医学界新聞


地域をつつむ緩和医療をめざして

2007.07.16

 

地域をつつむ緩和医療をめざして

第12回日本緩和医療学会開催


 第12回日本緩和医療学会が6月22-23日の2日間,田中紀章会長(岡山大)のもと,ホテルグランヴィア岡山(岡山市)ほかで開催された。医療機関から在宅での看取りへという大きな流れのなか,患者自身の意向に沿った緩和ケアの提供を,地域で包括的に実践していくことが求められている。本学会の開催テーマも「地域をつつむ緩和医療」とされ,緩和医療チームの活動,緩和医療を中心とした地域連携による生活支援システムの構築に向けた取り組み,法と倫理など多彩な演題でセッションが展開された。


 6月15日,がん対策推進基本計画が閣議決定された。年度内の立案を目標に各都道府県では地域に根ざしたがん対策の計画が,急ピッチで進められている。急速に施策が進むがん対策を背景に,外口崇氏(厚労省)が今後の日本の医療制度改革について特別講演を行った。

 がん診療連携拠点病院のあり方に触れ,「現在286施設にまで増加しているが,要件にあてはまる施設がない地域もある。質の担保をしながら(地域に応じた)新しい枠組みを考えていくことも必要」と述べた。また,緩和医療における地域の医療機能の連携について,「各地で先進的な事例が続々と現れ,全体のけん引役となっている」と評価した。シンポジウム「在宅医療と緩和医療」では,この各地で展開される取り組みが紹介された。

緩和ケアを通じた丹念なまちづくり

 加藤雅志氏(厚労省健康局がん対策推進室)はサイコオンコロジーを専門とする厚生労働技官の立場から発言。在宅医療の充実を基盤に,病院から在宅への切れ目のない緩和ケア提供,がん患者を支えることができる地域づくりが求められる。また,地域ごとに住民の生活特性を分析しながら機能分化を進めていくことが必要であるとした。

広島県の取り組み
 広島県では2004年9月,県立病院内に「緩和ケア支援センター」を設置,緩和ケア病棟の運用と緩和ケア支援室を通じ,県内全域に総合的な緩和ケアを提供する取り組みを行っている。運営費は県予算から年間1000万円を拠出,医療者の連携,県民への情報提供の中核機関としての役割を担う。

 同センターの本家好文氏は「二次保健医療圏ごとにがん診療連携拠点病院をつくる目標で開始した」と述べた。また,地域の医療者への教育的役割についても言及。広島大医学部の学生は全員,病棟緩和ケア研修に参加するほか,1日研修には県内の研修医や病院管理者などの参加が相次いでいるという。本家氏は「今後は拠点病院を中心に地域レベルで,がん治療に携わる医師には緩和ケア,かかりつけ医に対しては疼痛ケア,とそれぞれのニーズに応じた教育・研修が求められる」とした。

十和田市の取り組み
 蘆野吉和氏(十和田市立中央病院)は腫瘍外科医として在宅ホスピスケアに長く携わってきた。現在は病院長として,院内・地域連携のネットワークづくりを行う。「前任地では退院者の3分の1が在宅で看取られていたが,1年半前の着任時,十和田の地域住民は病院で亡くなるのが当然という意識だった」と述べ,住民に対しても,在宅で迎える最期・看取りへの意識変革が必要とした。この方法として町内会や在宅研究会などのリソースを通じ,地域,医療者全体で考える地道な取り組みが必要であると述べた。そのうえで,在宅ホスピスケアは地域社会システムの枠組みの中で考えるべきとし,この成否は「医療支援システムに加え,デイホスピスやレスパイトを含めた地域・在宅をつつみ込む新しい生活支援システムを構築できるかにかかっている」と述べた。

緩和ケア岡山モデル
 加藤恒夫氏(かとう内科並木通り診療所)は,がんの早期から終末期まで途切れることなく医療を提供するためには,病院とプライマリケアチームの連携,それをサポートする「在宅サポートチーム」の活動が不可欠と指摘。これを具体化したのが,2001年から加藤氏が取り組む「緩和ケア岡山モデル」。

 加藤氏は活動の分析のなかで,近年の化学療法患者の増加の影響か,病院との連携が増加していると述べた。そのうえで「最近,化学療法中の終末期患者が突然,在宅ケアに移行させられる例が増えている」と指摘。合わせて2005年より在宅死の数が減少傾向にあることに触れ,化学療法中の患者のギアチェンジの難しさについても指摘した。

尾道方式
 片山壽氏(尾道市医師会長)は,尾道診療圏に存在する3つの急性期病院や在宅の主治医と緊密に連携しながら,可能な限り長期にわたる在宅緩和ケアをめざす“尾道方式”について報告。

 尾道方式は,退院前に入院先で多職種による徹底的なケアカンファレンスを行う。在宅での緩和ケアに移行する退院患者・家族の意志,病院側の継続的なバックアップ,在宅担当者側のチーム編成を確認する。退院後も時宜に応じ,在宅主治医の往診時に,病院側主治医やホスピス認定看護師,訪問看護師などが同行訪問し,丁寧なチーム医療を実践している。

 同市医師会の主治医機能対応医療機関(67施設)のうち,麻薬処方を含む緩和医療,在宅での看取りを7割以上の施設で実施しているといい,「尾道では患者の病態に応じて“可変的に”在宅医のネットワークが組める」と述べた。最後に,患者の希望をかなえることを第一義とする尾道方式緩和ケアの評価尺度は「患者の笑顔の質と量」であるとして論を閉じた。

負担・不安の解消に向けて

 “家族の負担・急変時の不安”を理由に退院を躊躇する終末期の患者は多い。地域における緩和ケアでは,この問題の解決が鍵となる。

 川越博美氏(在宅ホスピス協会)は,自身がスーパーバイズする在宅ケア支援グループ「パリアン」の活動を紹介した。医師との緊密な連携のもと,常勤看護師2名による24時間訪問看護(在宅末期医療総合診療料算定)の実施,ボランティアも参加した療養通所介護(デイホスピス)の運営を通じ,“家族の負担・急変時の不安”の解消,市民と医療者協働によるまちづくりの実践モデルをめざす。また天涯孤独の独居者や聾唖者の看取りにも触れ,社会的弱者へのサービス提供も不可欠と述べた。

 地域で支える緩和ケアの実現に向けて“住民ホスピスボランティア”の育成も望まれる。川越氏は,ボランティア活動のメリットを「自然にスピリチュアルケアができること」とした。

 岡山済生会総合病院のボランティアとして約10年活動を続ける近藤和代氏は「人生を振り返る援助,傾聴を中心に,患者さんの生活を日常的・家庭的な雰囲気に近づける努力をしている」と日々の活動を総括。死に直面した患者さんを前に今でもとまどうことが多いとしたうえで「会う時間が短くても,一瞬でも心に寄り添えたと感じたとき意義を感じる」と実感を述べた。

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