医学界新聞

2007.06.04

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


MIS人工関節置換術

糸満 盛憲,占部 憲,高平 尚伸 訳

《評 者》内藤 正俊(福岡大教授・整形外科学)

MISに役立つ術中写真・図を豊富に収載した実用書

 膝関節と股関節に対する人工関節置換術は整形外科領域で最も成功し,進歩し続けている代表的な治療法である。米国の統計では1994年に行われた人工関節置換術は合計33万3000例(人工膝20万9000例,人工股12万4000例)であったが,2004年には2倍以上の71万2000例(人工膝47万8000例,人工股23万4000例)になっている(National Hospital Discharge Survey)。わが国でも同じ傾向にあり,最近では人工関節置換術を年間数百例以上行う施設が稀ではなくなっている。手術例数の増加とともに手術方法にも工夫や改良が重ねられている。特に最小侵襲手術(minimally invasive surgery:MIS)の概念の導入は,人工関節置換術に新たな発展をもたらしている。

 筆者も後側方アプローチによるMIS人工股関節置換術を行っていたが,さらに他のアプローチによるMIS人工股関節置換術の導入を数年前に思い立った。実施に先だって手術に役立つ書籍を検索したが詳しく書かれたものは見出せなかった。そこで,エキスパートのいる施設での見学を計画し,2005年10月に北里大学病院で糸満盛憲教授執刀による仰臥位前方アプローチMIS人工股関節置換術に手洗いさせていただいた。最小の皮膚切開と無駄のない皮下の展開,臼蓋コンポーネントの設置や脚長差のチェックの容易さ,出血量の少なさ,手術時間の短さ,術後のX線で確認された完璧なインプラントのアライメントなど見事なMISに感動したのをよく憶えている。

 インターネットやマスコミによる影響もあり,MIS人工関節置換術への要望が今後さらに強まっていくと予想される。折も折,MISに関する最新の情報を満載した『MIS人工関節置換術』の日本語訳版が上梓された。MISに精通した海外の7名の編集者が股関節と膝関節でのMISの必要性・歴史・原則,さまざまなアプローチ,将来の展望などを8部構成で包括的にまとめ,北里大学整形外科の糸満盛憲教授,占部憲准教授,高平尚伸講師の3名により訳されている。実際の手術に役立つよう術中写真や図が豊富に提示され,複雑な手術手技もわかりやすい日本語で記載されている。コンポーネントの正確な設置のためのコンピュータ支援整形外科手術(computed assisted orthopaedic surgery:CAOS)についても随所に取り上げられ,MISでの術中の大混乱(CHAOS)を防ぐ手立てとしての将来性も議論されている。

 本書の序で述べておられるようにMIS人工関節置換術はまだ発展段階にあり,明確なエビデンスに乏しい。しかし,通常の人工関節置換術と同じ成績が得られるのであれば,より低侵襲の手術が患者にとって福音となる。関節外科医やこれから関節外科をめざす若い先生方は,ぜひ本書をMISの実用書として役立てていただきたい。

A4・頁304 定価12,600円(税5%込)医学書院


《標準理学療法学 専門分野》
地域理学療法学 第2版

奈良 勲 シリーズ監修
牧田 光代 編集

《評 者》丸山 仁司(国際医療福祉大教授・理学療法学)

小児・成人を含めた地域理学療法を理解する

 地域理学療法学は2003年に初版が出版されたが,今回,改訂第2版として一新された。構成は,第1章:地域理学療法の概念,第2章:地域リハビリテーションを支えるシステム,第3章:地域理学療法の展開,第4章:生活環境の整備,第5章:地域理学療法の実際(各疾患別)であり,初版に比べて内容がたいへん豊富になっている。

 第2章では諸制度,地域連携および社会資源について述べられているが,制度,資源などは大きく変化していることから,改訂されたことで新しい内容となっている。第3章では理学療法士が積極的に取り組む必要がある介護予防,老人保健施設,訪問理学療法の展開から,各職種,施設,地域の連携について全体的に網羅されている。第4章は生活環境整備で,住宅改造,福祉用具の制度などが述べられている。第5章では脳血管障害,骨折などをはじめとする10の実際例が述べられている。評価,注意事項,指導のポイントなど具体的に述べられていることから,学生のみではなく,有資格者にとっても非常に参考になる章である。また,地域理学療法というと高齢者を対象としていることが多いが,ここでは小児,成人も含めていることから,本来の地域理学療法を幅広く包括的に理解することができる。

 また,執筆者は各領域の第一線で活躍している専門家であり,実践者であることから,具体的な内容が多く簡潔にまとめられているため,非常に理解しやすい。

 現在,理学療法士は地域を利用者の生活の場ととらえ,理学療法を実施するうえでADLやQOLを向上させることが非常に重要になってきた。理学療法士は病院などの医療機関のみならず,老人福祉施設,デイケア,在宅などでの活躍も多くなってきている。そのためには,地域のシステム,医療福祉関係の法律などを理解し,社会資源を生かすことは非常に重要である。

 この1冊で地域理学療法の全体像の把握が可能であることから,本書は常に手元に置いておきたい書籍の1つである。

B5・頁288 定価4,935円(税5%込)医学書院


はじめての漢方診療ノート

三潴 忠道 著

《評 者》石野 尚吾((社)日本東洋医学会長)

漢方医学の基本を解説し実践につなげる良書

 (社)日本東洋医学会,漢方専門医・指導医である三潴忠道博士は,千葉大学医学部学生時代から千葉大学東洋医学研究会で活躍され,故・藤平健,小倉重成両先生に直接師事して漢方医学を学ばれた。卒業後は同大学医学部附属病院第2内科で現代医学を研鑽し,その後10年間,富山医科薬科大学(現富山大学)附属病院和漢診療部・寺澤捷年教授の下で漢方診療に従事した。

 1992年,麻生飯塚病院漢方診療科初代部長に就任され現在に至っている。わが国で漢方治療専門での入院施設は非常に少ない。麻生飯塚病院は急性疾患,重症例,難症などの入院治療を行っている数少ない病院のひとつであり,著者はそれら疾患と対峙しオールラウンドに漢方治療に深い経験を積んでいる。

 本書は,序文にもあるように,2005年に出版した『はじめての漢方診療 十五話』(医学書院)の姉妹編であり,前書掲載事項のまとめの役割を果た...

この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook