医学界新聞


総合力による乳癌の克服をめざして

2007.07.16

 

第15回日本乳癌学会が開催される

総合力による乳癌の克服をめざして


 第15回日本乳癌学会が池田正会長(帝京大)のもと,6月29-30日の両日,パシフィコ横浜で開かれた。同学会は本年3月に単一疾患・単一臓器名による学会としては初めて,日本医学会に加盟が認められ,学会設立15周年と合わせ節目の年を迎えている。今回の開催テーマは,集学的治療やチーム医療という言葉を超えた“総合力”の結集を――との願いから「総合力による乳癌の克服」とされた。


 わが国の乳癌の新規罹患数は毎年約4万人と急増している。学会,自治体をはじめ,企業や各種市民団体も加わり,定期検診受診への啓発活動が行われているが,いまだ患者による自己発見が4分の3を占めており,若年者の受診対策を含め,より早期の発見に向けて課題は残る。

 現在,学会会員数は外科医を中心に8000人を超え,2005年10月から研修を開始した乳がん看護認定看護師も,約20人が活動をスタート。多職種が乳癌治療を支える。

 本学会では,ノーベル物理学賞受賞の江崎玲於奈氏による特別講演,乳癌の術後補助療法に関する国際的なコンセンサス会議「ザンクトガレン2007」推奨に基づく治療選択法をはじめとする最新の医学的知見,新たな試みとして看護師・薬剤師による演題や,患者をシンポジストとして迎えるなど,開催テーマに基づき,幅広い視点から多くの講演・討論が企画された。

2007年改定 乳癌診療ガイドライン

 本年,3年ぶりに乳癌診療ガイドライン「薬物療法」の改定が行われ,渡辺亨氏(浜松オンコロジーセンター)が改定のポイントについて解説した。

 新ガイドラインは,EBMの手法に基づき,患者の問題をPECO形式で定型化した61題のリサーチクエスチョン(前版は37題)を設定,A-Dの4つの推奨グレードで評価を行い,推奨文・解説文・参考文献を記載している。リサーチクエスチョンは,近年話題となっている「HER2陽性に対する治療」に加え,「化学療法」「病態別の治療」など8項目に分類した。

 渡辺氏は「エビデンスに基づき作成されているガイドラインの意義を,個々の医療者が再認識してほしい」とし,“We supply the guidelines, You make decisions”の言葉で講演を締めくくった。なお,薬物療法以外のガイドラインについては来年改定が行われる予定。

リンパ浮腫の実態調査

 リンパ節郭清にともなう後遺症であるリンパ浮腫に悩む乳癌患者は多い。術前のインフォームドコンセントでは癌治療に説明が集中し,リンパ浮腫の発症機序や早期発見,対応法などについて,ほとんどの患者が知らないまま術後を迎えているという。

 学会では,リンパ浮腫の危険に関する治療・予防ガイドラインの作成をめざし,2006年度の班研究として「リンパ浮腫の実態調査」が進行中だ。北村薫氏(九州中央病院)がこの中間報告を行った。

 調査は協力医療機関に対するアンケート形式による。本年5月末現在で87施設から734例のリンパ節郭清患者のデータを集積。734例中,約半数の393例において浮腫が認められており,うち健側と2cm以上の周径差を有する重症例は201例であった。

 現状,(1)利き腕が患側,(2)Level1以上の腋窩郭清,(3)術後補助療法なし,(4)リンパ浮腫予防教育なし――の4因子がリンパ浮腫のハイリスク症例と分析されている。

 周径差2cm以上の重症例にも関わらず自覚症状のない症例も25%あった。また浮腫の有無に関わらず約半数の患者に対し予防教育が行われていないというデータも出ており,患者への情報提供が不足している現状が浮き彫りとなった。乳がん看護認定看護師の活動においても,リンパ浮腫の予防教育や症状緩和ケアの提供は大きなテーマとなっており,医療者の連携のもとでより一層の患者教育の推進が求められる。

■センチネルリンパ節生検 全国アンケートの結果から

 乳癌の7割はリンパ節に転移がないといわれる。不要なリンパ節郭清を行わないことでリンパ浮腫の発生は避けられ,患者のQOLは向上する。

 センチネルリンパ節生検(SLNB)は欧米では標準術式に組み込まれ,わが国でも急速に導入が進んでいる。センチネルとは「見張り」を意味する。SLNBは乳癌の腫瘍周囲に色素やラジオアイソトープを注入,注入物が最初に入り込んだリンパ節を,最初の転移先である「センチネルリンパ節」として同定,術中に迅速生検を行う。この生検で転移が認められなければ他にも転移なし,とみなしリンパ節郭清を行わない。

 手技には習熟が必要だが,The American Society of Breast Surgeonsの調査によると同定率は少なくとも85%,生検による偽陰性率は5%以下とされ,陰性例への郭清省略は世界的なコンセンサスとなりつつある。

 わが国では現状,SLNBに用いられる核種や色素の使用目的が認められている適応と異なるとの理由から,保険適応となっていない。この問題に関し,同学会が昨年実施した「SLNBに関する全国アンケート」の結果について,同学会保険診療委員会副委員長の中村清吾氏(聖路加国際病院)が,特別報告を行った。

 調査は主に安全性の確認を目的として実施され,学会認定の274施設中,174施設から回答を得た。

 報告によると,回答先の87%にあたる152施設でSLNBを実施しており,約半数の患者(1万1306例)に対しSLNBが行われ,陰性の場合は76%の施設で郭清を省略していた。また課題となっている使用薬剤による副作用率は0.08%(9/1万1306)であった。副作用の内訳は,血圧低下3件,蕁麻疹3件,気管支痙攣・喘息発作2件,注入部皮膚壊死1件であった。

 現在,昨年実施の健康保険法等の一部改正で導入された「先進医療」として医療費の算定が認められているが,中村氏は「SLNBを実施している施設全体でみると,先進医療の施設基準は若干高い」と指摘。今後,学会主導で臨床的な使用確認試験を行い,安全性に関するデータを国に提出していく,としている。

 アンケートでは現状,「医療費は病院負担としている」「請求を行っていない」などとする回答も多くみられた。課題を解決したうえで,早期の保険適応が望まれている。