脳低温管理の完全自動化へ(若松秀俊,大野喜久郎)
脳挫傷,脳梗塞,脳出血,心筋梗塞などに福音を願って
寄稿
2007.04.30
【寄稿】
脳低温管理の完全自動化へ脳挫傷,脳梗塞,脳出血,心筋梗塞などに福音を願って
若松秀俊(東京医科歯科大学大学院教授・保健衛生学研究科)
大野喜久郎(東京医科歯科大学大学院教授・医歯学総合研究科)
東京医科歯科大学の生体機能支援システムと関連教室の研究グループが高度な救命救急医療システムを開発した。これは全身生理状態の連続監視システムと連動した,急性脳障害の長期間にわたる低温治療のための脳温自動制御システムである。同大学倫理委員会で承認を得て,現在臨床応用試験の段階にある。
脳を低温に一定期間維持することは急性脳障害の治療に有効であることが確認されているが,効果的な脳温を得るための全身冷却には免疫系や呼吸・循環系の正常機能を大きく侵襲する危険性があり,治療には精密な温度管理を要する。この,システム制御理論に基づいた厳密な脳温管理の完全自動化により,医療従事者の負担を軽減すると同時に,脳低温療法を「誰でもどこでも」受けられる治療法として普及させることが可能となり,救命救急医療や回復過程の医療だけでなく医療経済にも大きく貢献できると考えている。
本研究グループでは,表面冷却法による速やかで精確な水冷,空冷の脳温制御システムを開発して臨床応用に備えていること,また空冷式では救急車に搭載したり,一般家庭でエアコンと組み合わせて医師不在の場合にも十分に対応できることを紹介し,同時にこの医療分野の臨床専門家による多方面からの諸々のご支援を願うものである。
医学的観点から
林成之博士らによって確立された脳低温療法は,頭部外傷や虚血性脳疾患など脳に重度の障害を受けたとき,冷却により神経細胞の二次的な壊死を防ぐ治療法である。これによって,多くの場合死に至った患者が後遺症も少なく多数蘇生し,近年では心停止患者の治療にも応用されている。この方法は,ホルモンバランスや脳血流,酸素供給など脳温と脳圧などに影響を及ぼすあらゆる因子を視野に入れた全身状態の管理である。その中で,脳の重度障害時に脳温を数日から数週間にわたって32―34℃に冷却することにより,主としてエネルギー不全細胞死の抑制と神経内分泌過剰反応の抑制が認められている。前者についてはCa2+の恒常性の改善,フリーラジカルの作用抑制,抗アポトーシス物質の活性化,ドーパミンA10神経群障害の抑制によるものである。後者については,視床下部―下垂体―副腎系の過剰反応によるカテコールアミン過剰に起因する障害脳細胞の回復阻害である。ところで,32℃以下の低体温ではエネルギー代謝低下による障害細胞の回復阻害や循環系不全の危険性がある。したがって,二次的障害の防止と回復効果のある脳低温を精確に保つうえで,生理的に安全な範囲内の体温制御によってのみ救命率向上が保証される。すなわち,そのシステムの性能如何にこの記事はログインすると全文を読むことができます。
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