理学療法ジャーナル Vol.60 No.10
2026年 10月号

ISSN 0915-0552
定価 2,090円 (本体1,900円+税)

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特集 理学療法士のための高次脳機能障害ナビ──症候理解から臨床実践まで

 高次脳機能障害は,姿勢・運動,ADL,社会参加に深く影響するが,理学療法における評価・介入は体系化されていない.本特集では,遂行機能障害・注意障害,半側空間無視,失行,姿勢定位障害,身体失認・片麻痺の病態失認について,最新の知見と症例に基づき病態,評価,介入を解説した.また,言語聴覚士の視点から失語症患者とのコミュニケーションの要点を示した.さらに,重複例への多職種連携や家族支援,教育・体制上の課題と今後の方向性も提示した.症候の理解を姿勢・動作,安全なADL,社会生活の再建へつなぐ臨床の「ナビ」としたい.

■各症候の病態理解から評価・介入へ
脳卒中後の遂行機能障害・注意障害と理学療法 酒井克也
 脳卒中後の遂行機能障害・注意障害は,歩行やバランス能力,ADL,社会復帰に深く関連する.本稿では,遂行機能と注意機能の構成要素および神経基盤を整理し,症状,評価方法,理学療法について概説する.特に,二重課題歩行や行動観察を通じた臨床評価,日常生活に即した課題指向型アプローチの重要性について,最新の知見と筆者の研究成果を踏まえて述べる.

半側空間無視と理学療法 高村優作,他
 半側空間無視は,空間性注意ネットワークの障害として生じ,姿勢・移乗・歩行,上肢使用,日常生活の安全性に広く影響する.本稿では,症候分類と神経基盤,生活場面を含む評価,回復と代償戦略を概説し,身体無視・運動無視との相違にも触れる.机上検査にとどまらず,姿勢・行為・移動場面で症候を捉え,個別的に支援することが重要である.

失行と理学療法 信迫悟志
 観念失行と観念運動失行は,ADL・IADLや社会参加に影響する行為レベルの障害である.失行に対する理学療法には一定のエビデンスがあるものの,臨床ではそれらをそのまま適用するのではなく,口頭指示,視覚提示,模倣,実物使用などの入力-出力様式を評価し,保たれた様式を生かしながら,患者の生活目標やADL上の困難に応じて支援を調整することが重要である.

姿勢定位障害と理学療法 根津利也,他
 姿勢定位障害では,重力に対する身体垂直性の認知や姿勢制御の統合が乱れ,側方または後方への姿勢偏倚がADLを阻害する.本稿では Pusher現象と body lateropulsionを区別し,病態,評価,症例経過を通して,前額面と矢状面の双方を踏まえた理学療法の要点を概説する.臨床では偏倚方向と動作阻害因子を見極めることが重要である.

身体失認・片麻痺の病態失認と理学療法 内沢秀和
 脳卒中後の身体失認と片麻痺の病態失認は,身体所有感と運動主体感の障害として理解できる.本稿では,近年の脳画像研究と評価法を概説し,軽度片麻痺でも気づきの障害により生活場面で危険が残った症例を提示する.さらに予測,遂行,振り返りを用いた理学療法と,退院後の生活支援に向けた留意点を述べる.身体機能の改善だけでなく,安全な誤差経験と介助受容を支えるかかわりが重要である.

■臨床実践を支えるコミュニケーションと多職種連携
失語の理解を深める──言語聴覚療法の観点から 安部佳子
 理学療法士の皆さんが持っているであろう,また持っていると有益であろうと思われる失語症の基礎的知識,臨床的ヒントについて述べた.失語症は言語の「聴く」,「話す」,「読む」,「書く」のそれぞれの側面に何らかの障害を有するが,その程度は症例によって大きく異なる.言語を用いない意思伝達は抽象的内容を伝達するのに時間がかかるなど非効率的に感じることが多い.そのため失語症を有する症例は運動機能回復が不良であるように見えたり,または理学療法が十分に実施できないように見えるかもしれない.ご自身だったらどうコミュニケーションをとってほしいか,を想像することが一番の鍵となる.

重複した高次脳機能障害を有する患者への理学療法の工夫 中村潤二,他
 高次脳機能障害は複数の症候が重複する症例も多い.またADLや社会復帰に影響を及ぼすため,生活場面における各症候の相互作用を複合的に捉える必要があるが,重複例では病態が複雑となり,退院支援に難渋することも少なくない.本稿では,回復期リハビリテーション病棟から在宅復帰に至った症例と,在宅復帰に至らなかった症例の2例を通して,自院の取り組みや対応を述べる.

■理学療法における課題と今後の方向性
日本の理学療法における高次脳機能障害に関する課題 渡辺 学
 脳損傷では高次脳機能障害が高頻度に生じるにもかかわらず,理学療法における評価・介入の体系化は進んでいない.卒前・卒後教育の不足,検査選択の困難,多職種連携の不備,社会的認識の低さが関与し,理学療法士が十分にかかわることができない状況が続いている.課題解決には,運動機能と高次脳機能の関連を理解し,臨床での仮説検証や他職種との協働を通じて知識と実践を深めることが重要である.

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特集 理学療法士のための高次脳機能障害ナビ──症候理解から臨床実践まで
企画:信迫悟志

エディトリアル 高次脳機能障害を理学療法の視点から捉える
信迫悟志

脳卒中後の遂行機能障害・注意障害と理学療法
酒井克也

半側空間無視と理学療法
高村優作,他

失行と理学療法
信迫悟志

姿勢定位障害と理学療法
根津利也,他

身体失認・片麻痺の病態失認と理学療法
内沢秀和

失語の理解を深める──言語聴覚療法の観点から
安部佳子

重複した高次脳機能障害を有する患者への理学療法の工夫
中村潤二,他

日本の理学療法における高次脳機能障害に関する課題
渡辺 学


■Close-up アントレプレナーシップ──その概念と医学・理学療法への応用
アントレプレナーシップの基礎概念──医学・医療職における「価値創造」の視点
谷口達典

理学療法領域におけるアントレプレナーシップの実践──臨床・研究・社会実装をつなぐ行動原理
金子文成

内部障害を有する高齢者に対する運動療法を通所介護で実装する試み──理学療法士主導による2040年を見据えた医療・介護連携モデル
木澤清行


●とびら
自分ごとに手繰り寄せる想像力
片岡保憲

●脳画像を多職種連携に活かす! 脳卒中診療編⑥
脳梗塞──ワレンベルグ症候群
井上大聖

●わたしの時間の過ごし方②
地域の未来を守る,理学療法士としての挑戦
中尾聡志

●発達性協調運動症 理学療法士の実践ガイド④
日常生活活動への支援──作業療法士の視点から
東恩納拓也

●計測力を磨く──簡易機器で始める臨床研究入門⑦
心電図の計測──携帯型心電計HCG-8060Tを用いた簡便な心電図計測
木村 朗

●臨床実習サブノート おさえておきたい! カルテのみかた⑥
回復期の運動器疾患──急性期情報の活用と在宅支援を見据えた情報収集
湯田智久

●症例報告
慢性閉塞性肺疾患合併冠動脈バイパス術後患者が在宅酸素療法導入となり,運動耐容能向上とともに在宅酸素療法の離脱を達成した1例
五月女宗史,他

●資料
当院リハビリテーション部療法士における診療班別・経験年数別にみた手指衛生5つのタイミングの調査
山本洋司,他

●ひろば
就学生徒に対するリハビリテーションの職業体験
小川巧馬,他

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