医学界新聞

2007.01.22

 

感染者の少ない今こそ予防投資を

第20回日本エイズ学会開催


 さる11月30日-12月2日の3日間,第20回日本エイズ学会が,日本教育会館(東京都千代田区),他で開催された。節目となる第20回では,初めてNGO代表者である池上千寿子氏(ぷれいす東京)が会長を務めた。「Living Together-ネットワークを広げ真の連携を創ろう」をテーマに,治療の向上により,致死的病から慢性疾患へと変容したHIV/AIDSの高齢化問題など,患者と社会の交わり,個々人に適したHAART(Highly Active Antiretroviral Therapy)を選択するための遺伝情報解析・応用など幅広いテーマについて議論された。


 会長講演で池上氏は,日本のエイズの現状について,感染対策予算の削減,特定医療機関への患者集中,性教育・予防啓発教育への攻撃などを問題点として挙げた。そしてHIV/AIDSは当事者意識が非常に希薄であることや長期的戦略の構築と実施責任が不明確な点を指摘。感染の少ない今こそ予防投資が必要と強調した。

 また,ともに生きる仲間として,性の健康の維持・促進(自助),予防とケアの環境整備・プログラムの展開(互助),医療/福祉サービス提供・対策の実施と評価(公助)が三位一体となり,取り組んでいくことがHIV/AIDSの有効策と述べ,他人事と考えるのではなく,当事者意識を持って市民・医療従事者・国が取り組んでいくべきと語った。

HAART導入前後の対策と服薬アドヒアランスの重要性

 シンポジウム「より良いHAARTに向けて」(座長=東京逓信病院・木村哲氏,大阪医療センター・白阪琢磨氏)では,はじめに座長を兼任する白阪氏が初回HAARTの考え方について登壇。近年,薬剤開発により,1日1回の服薬でよい抗HIV薬など薬剤の選択肢は拡がっている。しかし,初回療法が失敗すると薬剤耐性を獲得したHIV株が出現し,交叉耐性の影響で選択肢は大幅に狭まってしまい再治療による治療成功確率が減少するなど,初回HAARTと服薬アドヒアランス維持の重要性を強調した。

 続いて味澤篤氏(都立駒込病院)は1997-2001年8月の間にHAARTを初回導入し,2006年8月まで経過を追った185例に対して治療開始期から見たHAART臨床効果を調査。185例中19例の死亡を認め,高齢・導入時AIDS発症例では有意に死亡例が多く,導入時のCD4<100においても死亡例が多かったと報告した。

 松下修三氏(熊本大エイズ学研究センター)はHAART長期治療の問題点として,(1)薬剤耐性の蓄積リスク増加,(2)抗ウイルス薬の長期使用による慢性毒性の顕在化,(3)潜伏感染細胞の長期残存による排除困難を挙げ,治療開始前に十分な説明が必要と強調。また,薬剤耐性が検出された場合は,耐性が出現した理由を患者とともに考え,繰り返さないようにすることが重要と指摘した。そして,耐性検査が陰性であっても耐性は否定できないことを認識し,薬剤の変更を可能な限り専門医に相談してほしいと訴えた。

 潟永博之氏(国立国際医療センター)は抗HIV薬を投与する前にSNPs解析,遺伝子解析により副作用を回避する例として,efavirenz(EFV)代謝酵素CYP2B6の遺伝子型に基づく減量投与を紹介。日本人に関して,CYP2B6の516TTの患者は通常EFV600mgを400mgに下げて投与開始し,さらに400mg投与時に血中濃度が18000nM以上であれば200mgに減量できる可能性を示唆した。

 濱口元洋氏(名古屋医療センター)は,HAARTによりHIV/AIDSの予後は改善された一方で,免疫不全改善過程で起きる免疫再構築症候群(IRS)への対応について症例を提示しながら口演。HAART後にIRS発症を64例中10例で認め,結核,播種性MAC(非定型抗酸菌症)感染症ではきわめて高率にIRSを発症した。また結核,MAC症例ではIRSが長期化する症例があり,prednisolone(0.5-1.0mg/kg)の長期投与が必要となる場合があったが,ほとんどの症例でprednisoloneの投与によりIRSの軽快が認められたと報告した。

 城崎真弓氏(九州医療センター)は服薬アドヒアランスを良好に維持していくためにも,服薬継続可能と患者の意思決定ができるように関わっていく必要性を強調。また患者教育や服薬スケジュールの立案などのほか,生活基盤の安定やサポート体制を整えることが重要であり,この準備ができていないために服薬継続困難な例があったと述べた。

【インタビュー】

なぜ米国でHIV検査はルチン化されたのか?


 米国では2006年9月にCDCがHIV検査のガイドラインを改訂し,医療機関を受診する13-64歳を対象に一律にHIV検査を行うようになった。その背景をIDSA(米国感染症学会議)のHIV感染症ガイドラインの執筆者であるDr. Judith Aberg氏に,堀成美氏(日本エイズ学会理事)が聞いた。


 なぜガイドラインが改訂されたのでしょうか。

Aberg これまで,妊婦以外は「医師がハイリスクと考えた人たち」が検査対象でした。しかし,診断が遅れて重症化するケースが増加し,感染も拡大しています。今回,より積極的な検査推奨となった背景には,治療が進歩し早期に適切な治療を行えばエイズでは死なない時代になったことが大きいです。

 一律に検査を勧めると感染リスクの低い人も含まれますが,そのコストはどのように考えられているのでしょうか。

Aberg 結果が陰性でも,検査を受けることで自分の行動を振り返る機会になります。検査費用は平均4ドルで,予防教育と考えれば無駄ではありません。早期診断により重症化を防げ,他への感染予防ができればその分の医療費抑制が可能です。米国ではコストに見合うと判断されました。

 忙しい現場で検査を行うためにどのような工夫をされていますか。

Aberg 迅速検査キットで結果は20分後にわかります。ガイドライン改訂で検査前後のカウンセリングが不要になりました。検査同意も口頭でOKになり,中性脂肪や血糖値と同じように検査をします。エイズを特別視した古い考え方を改めるのも新しいガイドラインの狙いの1つです。

 実際に感染者の早期診断につながったのでしょうか。

Aberg ニューヨークでは他地域より早期に導入した結果,検査数は前年度6万件から9万件に,陽性者の発見も700人から1500人と倍以上になりました。

 今後の課題は何でしょうか。

Aberg HIV感染後に必要な治療費は月に2000-2500ドルと高額であり,陽性者への医療費確保が大切です。また陽性者と性的接触のあった人たちへの拡大検査(Contact Trace)も重要だと考えています。

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