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BRAIN and NERVE Vol.77 No.11
2025年 11月号
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特集の意図
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ジャン=マルタン・シャルコー(Jean-Martin Charcot; 1825.11.29-1893.8.16)は2025年11月に生誕200年を迎える。パリのサルペトリエール病院で,シャルコーは患者を詳細に観察し,臨床像と病理所見を結びつけながら,多発性硬化症や筋萎縮性側索硬化症,シャルコー・マリー・トゥース病など,今日につながる疾患概念を築き上げた。さらには,ヒステリー研究を通じて後の精神医学が発展する土壤を形成した。本特集は,シャルコーの足跡をたどりながら,神経学の現在地を探る試みである。「神経学の父」が示した観察姿勢や教育者としての態度は,現在でも私たちに多くの学びを与え,影響を及ぼし続けている。
【鼎談】シャルコーと神経学の現在地—生誕200年に寄せて 河村 満 , 内原 俊記 , 神田 隆
シャルコーの三世紀—ALSから機能性神経障害まで 内原 俊記
19世紀,神経症状とその原因と思われる脳病変を対応させる臨床神経病理学をシャルコーは確立し,筋萎縮性側索硬化症の上位・下位運動ニューロン障害を側索および前角の変性として解剖学的に関連づけた。一方,シャルコーが捉えたパーキンソン病がレヴィー病変,シヌクレイン沈着として収斂するには20世紀全体を要した。対して,ヒステリーの症状は医師,患者,観衆が相互作用する劇場的背景の中で誘発,観察され,恒常的な病変に対応させる臨床神経病理学では原因を捉え切れなかった。逆にそれは20世紀にフロイトやジャネによる力動精神医学の出発点となり,21世紀の機能性神経障害までつながる道を拓いたのはシャルコーの功績であると筆者は考えている。
シャルコー・マリー・トゥース病—疾患概念の確立と現況 矢野 直志 , 髙嶋 博
シャルコー・マリー・トゥース病は遺伝性運動感覚性ニューロパチーであり,筋力低下や感覚障害を主徴とする。本論ではシャルコー,マリー,トゥースによる原典を基に,本疾患がいかにして疾患概念として確立されたかを述べた。さらに,その後の分類や遺伝子研究の進展,最新の診断・治療の現況を概説し,今後の課題と展望を述べた。
多発性硬化症の症候学—シャルコーの3徴を越えて 越智 博文
1868年,シャルコー(Jean-Martin Charcot)は多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)の臨床および病理学的所見を体系的に記載し,MSを1つの疾患単位として確立させた。彼はまた,MSを他の中枢神経疾患と鑑別するうえで参考になる所見として,振戦(企図振戦),眼振,構音障害(断綴性発語)を挙げ,これらの所見は「シャルコーの3徴」として知られる。しかし,彼はこれらの所見をMSの診断根拠として取り上げたのではない。
シャルコーと脊髄疾患 安藤 哲朗 , 福武 敏夫
シャルコーの脊髄疾患に関する業績を解説した。シャルコーは解剖臨床学的手法により,臨床症状と脊髄病変の対応を明らかにし,筋萎縮性側索硬化症(ALS)や脊髄癆の病態を整理した。ALSでは上位・下位運動ニューロンの二重構造を提唱し,診断基準の基礎を築いた。脊髄癆においては感覚性失調と後索・後根との関連を見出した。また圧迫性脊髄症における手の筋萎縮パターンなどから,神経症候の重要性を強調した。彼の観察重視の姿勢は,現代の神経学の基盤となっている。
シャルコー関節—足部を中心とした病態,診断,治療と予後 菊池 恭太
シャルコー関節は「痛みを失った関節が破壊される」病態を示す。糖尿病性末梢神経障害に合併する足部,いわゆる「シャルコー足」が最も多く,潰瘍や感染を契機に切断へ至る重大な合併症である。発症早期の診断は困難だが極めて重要で,治療成否を左右する。治療は免荷が基本で,進行例では外科的治療も検討される。予後改善には変形を最小限に抑え,潰瘍を防ぎ歩行可能な足を維持することが目標であり,生涯にわたる管理が不可欠である。
踊るシャルコー—大ヒステリー,大催眠,心因性非てんかん性発作 兼本 浩祐
シャルコーのヒステリーについての観察を,リシェの教科書の記載から再現した。シャルコーの病態観察によれば,ヒステリーはヒステリー発作,発作間欠期症状,催眠によって導入される病態の3つの核からなる。ヒステリー発作に関しては,類てんかん期,曲芸的身振り+大運動期,情熱的態度期,せん妄期の4つの段階が起承転結に経緯することを示し,それぞれの病態をリシェの図譜とともに提示した。現在の心因性非てんかん性発作との比較を行い,シャルコーは単に神経学的にヒステリーを診断したのではなく,ヒステリーを持つ人たちとのケミストリーを通して,一期一会的にダンスのようにともに症状を形成したのではないかという考えを論じた。
シャルコーとシャーロック・ホームズ—神経診断学と探偵学の同時代的勃興とその意義 福武 敏夫
シャルコー(Jean-Martin Charcot)は内科から神経学に興味を移して神経診断法を確立するとともに臨床-解剖学的に主要神経疾患をまとめ,神経学の父となった。その後,ヒステリーの解明に努力した。ドイル(Arthur Conan Doyle)は脊髄癆の研究で学位を取り,眼科院を開業したものの著作業に転じてシャーロック・ホームズ物語を生み出した。のちには神霊学への興味からシャルコーの催眠術に言及した。19世紀後半の神経診断学と探偵学の勃興には観察と推理を重視する共通性があり,その背景には産業革命以降の戦争と革命の時代における市民階級の出現と都市化があり,同時代性は必然であった。
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特集 シャルコーを讃えて──Hommage à Charcot
【鼎談】 シャルコーと神経学の現在地──生誕200年に寄せて
河村 満×内原俊記×神田 隆
シャルコーの三世紀──ALSから機能性神経障害まで
内原俊記
シャルコー・マリー・トゥース病──疾患概念の確立と現況
矢野直志,髙嶋 博
多発性硬化症の症候学──シャルコーの3徴を越えて
越智博文
シャルコーと脊髄疾患
安藤哲朗,福武敏夫
シャルコー関節──足部を中心とした病態,診断,治療と予後
菊池恭太
踊るシャルコー──大ヒステリー,大催眠,心因性非てんかん性発作
兼本浩祐
シャルコーとシャーロック・ホームズ 神経診断学と探偵学の同時代的勃興とその意義
福武敏夫
■総説
アジテーション
吉山顕次
老齢動物の認知不全疾患の脳病理
中山裕之
●日本人が貢献した認知症研究の足跡
第8回 レビー小体型認知症とMIBG心筋シンチグラフィ
織茂智之
●原著・過去の論文から学ぶ
第18回 金閣放火僧の病誌と症例報告の意義
村松太郎




