医学界新聞

寄稿

2007.05.21

 

【Medical Frontline】

慢性閉塞性肺疾患(COPD) 現状と課題

相澤久道(久留米大学医学部呼吸器・神経・膠原病内科教授(第一内科))


 COPD(慢性閉塞性肺疾患:Chronic Obstructive Pulmonary Disease)が世界的に重要視されているのは,(1)有病率と死亡率が高く,しかも今後急激に増加することが推定されている,(2)ほとんどの患者さんは未診断のまま放置され,重症化してはじめて受診するため,医療経済的に重要な問題となっている,(3)これまで有効な治療法がないと思われていたが,治療により改善するとわかってきたこと,などによります。

 したがって,COPDは積極的に診断し治療する疾患であるという概念が定着してきました。しかしながら,まだこのような認識は十分でなく,今後更なる啓発活動が必要な代表的疾患となっています。

COPDの実態とその重要性

 WHOの調査では,COPDは世界の死亡原因の第4位にランクされており,2000年には世界中で274万人が死亡したと推定されています。さらに,今後数十年の間に死亡率は増え,2020年には死亡原因の第3位となると予測されています。また,社会的,経済的負荷も,1990年には第12位ですが,2020年には第5位になると推定されています。米国では,COPD患者は約1500万人と推定されており,45歳を超える人々の死亡原因の第4位となっています。また,1965年から1998年の間に,他の疾患による死亡率は減少しているのに対し,COPDによる死亡率だけが約2.5倍と著しく増加しています。

 他の欧米諸国でも45歳以上のCOPD有病率は5.5-9.5%と報告されていますが,わが国の厚生労働省からはCOPD患者数は約20万人と報告されていました。ところが,2001年に発表された大規模疫学調査研究であるNICE Study(Nippon COPD Epidemiology Study)の結果では,日本にも約530万人の患者さんがいることがわかりました。これは40歳以上の8.5%であり,諸外国と同じく高い有病率です。日本ではCOPDは少ないと考えられていましたが,実際には多くの患者さんがいるのにきちんと診断を受けていないという実態が浮き彫りにされました。

 このように,COPDが過小評価されているのにはいくつかの要因が考えらます。患者さん側の要因としては,第一には症状が徐々に進行するためそれが異常であると考えないこと。第二には,もし自覚しても年のせいだと考え放置されてしまうこと。第三には,「煙草を吸っているからこの程度は仕方がない」という諦めや開き直りがあります。医師側の要因としては,第一には「COPDは非可逆性の疾患であり,治療法がない」という消極的な考えがあり,第二にはCOPDの診断にもっとも有効であるスパイロメトリーの普及率の低さがあげられます。これらの患者側,医師側の要因を取り除いていくことが今後不可欠な急務であると考えます。

 社会的にみてもCOPDの経済的コストは高く,かつ人口の高齢化,有病率の増加にともなって増加を続けると予想されます。とりわけ,重症患者にかかるコストは軽症患者に比べはるかに高くなるため,この点からもCOPDの早期発見が重要な課題となってきます。

COPDの病態と診断

 日本呼吸器学会作成のガイドラインでは「COPDとは有毒な粒子やガスの吸入によって生じた肺の炎症反応に基づく進行性の気流制限を呈する疾患である。この気流制限には様々な程度の可逆性を認め,発症と経過が緩徐であり,労作時呼吸困難を生じる」と定義されています。これまでは,肺気腫および慢性気管支炎と別の疾患概念で考えられていましたが,両者には原因や病態で共通した点が多いことや,殆どの患者さんは肺胞と気道両方の病変を有していることなどから,COPDと同じように考えられるようになりました。

 原因の大半は喫煙です。煙草は,末梢気道に...

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