医学界新聞


多角的視点で考える「臨床研修の光影」

2007.05.14

 

多角的視点で考える「臨床研修の光と影」

第25回臨床研修研究会の話題より


 第25回臨床研修研究会が4月14日,東京ドームホテル(東京都文京区)において開催された。国立病院機構東京医療センター(院長=松本純夫氏)が当番病院を務めた今回は,「臨床研修の光と影」をテーマに,基礎医学の将来や後期研修の観点からも議論された。


選択科研修が将来の進路に影響?

 「後期臨床研修の展望と初期臨床研修への提言」(座長=東医歯大・大川淳氏,国立病院機構東京医療センター・臼井宏氏)では,非必修診療科や医師不足の深刻な診療科などの視点も踏まえ,初期および後期研修の課題を検証した。

 病理専門医試験の合格者は近年減少傾向にあり,平均年齢は51歳と高齢化。300床以上の病院に常勤病理医がいるのは半数あまりで,日本の病理診断の7割近くが衛生検査所経由である。病理医の堤寛氏(藤田保衛大)はこうした現状を紹介するとともに,日本病理学会の病理医確保の取り組みを紹介し,病理医育成の必要性を訴えた。さらには,日本の監察医制度が貧弱であることを指摘し,法医研修まで視野に入れた卒後研修の再構築を提言した。

 国立病院機構は,卒後3年目以降の研修を「専修医制度」として位置づけ,いちはやく体系化を進めてきた。同機構医療部長の牛尾光宏氏は,制度の概要を説明したうえで,昨年度は167名の研修を実施,そのうち7名が3か月間の海外研修を行ったと述べた。また,今後は修了認定の取り扱いとともに,指導体制の強化やキャリアプランの構築を課題に挙げた。

 続いて水上尚典氏(北大)が,社会的関心事となっている産婦人科医不足の問題から今後の臨床研修のあり方を提言した。氏は産婦人科医減少の背景として,長時間の拘束と医療訴訟圧力の2点を指摘。研修必修化は「周産期医療体制に内在していた問題を一気に顕在化させた」としながらも,「(分娩施設の集約化やガイドラインの作成など)改革を後押しする原動力にもなった」と肯定的評価を示した。

 東医歯大は2年目の選択科が8か月(4か月×2科も可)と長期に及ぶ。大川氏は研修医に対するアンケート調査の結果から,選択科研修が将来の進路に大きな影響を与えている可能性を示唆した。また選択科研修では,将来の希望科だけでなく,その科で役に立ちそうな関連診療科の選択が半数を占めていることや,「進む可能性の低い診療科で臨床を経験できるのはよいこと」という研修医の声も紹介。選択科を長期とする柔軟なプログラムの利点を強調した。

 「初期研修の聖路加」から「初期+専門研修の聖路加へ」――。聖路加国際病院では,3-6年目の専門研修医を増員(現在63名)し,初期研修医からの業務移行と各科の活性化を図っている。同院専門研修医の堀之内秀仁氏は,「優れた専門研修施設であって初めて,初期研修医が集まってくる」と強調。専門研修における研修内容の明文化や,後輩の初期研修医教育の義務化などの取り組みを紹介した。

労働時間制限は賛否両論

 定例の「厚労省と文科省の協議」においては,国立病院機構における実態調査が報告されたうえで,研修医の労働環境が話し合われた。

 協議の中では,医療安全面や研修医のメンタルヘルスに配慮が必要との観点から,米国などで研修医の労働時間に一定の制限(「週80時間以内」など)があることが話題となった。しかし時間を指標とすることには,「日本の実情にあうのか」「研修医だけ制限すれば,上級医がカバーしないといけない。全体で議論すべき」など,慎重な意見も相次いだ。一方で,「(研修時間よりも)当直明けの勤務に対する措置をまずは優先すべき」と,医療事故の直接的原因となる当直明け勤務に対し,早急な対策を迫る意見も出された。なお,今回は厚労省・文科省の担当官のほか,新たな試みとして中央労働基準監察監督官も加わり,意見交換が行われた。

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