初期臨床研修における当直のあり方(山崎芳郎,清野佳紀,花岡成典,長沼達史)
スーパーローテート時代の研修医当直事情
2007.03.12
【特集】
スーパーローテート時代の研修医当直事情
初期臨床研修における当直のあり方
大阪厚生年金病院の場合
山崎芳郎,清野佳紀(大阪厚生年金病院)
病院名:大阪厚生年金病院
(協力病院:阪大病院,大阪市大病院,大阪船員保険病院など) 病床数:570床 常勤医師数:131人 研修医数:1年次14人,2年次12人,計26人 病院の特色:24時間対応の小児救急や,24時間対応できる分娩などの救急診療によって,地域の救急医療体制を支えている。また2006年より救急部が「プライマリケア教育研修センター」に変更され,救急疾患を診療する場であるとともに,研修医に対し,救急・プライマリケアを教育・研修する場と位置づけされた。 |
1年目10月より見習い当直開始
大阪厚生年金病院における初期研修カリキュラムのうち,救急医療については,救急部(現プライマリケア教育研修センター)で,1年次に1か月間の時間内研修と,病院システムに慣れた10月からの時間外救急当直補助(見習い研修)に従事している。さらに,2年次には救急上当直医(メンバーは後期研修医から診療科部長に至る)とともに月平均4回の救急当直に従事し,年間平均約4000件の救急車搬送症例をはじめとした,主に1・2次救急の初期診療に携わっている。当院の当直システムは救急の他,内科・循環器科・外科・脳神経外科・整形外科・ICU・小児科・産婦人科の計10名の当直医から構成されており,研修医は各専門領域の医師に随時コンサルテーションできる連携形態が整備されている。
一方,救急以外の診療科研修時は,入院患者の副担当医として研修することが多く,受け持ち患者の急変時や重篤な状況に陥った際に自主当直をする機会はあるものの,当直の義務はない。ただし,2年次ローテート必修診療科である小児科と産婦人科では,研修到達目標や社会的ニーズも考慮して小児救急と分娩に接する機会増加を期し,適宜副直させる体制をとっている。
当直業務に関する安全管理については,研修医は前述の各上級医師に必ず相談し,指導・指示を仰ぐサポート体制を構築。研修医単独当直を回避することで医療安全の確保が維持されているが,その分,指導する立場である上級医師の精神的・肉体的負担が増加しており,今後の課題と考えている。
初期臨床研修における当直はプライマリケア習得を念頭に
厚生労働省が通達した新医師臨床研修制度の3原則は,(1)医師としての人格涵養,(2)研修に専念できる環境の構築,(3)プライマリケア能力の習得であるが,当院ではこの中でもプライマリケア能力の習得を最重要課題と考え,救急診療を研修の全期間を通じて実施している。初期研修開始当初は救急部が担当していたが,現在では,2006年1月に設立したプライマリケア教育研修センター所属の医師が研修指導にあたり,その結果,研修医に多くのcommon diseaseに遭遇する機会を提供できるようになった。当直も,そうしたプライマリケア能力習得の一環と位置づけている。
なお,当直勤務形態は見習い当直から始まり,その研修態度と到達度を評価して次のステップアップ可否を判定するようにしているが,現時点ではインシデント報告に対する注意勧告のみであり,重大な医療過誤に結びつく事故は経験しておらず,研修不適格医師もみられず円滑に実施されている。
しかし,当院の当直研修システムを今後も維持するためには,(1)指導医への精神的・肉体的負担の軽減,(2)質の高い熱意ある指導医の確保,(3)労働基準法に基づく週40時間労働の制限,(4)医療の安全管理と研修の主体性確保,(5)当直代を含む処遇の改善などの課題が山積しており,1年後に予定されている研修制度の見直しも考慮に入れた早急な対応の必要性を痛感している。
初期臨床研修における当直のあり方
小豆沢病院の場合
花岡成典(小豆沢病院)
病院名:小豆沢病院
(協力病院:帝京大学救命救急センター,板橋中央総合病院,東京都老人医療センターなど) 病床数:134床 常勤医師数:15人 研修医数:1年次1人,2年次3人,計4人 病院の特色:小豆沢病院を中心に,7診療所と老人保健施設を含む11の介護施設を有し,板橋,練馬,北の3区にまたがり地域に密着した医療を行っている。地域の患者にとって第一線医療機関として,患者が最初にかかる医療機関であり,common diseaseや慢性疾患,まれに来院する難病患者などを見逃さず的確に診断することが重要となる。 |
当院初期臨床研修における当直の進め方
当院は第二次救急医療機関であり,救急件数は年間約6000件(うち診療時間外約5700件),救急車取扱件数は年間約1000件(うち診療時間外約600件)の受け入れを行っている(2005年度実績)。当直業務としては時間外の外来救急受け入れおよび病棟での時間外救急業務を行っているが,初期臨床研修としての当直業務は時間外外来救急の担当を行うこととしている。そのため当院での研修中には各科当直は行わず,当直業務としては救急部当直のみである。ただし当院の外来救急は内科・外科・一部小児科の受け入れを行っているため,外来で担当する疾患は多岐にわたる。
また当院は付属施設として7診療所と老人保健施設を含む11の介護施設を有しているため,これらの施設で対応が必要な場合の時間外受け入れも行っている。さらに診療所では往診も行っているため,在宅で病状が悪化した場合,外来救急にて受け入れを行い対応することもある。往診患者は...
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