BRAIN and NERVE Vol.77 No.9
2025年 09月号

ISSN 1881-6096
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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近年,神経・精神科領域でも,デジタルメディスンの存在感が急速に増している。プログラム医療機器(SaMD)やAI,ウェアラブルデバイスを活用した治療やモニタリングは,診療の質を変え,患者の生活を支える新たな選択肢となりつつある。一方で,制度・倫理・実装面の課題も浮き彫りとなっている。本特集では,デジタルメディスンの定義と位置づけから,国際的な比較,産官学の連携,各疾患での応用,そして倫理的検討までを多角的に展望する。この新たな医療の潮流を,いかに実際の医療現場での活用につなげていくか,その道筋をともに考えたい。

デジタルメディスンの光と影 木下 翔太郎
医療・ヘルスケアで用いられるデジタルソリューションは,デジタルヘルス,デジタルメディスン,デジタルセラピューティクス(DTx)の3つに大別される。近年では,プログラム医療機器(SaMD)の登場により,臨床現場においてもデジタルメディスン・DTxが導入される事例も増えている。本論ではデジタルメディスンの定義を整理するとともに,導入における課題や今後の展望について整理する。

日本と世界のデジタルメディスン 髙尾 洋之 , 竹下 康平 , 河田 茂 , 石橋 敏寛 , 村山 雄一
日本と海外における脳神経・精神疾患分野のICT活用について,創薬,治療支援,身体機能代替の3視点で現状と課題を概観する。日本は基礎研究で世界に伍する進展をみせるも,制度整備や社会実装で欧米に後れをとっており,国際競争力を保つためには保険制度改革,産学連携,実装戦略の構築を支援する政策面の後押しが不可欠である。

産官学領域からみたデジタルメディスン 山根 史帆里 , 雪田 嘉穂 , 渡辺 信彦
デジタルメディスンはグローバルにおける市場成長率が非常に大きい分野であり,医療上および社会上の課題に対する新たなモダリティとして医療のゲームチェンジャーとなり得る製品であると期待される。経済産業省では,このような革新的な医療機器に対して,イノベーションの創出のみならず,現場導入を通じていかに事業化につなげていくかという課題に対する支援を継続的に行い,国内の医療機器産業のさらなる発展を目指していく。

神経・精神科領域におけるデジタルバイオマーカー 森田 瑞樹 , 山根 卓大
デジタル技術の進化により生まれたデジタルバイオマーカーは,神経・精神科領域の診断やモニタリングを変革しつつある。例えば,神経変性疾患の運動評価や精神疾患での行動パターンの追跡などさまざまな場面で活用が試みられており,また,臨床試験の評価項目としては既に利用実績がある。客観評価を可能とするデジタルバイオマーカーを従来の臨床検査と適切に組み合わせることで,より包括的な患者理解に貢献するだろう。

てんかん発作予測技術の現状と展望 浮城 一司 , 神 一敬 , 中里 信和
てんかんは生活の質を著しく損なう慢性神経疾患であり,発作予測技術に対する関心が近年高まっている。非侵襲的ウェアラブルデバイスの普及に伴い,生体・行動・環境データを人工知能で解析し,個別の発作リスクを推定する研究が進展している。東北大学では産学連携のもと,機械学習を用いた予測モデルの開発と社会実装を推進しており,その現状と課題について概説する。

脳血管障害に対するデジタルメディスンの可能性 牛場 潤一
脳血管障害に対する医療ヘルスケアは,予防から早期発見,治療,リハビリテーション,在宅ケアに至るペイシェントジャーニーの各段階において,専門人材の不足,経験知と定性的判断による正確さの欠如,在宅におけるケアの質の担保などの課題がある。本論では,ウェアラブルセンサー,AI,デジタルツイン,スマートフォンアプリといったデジタル技術がこうした諸問題の解決に貢献し得ることを示した。

パーキンソン病に対するデジタル技術を用いた遠隔症状モニタリングと在宅管理の最前線 白石 眞 , 山野 嘉久
本論では,パーキンソン病に対するデジタルヘルステクノロジーを活用した遠隔症状モニタリングと在宅管理の最新動向を概説する。オンライン診療やウェアラブルデバイスによる日常データ収集,AIを用いた解析,デジタルリハビリテーションの進展により,診療の個別化と効率化が加速している。対面診療と統合した新たな医療モデルの構築が期待され,通院負担の軽減や生活の質の向上といった患者アウトカムの改善に資する実装が進められている。

デジタル技術を利用した認知機能評価アプリと認知症スクリーニング 武田 朱公
認知症の早期介入の実現に向けて,認知機能の低下を効率的にスクリーニングする手法の需要が高まっている。現状,問診や筆記式による簡易認知機能検査が広く用いられているが,検査負担や客観性などの点で課題が残されている。近年,デジタル技術を利用したまったく新しい認知機能評価法の開発が進められており,一部は臨床応用に至っている。簡便性と客観性を兼ね備えた認知症スクリーニング法として活用されることが期待されている。

がん患者の抑うつ,不安緩和のためのスマートフォン精神療法の開発 明智 龍男
がん患者の20〜30%に治療が望まれる抑うつ,不安が認められる。一方,がん医療に従事する精神保健の専門家は限られており,個々の患者に治療を提供する体制が確立しているとは言いがたい。現状に鑑み,われわれはスマートフォンを用いた精神療法を開発し,乳がんサバイバーの再発恐怖軽減に有用であることをランダム化比較試験で示した。以降もスマホ精神療法アプリのサイコオンコロジー領域での応用の可能性を模索している。

不安症に対するデジタルメディスン 川人 慎 , 中尾 智博
不安症は過剰な不安が持続し,生活機能を損なう精神疾患であるが,医療へのアクセスには多くの障壁がある。こうした背景から,近年はデジタルメディスンが導入され,特にインターネット認知行動療法は対面式治療と同等の有効性が示されている。一方で,プライバシー保護や責任の所在などの倫理的・法的課題があり,仮想現実や人工知能を用いた新たな治療の発展も期待される中,臨床的有効性と社会的受容の両立が求められている。

うつ病に対するデジタルCBT 杉原 玄一
うつ病において認知行動療法(CBT)は有効な治療法であるが,治療者の不足や患者の治療継続困難といった課題がある。近年ではスマートフォンアプリなどを用いたデジタルCBT(iCBT)が注目されており,治療のアクセス格差の是正や継続率の向上が期待されている。日本でもiCBTの研究開発が進んでいるが,今後の普及に向けては制度整備と倫理的課題への対応が重要となる。本論ではiCBTの現状と課題を概説する。

アルコール関連問題に対するデジタル介入—危険・有害飲酒からアルコール使用症・依存症まで 宋 龍平
本論では,危険・有害飲酒からアルコール使用症・依存症まで,アルコール関連問題に対するデジタル介入の現状と展望を概説する。国内外のランダム化比較試験のエビデンスを整理すると,デジタル介入の有効性はこれまでに十分に実証されていることがわかる。しかし,その有効性をアルコール問題を抱える人々へ届けられているかというと疑問が残る。研究で示された有効性を実現していくことが,今後の最も大きな課題となるだろう。

不眠に対する治療用アプリ 内海 智博 , 栗山 健一
医療分野におけるデジタルトランスフォーメーションの発展に伴い,これらを活用したデジタル治療に注目が集まっている。本論は従来型である対面式の不眠に対する認知行動療法(CBT-I)の有効性と普及の課題を概説し,課題を克服するためのデジタル技術を活用したd-CBTIの有用性および,国際的な医療現場での使用状況について概説した。さらに,日本におけるd-CBTIの現状と今後の可能性について考察した。

注意欠如多動症(ADHD)に対するデジタル治療—エンデバーライドと次世代治療用アプリの現状と展望 西野 良 , 三上 克央
注意欠如多動症(ADHD)に対するデジタル治療(DTx)は,心理社会的療法の補完的選択肢として注目されている。本論では,米国および国内で承認を得たゲーム型DTx「エンデバーライド」を軸に,競合する適応学習型アプリなどのDTxの世界的開発動向を整理した。臨床試験成績,効果量,安全性,今後の展望を論じ,個別化DTxの可能性を探る。

医療AIをめぐる倫理的検討とステイクホルダーの参画 古結 敦士 , 井上 悠輔
人工知能(AI)は医療分野において,診断支援や予後予測だけでなく,業務効率化などへの活用が期待されている。一方で,意思決定の不透明さ,説明可能性,公平なアクセスなどの倫理的課題も指摘される。医療AIは医師・患者関係や医療のあり方に影響を与えるため,多様なステイクホルダーの視点を踏まえた議論と協働が求められる。

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価格については医書.jpをご覧ください。

特集 神経・精神科領域におけるデジタルメディスン

デジタルメディスンの光と影
木下翔太郎

日本と世界のデジタルメディスン
髙尾洋之,他

産官学領域からみたデジタルメディスン
山根史帆里,他

神経・精神科領域におけるデジタルバイオマーカー
森田瑞樹,山根卓大

てんかん発作予測技術の現状と展望
浮城一司,他

脳血管障害に対するデジタルメディスンの可能性
牛場潤一

パーキンソン病に対するデジタル技術を用いた遠隔症状モニタリングと在宅管理の最前線
白石 眞,山野嘉久

デジタル技術を利用した認知機能評価アプリと認知症スクリーニング
武田朱公

がん患者の抑うつ,不安緩和のためのスマートフォン精神療法の開発
明智龍男

不安症に対するデジタルメディスン
川人 慎,中尾智博

うつ病に対するデジタルCBT
杉原玄一

アルコール関連問題に対するデジタル介入──危険・有害飲酒からアルコール使用症・依存症まで
宋 龍平

不眠に対する治療用アプリ
内海智博,栗山健一

注意欠如多動症(ADHD)に対するデジタル治療──エンデバーライドと次世代治療用アプリの現状と展望
西野 良,三上克央

医療AIをめぐる倫理的検討とステイクホルダーの参画
古結敦士,井上悠輔


●日本人が貢献した認知症研究の足跡
第6回 前頭側頭葉変性症とTDP-43
新井哲明

●原著・過去の論文から学ぶ
第16回 Fisher症候群の原著とガングリオシドGQ1b
楠 進

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