BRAIN and NERVE Vol.77 No.10
2025年 10月号

ISSN 1881-6096
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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睡眠は脳の健康と機能に密接に関わっており,近年では睡眠障害と神経疾患の双方向的な関係性が明らかになってきた。レム睡眠を制御する神経回路をはじめ,認知症や脳血管障害,自己免疫性脳炎など,睡眠と神経疾患の接点は多岐にわたる。本特集では,こうした最新の知見を紹介し,診断・評価法から治療戦略まで臨床に役立つ情報を網羅する。日本では睡眠医学を専門とする脳神経内科医はまだ少ないが,本特集がその重要性を再認識する契機となり,診療の幅を広げる一助となることを期待したい。

【鼎談】睡眠医学の診療と教育 井上 雄一 , 鈴木 圭輔 , 下畑 享良

レム睡眠を制御する神経回路メカニズム 渡邉 綾乃 , 櫻井 武
レム睡眠は「活発な脳」と「動かない身体」を特徴とし,その制御破綻はナルコレプシーやレム睡眠行動障害などの疾患に関与する。本論では,まずレム睡眠の基本について解説したのち,扁桃体のドーパミン信号によるレム睡眠開始機構と,延髄の抑制性経路による筋アトニア発生のメカニズムを紹介し,これらの回路の統合的理解が睡眠関連疾患の病態解明と将来の治療戦略に貢献する可能性を論じる。

睡眠と脳脊髄液 酒井 紀彰
脳老廃物の除去機構であるグリンパティックシステムの発見を契機に,アルツハイマー病を含む神経疾患と睡眠との関係に注目が集まっている。最近の研究から,グリンパティックシステムの作動機序が解明されたが,老廃物の除去機構がどの程度加齢や疾患発症において寄与するのか,また予防・早期治療介入の可能性など,未知な部分が多い。

知っておくべき睡眠関連疾患の評価法 小栗 卓也
睡眠関連疾患の診療で用いられる自己記入式ツールや睡眠関連検査について概説した。実際の現場では,患者の主訴に対して考えられる要因を複数ピックアップしたうえで,最適な評価法を選択する。それぞれの評価法には長所と短所があり,それらを踏まえて結果を解釈する必要がある。特に簡便とされる評価法ほど睡眠生理全般や検査機器特性の知識がリテラシーとして求められる。

認知症と睡眠—双方向的関係について 三島 和夫
睡眠覚醒は脳内の多くの睡眠系/覚醒系神経核群および生物時計(視交叉上核)により調節されている。認知症ではこれら神経核群やその投射路が集中する脳幹,視床下部,視床などに器質障害が生じるため,重篤な夜間不眠,過眠,不規則な睡眠・覚醒時間パターンが認められる。数多くのコホート研究が,睡眠の質の低下や過眠などの睡眠変化が認知症の発症に先行する早期徴候,発症リスク要因である可能性を強く示している。これまで,睡眠変化が認知症リスクを高める神経病理は不明であったが,グリンパティックシステムの発見とAβクリアランスとの関連についての研究の進展によりミッシングリンクも解明されつつある。

自己免疫性脳炎と睡眠障害 大野 陽哉 , 木村 暁夫 , 下畑 享良
自己免疫性脳炎では多彩な睡眠障害が生じる。抗NMDAR脳炎では急性期には不眠症を,回復期には過眠症やconfusional arousalを認める。抗LGI1脳炎や抗CASPR2脳炎で生じるMorvan症候群では,各睡眠段階の区別が曖昧となり,status dissociatusやagrypnia excitataを呈する。IgLON5抗体関連疾患では睡眠時パラソムニアのほか,睡眠時無呼吸や吸気性喘鳴をきたし突然死に至る例もある。視神経脊髄炎スペクトラム障害や抗Ma2脳炎では視床下部病変によりナルコレプシーを呈することがあり,オレキシン欠乏の関与が示唆されている。

脳血管障害と閉塞性睡眠時無呼吸症候群 赤岩 靖久 , 宮本 智之
閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)と脳血管障害(CVD)は双方向的な関係にある。OSAは脳卒中の独立した危険因子であり,メタ解析では脳卒中発症リスクを2.24倍高めることが示されている。一方,脳卒中後のOSA有病率は50〜70%と極めて高く,機能予後と生命予後を悪化させる。持続的陽圧呼吸療法(CPAP)は脳卒中急性期の神経症状改善に有効だが,脳卒中予防効果は限定的である。急性期脳卒中患者の特殊性からOSAが見逃されることがあるが,今後,脳神経内科医と睡眠呼吸専門医の連携強化により,系統的評価体制の確立が必要である。

多系統萎縮症と睡眠関連呼吸障害 中山 秀章
多系統萎縮症(MSA)は,パーキンソン症状,小脳症状など多系統に障害する孤発性進行性神経変性疾患である。閉塞性や中枢性睡眠時無呼吸,睡眠関連低換気や喘鳴を生じ,経時的に病型の変遷や重症度の変化をきたす。また,突然死を生じる原因とも考えられ,その合併の評価や治療がMSA管理のうえで重要である。しかし確立した治療法はなく,患者ごとに,持続陽圧呼吸療法(CPAP)や気管切開などの治療が試みられている。

神経疾患と特発性レム睡眠行動異常症 西川 典子
特発性レム睡眠行動異常症(iRBD)は,α-シヌクレイノパチーの前駆状態であり,約70%が10年以内にパーキンソン病やレビー小体型認知症へ進展する。近年,DaT-SPECTや脳脊髄液中α-シヌクレイン,アミロイドβ42,機能的MRIなどのバイオマーカーがフェノコンバージョン予測に有望とされ,早期診断と治療介入の鍵を握る。

レム睡眠行動障害以外の睡眠時随伴症 野村 哲志
睡眠時随伴症は睡眠中の望ましくない身体現象で,ノンレム関連睡眠時随伴症,レム関連睡眠時随伴症,その他の睡眠時随伴症に大別される。ノンレム関連睡眠時随伴症には錯乱性覚醒,睡眠時遊行症,睡眠時驚愕症,睡眠関連摂食障害がある。レム関連睡眠時随伴症にはレム睡眠行動障害以外に反復性孤発性睡眠麻痺,悪夢障害がある。その他の睡眠時随伴症は頭内爆発音症候群,睡眠関連幻覚,睡眠時遺尿症がある。詳細な問診と睡眠ポリグラフ検査で診断を行う。

レストレスレッグス症候群 坪井 義夫
レストレスレッグス症候群(RLS)は,下肢の不快感と運動衝動を特徴とする感覚運動障害で,睡眠障害の原因となる。欧米と比してアジアでは有病率が低いが,それでも頻度が高く,脳内鉄代謝異常やドパミン機能障害がその病態に関与する。治療は,鉄補充,生活指導,薬物療法(ドパミン作動薬,α2δリガンド)を基本としaugmentationへの対応も重要である。本論では,2024年に公表された日本神経治療学会の診療ガイドラインに基づき,RLSの疫学,診断,病態,治療戦略について概説する。

ナルコレプシーの病態機序 小野 太輔 , 神林 崇
ナルコレプシーとは日中の著しい眠気を主症状とする疾患であり,随伴症状として情動脱力発作,入眠時幻覚,睡眠麻痺,夜間睡眠の分断がある。ナルコレプシーはタイプ1・タイプ2に分類される。タイプ1はオレキシン神経細胞の消失によって引き起こされるが,タイプ2の病態生理は明らかになっていない。根治療法は存在せず対症療法のみが行われている。近年オレキシン受容体作動薬の開発が進んでおり,治験段階にある。

神経疾患による症候性ナルコレプシー 鈴木 圭輔 , 藤田 裕明 , 高橋 嶺馬 , 柏木 誠史
ナルコレプシーはオレキシン系障害により日中の過度の眠気(EDS),情動脱力発作,睡眠麻痺や入眠時幻覚をきたす代表的な中枢性過眠症である。症候性ナルコレプシーでは関連する神経疾患や脳病変により,持続するEDSおよびレム睡眠関連症状を呈する。神経免疫疾患をはじめとした神経疾患による視床下部病変は症候性ナルコレプシーをきたす。本論では神経疾患に関連した症候性ナルコレプシーおよびEDSに関して解説する。

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特集 脳神経内科と睡眠医学

【鼎談】 睡眠医学の診療と教育
井上雄一×鈴木圭輔×下畑享良

レム睡眠を制御する神経回路メカニズム
渡邉綾乃,櫻井 武

睡眠と脳脊髄液
酒井紀彰

知っておくべき睡眠関連疾患の評価法
小栗卓也

認知症と睡眠──双方向的関係について
三島和夫

自己免疫性脳炎と睡眠障害
大野陽哉,他

脳血管障害と閉塞性睡眠時無呼吸症候群
赤岩靖久,宮本智之

多系統萎縮症と睡眠関連呼吸障害
中山秀章

神経疾患と特発性レム睡眠行動異常症
西川典子

レム睡眠行動障害以外の睡眠時随伴症
野村哲志

レストレスレッグス症候群
坪井義夫

ナルコレプシーの病態機序
小野太輔,神林 崇

神経疾患による症候性ナルコレプシー
鈴木圭輔,他


■総説
アルツハイマー病治療におけるアミロイドプラーク除去の意義──アミロイドカスケード仮説に基づく抗体治療
古和久朋,他


●日本人が貢献した認知症研究の足跡
第7回 地域に根ざした認知症研究
葛西真理

●原著・過去の論文から学ぶ
第17回 AIと脳の比較研究のさきがけ
北澤 茂

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