ベトナムでの頭部外傷研修(井上雅人)
寄稿
2007.01.15
【寄稿】
ベトナムでの頭部外傷研修
井上雅人(国立国際医療センター救急部レジデント)2005年9月から2006年10月にかけて,ベトナム社会主義共和国,ホーチミン市のチョウライ病院にて主に頭部外傷手術の研修を行う機会を得たので,ベトナムの医療の実際とともに述べたいと思います。
ベトナムは東南アジアにある発展途上国のひとつで,近年急速に発展してきており,経済の発展に伴い人々の移動手段も変化してきています。10年前には自転車が主な移動手段だったのが,現在では多くの人がバイクを所有し,移動に使っています。しかし交通環境の整備は遅れており,信号機の設置や,交通法規の整備は現在少しずつ進められている最中です。特にヘルメットの着用は都市部ではいまだ義務化されておらず,地方でも実施率は低いため,交通事故での頭部外傷が非常に多いです。
また,保健衛生の面では,病院数,医師数ともに不足しており,特に地方での医療レベルはホーチミン市などの大都市と大きな違いがあり,大都市に患者が集中しています。とりわけ大きな病院に患者は集中し,手術件数なども,都市部の大病院では非常に多くなっています。
年間4000件の頭部外傷手術,当直の脳外科医は10人
チョウライ病院はベトナムで最も大きな病院のひとつであり,病床数は1600床,32の科がある総合病院です。年間の救急外来受診者数は8万4000人で,1日平均200人という非常に多数の患者を診ています。予定手術件数は1万5000件で1日平均50件,緊急手術件数は1万3000件で1日平均40件と,非常に多数の手術を行っています。緊急手術では特にバイク事故による頭部外傷に対する手術が非常に多く,年間4000件,1日10件前後で,多い時には20件を超えることも稀ではありません。 このように頭部外傷に対する手術が非常に多く,また予定手術についても,他の病院では行えないような脳腫瘍,先天奇形などの手術も行っているため,脳神経外科は病院の中心的な科となっています。医師数も,病院所属の医師が33人,それに加えておよそ30人の地方から勉強に来た医師が働いており,脳神経外科医だけでおよそ60人が在籍していることになります。
当直チームは6チームあり,1チーム約10人が所属しています。つまり,一晩に10人の脳神経外科医が当直し,10件から20件の頭部緊急手術を行っているということになります。当直チームは当直リーダーが20年目以上の医師,サブリーダーが15年目から20年目,さらに10年目,5年目の医師と,病院スタッフが4-5人程度当直しており,さらに地方から勉強に来ている1年目から5年目程度の医師が4-5人程度当直しています。
このように非常に層は厚く,また基本的には若い医師が手術をして,困った時に上級医が手助けするというシステムをとっているため,若い医師は経験を積み,上級医から学ぶ機会が豊富にあります。
若いベトナム人医師との1年間
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