医学界新聞


理学療法の“飛躍への挑戦”に向けて

2007.07.02

 

理学療法の“飛躍への挑戦”に向けて

第42回日本理学療法学術大会開催


 第42回日本理学療法学術大会が5月24-26日の3日間,黒川幸雄大会長(新潟医療福祉大)のもと,新潟市の朱鷺メッセにおいて開催された。「飛躍への挑戦――アウトカムの検証」を大会のテーマとした今回は,理学療法の発展を学術面と職能面の両方で強く意識した内容となった。

 黒川氏は,学術面においては着実な前進が図られているとしながらも,職能面では診療報酬上の厳しい現状等を鑑みると後退を余儀なくされている印象があるとした。また教育面では養成校の急増による理学療法士の質の低下が憂慮されるとしつつも,この不安は多くの期待への裏返しでもあるとし,飛躍への試みをさらに進めていきたいとした。

 今大会は参加人数が4114名,応募演題数は1395演題を数え,盛況であった。会期中は教育セミナー,リバーサイドセミナーなどセミナー関係の講演が数多く催され,会場はどこも立ち見が出るほどの参加者を集めており,中には入場制限せざるを得ないほどの講演も散見された。

 なお,先に郵送にて行われた役員選挙の結果,日本理学療法士協会の会長として半田一登氏(九州労災病院)が当選を果たし,今学術大会より正式に協会長に就任した。


飛躍するための方向性と戦略を議論

 シンポジウム「理学療法(士)が飛躍する方向と戦略」(司会=黒川幸雄氏)では,谷修一氏(国際医療福祉大),浜村明徳氏(小倉リハビリテーション病院),内山靖氏(名大),首藤茂香氏(日本理学療法士連盟,済生会中津医療福祉センター)の4氏が,それぞれの立場から今後理学療法士が飛躍するために必要な方向性と戦略について語った。

 谷氏はこれから理学療法士が飛躍していくうえで必要なこととして,(1)教育水準の維持・向上,(2)専門職としての生涯学習システムの構築,(3)立法に際しての専門職の立場からの提言,(4)政治的な活動の重要性,を挙げた。そして,理学療法士の社会的な存在感をさらに高めるには広く社会的な運動を展開する必要があるとし,作業療法士や言語聴覚士も含めたリハビリテーションの将来像についての議論を,患者団体や社会全体を巻き込んだ形で進めていくべきと述べた。

 浜村氏は,理学療法士の飛躍への戦略として,維持期に活動の場を広げることを挙げ,維持期理学療法の確立には,生活機能低下を改善する理学療法(入所や通所,訪問で集中的に実施するリハビリテーション)と生活機能を維持する理学療法(定期的な評価のうえで適切に実施するリハビリテーション)が重要とした。また新たな活動拠点として,訪問リハビリテーションステーション,短時間通所リハビリテーション,在宅リハビリテーションセンターの設立が必要と述べた。理学療法士の質向上については,組織,職場,個人で総力を挙げて人材育成と自己研鑽に励み,新たな事業の提案とそれへの積極的な取り組み,組織内や地域との連携が大切であるとし,そうすることで社会的認知がさらに向上していくと語った。

 内山氏はまず,現代医療に対するニーズと理学療法の方向性として,その目標に健康寿命の延伸への支援を挙げ,その方法として生活の場に応じた医療の提供と,透明性および説明責任の推進が重要とした。また学術・教育面の飛躍に際しては,将来に向けての継続的な基盤整備のためにpure scienceとしての理学療法学を確立・発展させていくこと,および現在の個別的な課題の解決のために職能に資する実践理学療法学を推進していくこと,をその方向性として挙げ,いずれにおいても理学療法の介入効果を提示することが重要とした。そしてこれからの理学療法士に求められる思考と実践として,対象者に環境への適応を促す課題志向アプローチ(task oriented approach)を実践している理学療法士自らも,dual taskによる社会環境への積極的な適応が不可欠とし,それは学術的側面と職能的側面としての理学療法士(協会)の分化と連携に帰着していくものだと述べた。

 首藤氏は,日本理学療法士協会への提案として組織改革の必要性を挙げ,日本理学療法士協会が発展していくには学術面と職能面を分離することが重要とした。学術・教育面では学術大会,全国研修会,専門領域を拡充し,職能・身分面では,法の見直し,診療報酬・介護報酬,他職種・他団体との折衝,開業権,業務独占への取り組みを強化していくべきと語った。

 その後の討論では,これからの理学療法士が目標とすべきこととして,谷氏は「理学療法士協会の中で意見をまとめ,それを社会に発信していくことが大切」とし,浜村氏はそれに加え「現実的な課題に対する具体的な提案も必要」と述べた。また内山氏は,「対象者,社会のニーズに対して学術・教育をどう適応していくか,生涯学習を組織的な整合性をもって具体的に推進していくことが大事」とし,首藤氏は,「地方議会では理学療法士が議員に当選している時代でもあり,理学療法士自らが理想と考えることを実現させるための努力・発信をしていくことが大切」と語った。また,法律案を作る際のアドバイスとして谷氏は「初めから妥協案を示す必要はなく,理学療法士から見た理想の形,欠けていると思うものを率直に示すべき。その際には,理学療法士だけでなく作業療法士や言語聴覚士も含めたリハビリテーションとして一体に捉えた形で進めるべきではないか」と述べた。

実演を交え歩行分析を解説
日本理学療法学術大会教育セミナーの話題から

 第42回日本理学療法学術大会の会期中の5月26日,教育セミナー「動作分析へのバイオメカニクスの応用」および「観察による歩行分析」(いずれも医学書院協賛)が開かれた。

 上記セミナーは福井勉氏(文京学院大)を座長に,まず「動作分析へのバイオメカニクスの応用」では講師の江原義弘氏(新潟医療福祉大)が,観察による歩行分析のために必要なバイオメカニクスの基礎である,床反力,床反力作用点,関節モーメントについて,どのようにそれらの知識を実際の歩行観察の際に活かすかを講演した。

 続いて「観察による歩行分析」では講師のKirsten Gotz-Neumann氏(The Observational Gait Instructor Group)が,人間の歩行の生理学的,運動学的,運動力学的なメカニズムについて述べ,患者のメインの問題点をどのように見出し,いかに効果的な治療法を考えるかを,ビデオ画像や実演を交えながら解説した。

 また,講演終了後にはNeumann氏によるサイン会が開かれた。氏との記念写真を求める来場者に気さくに応じたり,1人ひとり違ったメッセージをサインに書き添えるなどサービス精神旺盛な氏を前に,氏の著書『観察による歩行分析』(医学書院刊)を手にした聴衆の長い列ができた。