医学界新聞


医療の質向上に向け,いま医療者に求められるもの

インタビュー

2007.07.02

 

医療の質向上に向け,いま医療者に求められるもの
福井次矢氏(日本クリニカルパス学会理事長)に聞く


――クリニカルパス学会理事長ご就任,おめでとうございます。パス普及の現状についてどう評価されていますか。

福井 現在,300床以上の病院の8割で何らかのパスが運用されています。医療の質向上に向けて大変意義あることです。今後は,バリアンスやアウトカムのデータ分析に基づくパスそのもののさらなる改善や,患者さん,医療者にパスがもたらした効果の客観的指標を数値で示していくことが求められます。

――今年の教育セミナーのテーマは「医療安全」です。

福井 昨年の診療報酬改定で医療安全対策加算が算定されました。趣旨は評価できますが,額としては不足しているといわざるを得ない。持参薬の問題にしても,各施設に最低ひとりずつ専任薬剤師を配置するだけで,状況がまったく変わってくるのです。リスクを真剣にマネージしようとすれば,お金とスタッフの問題がセットになってきます。現在の医療安全上の問題を半減させるために必要となるコストとマンパワーの予測値,シミュレーションが出せないかと。具体的な数値を伴った提言を出せればと考えています。

――第三者機関としての医療事故調査委員会の設置が検討されています。

福井 一筋縄ではいかない問題ですが,総論的には賛成です。何か起こるとすぐに警察が来るというのは明らかに問題がある。米国などのシステムを参考に,組織を立ち上げるべきだと思います。病院長としては職員が安心して働ける環境を整える責任を深く感じています。

――システムが要因であるエラーを,医療者個人だけの刑事責任とすることについては,どのようにお考えですか。

福井 大問題ですね。しかし「まったくリスクのない医療行為は存在しない」ことへの患者さん側の認識も不足している。医療者自身が十分リスクを認識したうえで,患者さんにもしっかり理解をしてもらうことが必要です。これまで問われてこなかった「医療の質」が急激にフォーカスされています。いまはその移行期であり,混乱期です。できるだけ早く収まることを望んでいますが,乗り越えるべき時期ともいえます。

――福井先生が監訳された『新たな疫病「医療過誤」』(朝日新聞社刊)ではシステムエラーが根本原因となっている医療事故の実例が,「システム・医師の犯しがちな過誤・結果・治療法」の四部構成で臨場感をもって描かれています。

福井 fail safe-ひとは必ずミスを犯すことを前提にした考え方-を大前提に,システムの根幹まで原因をつきつめる作業が医療事故対策には必要です。すべての医療者がこれを理解し,関わってほしいという願いをこめてこの本を訳しました。いまだ医療事故の原因を根本的なシステムの問題として捉えていない医療者は多いと思います。患者さんにも役立つ本ですが,医療に携わる方,全員に読んでほしいと思っています。

――ありがとうございました。

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