医学界新聞


SSRIと自殺を巡る論争

2007.01.22

 

SSRIと自殺を巡る論争

デイビィッド・ヒーリー教授来日講演会より


 2006年12月1日,西新宿ホール(東京都新宿区)にてデイビィッド・ヒーリー氏(英国・カーディフ大教授)の来日講演が行われた。ヒーリー氏は抗うつ薬として広く使用されているSSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors)による自殺企図などセンセーショナルな内容を扱った『抗うつ薬の功罪――SSRI論争と訴訟』(みすず書房)の原書『Let Them Eat Prozac』(New York Univ Pr)の著者である。

 SSRIであるプロザックは米国において「better than well」の状態をもたらす薬剤として流行し,プロザックを含め抗うつ薬は2005年に抗精神病薬の売上げをはるかに超える203億ドルの巨大市場に膨れ上がっている。

 しかしプロザック服用による自殺の危険性についてはあまり触れられてこなかった。1990年代までにプロザック服用中,急激に自殺願望が強くなった6名の患者に関して記した論文1)や研究により,プロザックの投与・中止と自殺の間に明瞭な容量反応関係があること,そして不安症患者の自殺はプラセボ投与患者のほうが薬物治療を受けた患者より少なかったことなどが発表された。

 このような自殺企図への懸念に対し,製薬企業は反論を展開するが,その中には効果と安全性に関する論文における,医師・研究者ではない者の手によるゴーストライティング問題,臨床試験論文におけるデータの改竄,好ましい結果が得られるまで実験を繰り返す手法など統計学の誤用などがみられた。そして企業を守る形で登場するEBMやランダム化比較試験のデータが捏造されているものもあると指摘。

 こうした背景としてグローバル化した巨大製薬業界が,疾患や障害の枠組みそのものを市場戦略と一体とし,マーケティング,病気の売り込み(disease mongering)で販路を拡大させている現状についても言及した。

 最後に,女流詩人シルヴィア・プラス氏の自殺の原因について,「抗うつ薬(フェネルジン)を服用したためかどうかを知る術はない。しかし,抗うつ薬を服用したために死に繋がった可能性があり,そういう人は大勢いる」と述べ,服薬前に危険性について説明し,投与後は患者を注意深く観察し,医師が患者にあった抗うつ薬かを調査することが重要と指摘。今後は「どの患者にどの抗うつ薬が適しているかの調査が進めば改善されるだろう」と期待を込めて講演を閉じた。

 なお,昨年,FDA(米食品医薬品局)は,主要な抗うつ薬について372件,計約10万人分の治験データを調べたところ,25歳以上は加齢とともに抗うつ薬服用者のほうが自殺率は低下し,65歳以上ではきわめて抑制的に作用する。一方で,25歳未満の自殺リスクが1.5倍,18-24歳層で自殺を準備・未遂する確率に限ると2.3倍になるとの報告書をまとめた。

 このことから若年成人において,投与中に自殺行動のリスクが高くなる可能性が報告されているため,投与後には注意深く観察することと注意が喚起されている。

 なお,小社刊行の『精神看護』3月号にて田島治氏(杏林大)が来日講演の印象記をレポートする予定である。

(参考)SSRI訴訟の裁判記録HP
http://www.healyprozac.com

1)MH Teicher, et al: Emergence of Intense Suicidal Preoccupation During Fluoxetine Treatment, American Journal of Psychiatry, 147, 207-210, 1990

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