第5回前頭側頭型認知症国際カンファレンス(田邉敬貴)
5th International Conference on Frontotemporal Dementia
寄稿
2007.01.22
【印象記】
第5回前頭側頭型認知症国際カンファレンス5th International Conference on Frontotemporal Dementia
田邉敬貴(愛媛大学大学院教授・脳とこころの医学)
スウェーデン以外で初の開催
昨今65歳未満発症の若年性認知症の問題が注目されているが,若年性認知症をきたす脳変性疾患でアルツハイマー病に次いで多いのが,本学会のメインテーマの広義のピック病である。本会はLund大学老年精神医学Lars Gustafson先生を中心とするLundのグループとManchester大学神経内科David Neary先生を中心とするManchesterのグループの主導で,前頭葉から側頭葉に変性の主座を有し,認知症を呈する非アルツハイマー型変性性認知症への理解を深めるために企画された。第1回1986年,第2回1992年,第3回1998年,そして第4回2003年といずれもスウェーデンのLundでLars Gustafson教授の主催で行われた。Gustafson教授の停年退職に伴い,今回初めてLundを離れUCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)のBruce Miller教授の会長のもと,サンフランシスコで2006年9月6-8日の3日間開催された。
介護者対象のセミナーも
筆者は第3回から呼んでいただいているが,今回は以前にもまして参加者が多く,世界各国からの各分野の専門家だけでなく,ケアスタッフ,家族会の方々を合わせ500人強が集い,口演とポスターの形で,病因,病理,臨床,ケア,治療等々のさまざまな側面からの発表と活発な議論が交わされた。とりわけ今回は介護者を対象としたセミナーも組まれ,筆者とともに招待された池田学助教授(現熊本大学教授)は治療のセッションで薬物療法とともに大切なケアの方法について,ルーティーン化療法をはじめ具体的な取り組みを示し注目を集めた。光栄なハプニング
![](https://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2007dir/n2716dir/n2716gif/n2716_06.gif)
気になった点
1)患者さんを症候学的に診るよりも,テスト重視あるいはテスト依存の傾向が甚だしい。例えば左側頭葉に顕著な萎縮を有し語健忘は明らかであるが,了解障害が目立たなかった貴重な剖検例を報告したアメリカの学者と話をすると,もっと詳細なテストをすれば了解障害が明らかになったと思うとの由である。語義失語像を呈する意味性認知症例は診察時の対話で,例えば「ききて(利き手)って何ですか」というふうに,その印象的な語義理解の障害が露呈する。彼らの症例の失語像は健忘失語であり,超皮質性感覚失語の特殊型である語義失語では決してない。筆者らは今回ポスターセッションで,側頭葉に顕著な萎縮がありながら語義の障害が明らかでなかった症例を剖検例を交えて報告した。2)上述のように側頭葉に萎縮があれば語義が必ず障害されるわけではない。アメリカをはじめ多くの研究者が萎縮部位イコール臨床症状と考えていて,volumetric studyで臨床がすべて解ける,という困った考えを持っている。例えば失語では有名な学者が「前頭葉優位型ピック病でも語義失語あるいはsemantic dementia像を呈する」と発表していたが,前頭葉優位型ピック病で側頭葉の萎縮が著明になっても,決してきれいな語義失語像は生じない。健忘失語や軽い超皮質性感覚失語像を呈することはあるが。こういう誤解の背景には,脳変性疾患例の場合横断的にしか患者さんを診ていない,あるいは脳血管障害による失語の経験が乏しい,といったことがあるのかもしれない。
3)1)と関係するが,もっと困った根本的な問題は,認知症の患者さんを診ようともせず,co-medicalのスタッフに長谷川式やMMSE(Mini-Mental State Examination),あるいはもう少し複雑なバッテリーで評価させ,それをエビデンスと称して,数字が一人歩きする事態である。
なお,次回は2008年オランダでJohn C. van Swieten博士が主催する予定である。
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