医学界新聞


求められる財務情報公開と経営戦略

対談・座談会

2007.06.04

 

【対談】

これからの病院ファイナンス
求められる財務情報公開と経営戦略
安藤高朗氏
医療法人永生会永生病院
理事長
福永肇氏
前・国際医療福祉大学医療福祉学部
医療経営管理学科助教授


 病院経営は,診療報酬が上昇傾向にあった時代では,院長自らも率先して医療に専念することで経営は好循環していた。しかし,診療報酬削減,包括的診療報酬制度の導入,一般病棟入院基本料の7対1看護の導入など,病院経営を巡る環境はやさしいものではない。

 今回,著書『病院ファイナンス』で病院の財務・資金調達方法を提言した福永肇氏(国際医療福祉大)と,病院経営に造詣が深い永生会永生病院理事長安藤高朗氏をお迎えし,病院が率先して発信すべき情報,資金調達に必要な知識など病院経営の舵取りを探った。(2007年3月14日収録)


福永 病院経営では平均在院日数の短縮や病床稼働率の向上,診療報酬点数の加点獲得などが重要とされ,院長もこれらの改善に日々努力されておられると思います。しかし,お金が必要となって銀行から資金調達する際に,銀行側が知りたいのは,平均在院日数や病床稼働率という病院業界独特の計数ではなく,貸借対照表や損益計算書といった財務諸表の内容です。銀行から資金を調達するために,病院は財務関連情報を積極的に開示していく必要があると思います。

 最初に病院がどのような時に外部からの資金調達が必要かを整理したいと思います。安藤先生が病院を経営されてきたご経験からお話しいただけますでしょうか。

安藤 第一に,病院の規模拡大や内部のハード面,CT,MRI,PETなど新しい医療機器,手術器材の購入があります。また,病院のほかに介護施設や職員寮といった施設など,病院周囲を充実させる時にも必要ですね。ソフト面では,医師・看護師等のマンパワーの確保,経営マネジメント能力が高い方など人材雇用資金も非常に重要です。

 1970年代後半から1980年代前半に,「かけこみ増床」がありました。この5年,10年を考えると,老朽化による建て替え需要が増すと思います。医療法人や個人病院の場合には,相続税,相続資金といった問題もあります。私の父が亡くなり,私が相続をした時はちょうどバブルの終わりかけでして,出資金に対する相続税率が最高の70%でした。

福永 バブルの終わり頃ですと出資金に対する相続評価額は,すごく大きく膨らみましたでしょう。

安藤 病院の土地は購入時から跳ね上がりましたので,大きく膨らみました。それに出資金のほとんどを両親が出していたこともあります。ちょうど新しい病棟を建築中で,建築費用の借入は負債として棒引きできると思っていたところ,まだ用地をならした段階であったために棒引きすることはできず,税理士に「いちばんお気の毒なパターンですね」と言われてしまいました(笑)。病院経営だけでなく,相続対策もきちんと立てておかなければいけないと身をもって知りました。場合によっては,病院の建て替えと同程度のお金がかかりますので。

資金調達ルートは1つより2つ

福永 病院の事業展開では資金が次から次へと必要となってきますが,病院ではどなたが資金調達を担当されるのですか。

安藤 事務局長をはじめ,財務担当者と私(理事長)が一緒に考え,税理士,公認会計士を含めたチームで考えていきます。借入金用途の内容ですが,病院経営がうまくいっているということも,借りる時の“お題目”だと思っています。悪い経営の場合は,目先の短期資金まで調達しなければならなくなります。財務諸表がしっかりしている状況であれば,長期資金の借り入れを起こすわけですが,経営の苦しい病院では短期資金の調達に奔走すると思います。

福永 短期資金調達に奔走するところもあるのですか……。私は,病院は日々の現金収入があるので短期の運転資金には苦労はなく,課題は長期資金の調達だと思っていました。

安藤 病院業界自体がうまく回らなくなってきているのです。いままで病院は,設備投資等の大きな長期資金の借り入れを主にしてきましたが,いまでは元金を返済できずに運転資金のために金利だけ払っている状態でしょうか。

福永 病院の短期の運転資金調達では,病院には職員が多いので,賞与資金の占める割合が大きいのですか。

安藤 大きいです。しかも東京では,賞与を含む人件費が5割を超える病院がたくさんあります。そういう意味で,病院業界は生産性の悪い業界です。

福永 安藤先生の病院では,長期資金は銀行からお借りになるのですか。

安藤 銀行がメインです。長期資金だけでなく,相続税の時も銀行でした。最初は大手都市銀行で借りていましたが,ご多分に漏れず“貸しはがし”に遭ってしまいました(笑)。前々から,その銀行は貸す時はやさしいけれど,いざとなると大変だと言われていました。支店長さんがすごくいい人だから大丈夫と思っていたら,まさに言われたとおりになりました。そこで前からお付き合いのある別の銀行から借りました。

福永 病院の借入先候補にはWAM(福祉医療機構)もありますが,その時の借入手続きについてはいかがですか。

安藤 わかりにくいですね。まず私一人ではお手上げです。借り方に関しても,例えば,介護老人保健施設をつくる時や療養病床への転換の補助金利用の時には,WAMをある程度使うことが1つの条件のようになっています。病院に体力があるなら,民間銀行から借りるほうが交渉次第で金利を安くできる可能性があるのですけどね。ですがWAMは経営状態にかかわらず金利が固定のため,借りる側には金利が一目でわかるメリットがあります。

福永 民間銀行のほうがWAMよりも安い金利で借りられるというのは,私は初めて聞きました。通常は逆なのですが。

安藤 病院としては珍しいパターンだと思いますよ。金利の話まで銀行と折衝していきますから。銀行とのお付き合いという点で肝心なことは,少なくとも2つ以上の銀行と取引をすることでしょうね。1つの銀行だけですと,先ほどお話しした件のようなことが起きた時に困りますから(笑)。また取引銀行が2つあれば,お互いにいい緊張感を保ちながら折衝できます。

福永 一般的には金利の折衝以前に,まず希望通りの金額を借りられるかどうかが大きな課題なのですが,最初から金利の話までできるのは永生病院だからでしょうね。

安藤 病院業界全体で考えると,必要な額を貸してくれるか否かの課題のほうが大きいと思います。これからは銀行が病院にお金を貸し出すのは,ますます厳しくなっていくと思います。

福永 銀行は「なかなか貸してくれない」のでしょうか。

安藤 やはり,経営内容,財務状況がよくなければ難しいですね。

福永 返済計画の検討において財務諸表の内容はとても大切ですから,見る目が厳しくなってしまうのでしょうね。「返済できるか」「返済できないか」が銀行の審査のポイントです。返済に不安があれば,充分な担保があっても貸さないでしょう。担保の病院不動産を売却して返してもらうのは,現実には困難ですから。

■経営を巡る病院の視点・銀行の視点

福永 病院経営を十分に理解ができている銀行は,たぶん多くはないでしょう。その原因の1つに,病院側が財務や経営内容を積極的に開示していないことがあげられます。社会保険を使い,またWAM借入とか補助金が交付される医療機関に対しては地域社会や債権者(銀行)の理解を得るためにも,財務諸表を主とする情報の開示と透明性が要求されてくると考えています。

安藤 私も財務諸表の開示は必要だと思います。例えば特定医療法人,特別医療法人,社会医療法人などを取得する際,財務諸表を開示しないと認められません。ですから,これら法人格の取得をめざしていく病院は,財務諸表の開示をしていくことになります。株式会社は開示していますので,病院も同様に開示していくのがよいでしょう。

福永 病院が財務諸表や決算によってランク付けされ評価される可能性もでてきます。ただ心配なことは,「財務内容のよい病院は,経営に加え医療提供の質もよい病院」という捉え方を銀行がしかねないことです。

安藤 福永先生の本の中にもありましたが,定量評価と定性評価みたいなものですね。病院としては,「質」と「経営」の両方を見てほしいと思います。「質」は,急性期病院でした...

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