理学療法ジャーナル Vol.60 No.9
2026年 09月号

ISSN 0915-0552
定価 2,090円 (本体1,900円+税)

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特集 “わかりにくい痛み”に向き合う力

 慢性疼痛の理解には,侵害受容性,神経障害性に加え,国際疼痛学会が認めた第3の痛み「痛覚変調性疼痛」の病態把握が重要である.これは組織の損傷なく,中枢性感作や疼痛抑制系の低下により生じ,心理社会的要因も痛みを増幅させる.そのため保存的介入では,局所の修復だけでなく,運動療法や神経科学教育,認知行動療法などを組み合わせた集学的アプローチが不可欠となる.こうした包括的アプローチを臨床でどう展開し,全国のセラピストがどう実践につなげるべきか,ぜひ皆様と議論したい.

慢性疼痛を理解するための疼痛メカニズム総論──侵害受容性・神経障害性・痛覚変調性疼痛 半場道子
 Nociplastic pain(痛覚変調性疼痛)は国際疼痛学会(IAPS)から第3の痛みとして認められたが,その生起機序についてはまだ多くの議論が続いている.本稿では,脳の広領域回路網を巻き込んで展開するcentral sensitizationを交じえながら,三つの慢性疼痛の生起機序を解説する.末梢組織に炎症部位が同定されなくても,脳回路網の興奮性変調や,疼痛抑制機構の機能低下に起因して異常な疼痛病像が形成される.

痛覚変調性疼痛が関与する慢性炎症の悪循環──そのメカニズムと臨床的意味 堀 紀代美
 痛覚変調性疼痛は「中枢神経系の侵害受容システムの変調」である中枢性感作が病態の中核をなす.一方で,中枢性感作は中枢神経系の変調にとどまらず,免疫系,自律神経系,運動器系を介して末梢組織環境にも影響を与える.その結果,新たな侵害受容入力が生じ,さらに中枢性感作が強化されるという「痛みが痛みを呼ぶ悪循環」が形成される.痛覚変調性疼痛の理解には,中枢と末梢が相互に影響し合う動的システムとして病態を捉える必要がある.

中枢性感作の末梢組織への影響──双方向性の病態理解と理学療法戦略 城 由起子
 中枢性感作は,脊髄や脳の過敏化により本来無害な刺激にも過剰反応する病態であり,急性痛から慢性疼痛への移行における主要な機序である.その発生には神経炎症や下行性疼痛抑制系の機能不全が関与し,中枢と末梢間の悪循環が組織損傷では説明できない痛みの持続・拡大を招く.介入には運動療法や認知行動療法などを組み合わせた集学的アプローチが推奨される.

痛みの記憶と中枢神経ネットワーク変調──痛覚変調性疼痛の病態と理学療法による中枢機能再構築 松原貴子
 痛みの記憶(過去の痛み体験)は,大脳辺縁系や大脳皮質ネットワークに機能的・構造的変調(maladaptive neuroplasticity)を引き起こす客観的な神経病態である.理学療法では,運動療法,認知的アプローチ/行動変容アプローチ,VR技術などを通じて,これら変調した中枢神経ネットワークの正常化を標的とし,脳の再構築を促さなければならない.

痛覚変調性疼痛に対するセルフマネジメント──多面的ライフスタイルに基づく段階的理学療法 西上智彦
 痛覚変調性疼痛では,組織損傷の程度だけでは説明しきれない痛みが持続し,中枢性感作,恐怖,睡眠障害,ストレス反応などが相互に影響し合うことで,疼痛や能力障害が増幅する.そのため,セルフマネジメントの基本方針は「組織損傷・疾患に基づく介入」から「多面的ライフスタイルに基づく段階的介入」へとパラダイムシフトしつつある.本総説では,この多面的ライフスタイル介入について,実装の要点と具体例を提示する.

痛覚変調性疼痛に対する物理療法機器を用いた理学療法の実際 佐藤剛介
 痛覚変調性疼痛は,組織損傷や体性感覚神経系の病変のみでは説明できない疼痛であり,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛と併存し得る.本稿では,物理療法を疼痛軽減だけでなく,疼痛処理系の調整,運動療法への参加促進,活動性向上を支える補助的介入として位置づけ,物理療法機器[本稿では経皮的電気神経刺激(TENS)]を用いた実践例を通じてその臨床応用を概説する.

その腰痛,画像所見のせいですか?──構造的破綻と機能的不全を統合する臨床的視点 井口暁洋,他
 腰痛診療において画像診断は重篤疾患の除外と安全な介入設計に不可欠である一方,非特異的腰痛では画像所見と症状が一致しないことが多い.本稿では無症候性変性の疫学や椎間板ヘルニアの自然吸収を踏まえ,構造的破綻と機能的不全を統合する理学療法士の臨床推論と運動療法の考え方を整理する.

変形性関節症に潜む痛覚変調性疼痛──構造異常だけでは説明できない痛みとその臨床対応 服部貴文
 変形性関節症(osteoarthritis:OA)では,一部に痛覚変調性疼痛の症候・徴候が認められる.こうした背景から,難治性の症候性OAでは,関節局所の病態に加え,末梢・中枢神経系における疼痛制御機構の変調を考慮する必要がある.従来の運動と患者教育のみでは十分な効果が得られにくい場合もあり,ライフスタイルを含めた複合的介入が求められる.本稿では,その病態,評価および対応について概説する.

なぜ治らない? 肩関節周囲炎における難治性疼痛とその評価 大賀智史
 肩関節周囲炎は自然軽快するとされる一方で,疼痛が遷延し治療反応性に乏しい症例も存在する.難治性疼痛を理解するには,局所の炎症や線維化のみならず,混在型疼痛の病態を考慮し,疼痛感作などの神経学的要因,運動恐怖などの心理社会的要因,睡眠や身体活動などのライフスタイル要因を含めた多面的評価が重要である.これらの要因を経時的に再評価することは,個々の疼痛機序や背景因子に応じた治療戦略の立案に資する.

多職種で挑む痛覚変調性疼痛と慢性疼痛の統合的ケア 阿部麻衣,他
 痛覚変調性疼痛において,中枢性感作の関与が想定されている痛みを主症状とする疾患の一つに過敏性腸症候群がある.慢性の内臓の一次性疼痛疾患であり,病態を痛覚変調性疼痛かつ心身症として把握することが妥当である.そして,痛覚変調性疼痛は多職種による介入が重要であり,慢性疼痛に対する多職種医療が統合的に実施され,患者が苦痛から解放される例が増えることを期待する.

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特集 “わかりにくい痛み”に向き合う力

慢性疼痛を理解するための疼痛メカニズム総論──侵害受容性・神経障害性・痛覚変調性疼痛
半場道子

痛覚変調性疼痛が関与する慢性炎症の悪循環──そのメカニズムと臨床的意味
堀 紀代美

中枢性感作の末梢組織への影響──双方向性の病態理解と理学療法戦略
城 由起子

痛みの記憶と中枢神経ネットワーク変調──痛覚変調性疼痛の病態と理学療法による中枢機能再構築
松原貴子

痛覚変調性疼痛に対するセルフマネジメント──多面的ライフスタイルに基づく段階的理学療法
西上智彦

痛覚変調性疼痛に対する物理療法機器を用いた理学療法の実際
佐藤剛介

その腰痛,画像所見のせいですか?──構造的破綻と機能的不全を統合する臨床的視点
井口暁洋,他

変形性関節症に潜む痛覚変調性疼痛──構造異常だけでは説明できない痛みとその臨床対応
服部貴文

なぜ治らない? 肩関節周囲炎における難治性疼痛とその評価
大賀智史

多職種で挑む痛覚変調性疼痛と慢性疼痛の統合的ケア
阿部麻衣,他


■Close-up 外部審査を味方につける
外部審査とは何か
森 友洋

特定共同指導と適時調査
野崎展史

病院機能評価・JCI・ISOを組織改善に生かす視点
彦田 直


●とびら
女子大学でのささやかな気づき
井上由里

●脳画像を多職種連携に活かす! 脳卒中診療編⑤
脳梗塞──橋傍正中動脈の branch atheromatous disease
徳田和宏

●発達性協調運動症 理学療法士の実践ガイド③
理学療法支援の基本
深澤宏昭

●計測力を磨く──簡易機器で始める臨床研究入門⑥
全身持久力の計測
松井 康

●臨床実習サブノート おさえておきたい! カルテのみかた⑤
変形性股関節症術後
南里佑太

●わたしの時間の過ごし方 [新連載]
縁とともに成長する
細田里南

●症例報告
方向転換に着目し転倒頻度の低減をめざした進行性核上性麻痺の1症例
椎野大空

●プラクティカル・メモ
長下肢装具作製に向けた家族説明の工夫──装具作製を主体的に選択できることをめざして
五月女宗史

●紹介
回復期リハビリテーション病院における研究推進モデルの紹介
天草弥生,他

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●プラクティカル・メモ「長下肢装具作製に向けた家族説明の工夫──装具作製を主体的に選択できることをめざして」(五月女宗史) 付録

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