自己免疫性膵炎(神澤輝実)
日本から世界に発信した新しい疾患概念
寄稿
2007.01.22
【寄稿】
自己免疫性膵炎日本から世界に発信した新しい疾患概念
神澤輝実(東京都立駒込病院内科医長)
自己免疫性膵炎は,発症に自己免疫の関与が疑われる膵炎で近年注目されている。自己免疫性膵炎臨床診断基準2006によれば,画像上膵の腫大と膵管狭細像を認め,さらに血液検査で高γグロブリン血症,高IgG血症,高IgG4血症ないし自己抗体を認めた場合か,病理組織学的に膵にリンパ球と形質細胞を主とする細胞浸潤と繊維化を認めた場合に,本症と診断される。高齢の男性に好発し,膵癌との鑑別が肝要である。閉塞性黄疸で発症する例が多く,膵炎発作を呈することは稀である。ステロイド治療が奏功する。自己免疫性膵炎患者では,多彩な膵外病変を認め,さらに全身諸臓器にIgG4陽性形質細胞の浸潤を認めることより,本症はIgG4が関連した全身疾患(IgG4関連硬化性疾患)である可能性がある。
はじめに
近年,その発症に自己免疫の関与が疑われる自己免疫性膵炎が注目されている。本症は,日本から世界に発信した新しい疾患概念であるが,その歴史は浅く,まだ10数年である。咋年には,自己免疫性膵炎の新しい診断基準が発表された。一方,われわれは,自己免疫性膵炎は全身疾患である可能性を報告してきた。自己免疫性膵炎について,最新の動向を含め,解説する。臨床症状
本症は,高齢の男性に好発する(自験33例は男性27例,女性6例,診断時平均年齢66歳)。閉塞性黄疸で発症することが多く,腹痛や背部痛などの膵炎症状を呈する例は稀である。約半数の例で糖尿病を合併するが,ステロイド治療により耐糖能の改善がみられることがある。診断
本症の診断においては,膵癌や胆管癌などの腫瘍性の病変を否定することがきわめて重要である。診断困難例では,内視鏡的な病理組織学的アプローチやUS(超音波)やEUS(超音波内視鏡)下での膵生検を施行すべきである。自己免疫性膵炎臨床診断基準2006では,膵管狭細像と膵腫大の画像所見が必須であり,これと免疫学的血液検査所見ないし病理組織学的所見の組み合わせにより診断する。
内視鏡的逆行性膵管造影(ERP)における細くて壁の不整像を伴う膵管狭細像(図1)と膵腫大(図2)は本症に特徴的である。典型例では“ソーセージ様”のびまん性の膵腫大を呈するが,限局性腫大を呈する例では膵癌との鑑別が困難なことがある。CTでは,膵腫大部に造影後正常膵とほぼ同様の造影効果が得られることが多く,膵癌との鑑別に有用である。下部(膵内)胆管に狭窄を伴うことが多いが,上部胆管や肝内胆管に狭窄を認め,原発性硬化性胆管炎(PSC)様の所見を呈する例もある。
血清学的には,50-70%の症例で,高γグロブリン血症,高IgG血症,または自己抗体(抗核抗体,リウマチ因子など)陽性を示す。さらに本症では,IgGのサブクラスであるIgG4の血中値の上昇が高率に認められる。血中IgG4の上昇は,膵癌や他の慢性膵炎ではほとんどみられないことより,本症にかなり特異的で,他疾患との鑑別に有益である。
病理組織学的には,著しいリンパ球と形質細胞の浸潤と膵小葉間間質を中心とした線維化が特徴的である。この炎症性細胞浸潤と線維化は,膵周囲組織を越え十二指腸壁や後腹膜まで及び,また膵周囲リンパ節も腫大する。
治療
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