただいた。あらためて感謝したい。最後に,このインタビューは平成18年度日本学術振興会科学研究費補助金・課題番号17209067(研究代表者:菅田勝也)の一部として行われた。

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