理学療法ジャーナル Vol.58 No.9
2024年 09月号

ISSN 0915-0552
定価 2,090円 (本体1,900円+税)

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特集 最適な非対称性動作を考える

 理学療法において,脳卒中であれば「麻痺側と非麻痺側」,運動器疾患であれば,「術側と非術側」というように常に障害側(術側)と非障害側(非術側)を比較し,左右対称をめざした治療が実施されることは少なくない.しかし,左右完全対象が最良であるのだろうか.
 本特集では非対称性動作を「必ずしも悪いものではない」という視点で捉え直し,新たなる理学療法実践のきっかけにしていただきたい.

力学的視点からみた非対称性の意義 水谷康弘
 物理学における対称性は,実在する形が対称的であるということだけでなく,その概念を発展させて,法則の対称性に及んでいる.本稿では,古典的な意味での力学的な側面から対称性を考え,特に,あるポテンシャル場に置かれた物体の有するポテンシャルエネルギーの非対称性について光により局所的にエネルギーを与えるシステムを用いて,制御という側面から考える.非対称性をエネルギーの視点で分析することにより,動作の本質につながる面白い概念に気がつけるであろう.

解剖学的視点からみた非対称性の意義 白鳥秀卓
 人をはじめとして多くの脊椎動物の外見はほぼ左右対称であるが,内臓器官の形態は左右非対称である.心尖や胃は左側にあり,肺や肝臓は左右非対称な構造をしている.このように,内臓器官については左右非対称であることが当然であり,その意義も存在すると考えられる.発生段階で左右非対称性が異常になった場合の症状や進化的な観点からも解剖学的視点から見た非対称性の意義を紹介する.

左右対称の歩行動作を生み出す神経基盤──歩行障害に表れる非対称性をどう捉えるか? 河島則天,他
 歩行中の身体動作は,重心移動とともに体幹を軸として左右体肢が対称的に繰り返される特性をもつ.歩行における四肢の協調動作は神経系の制御に加えて動的安定性を保つための力学的作用により実現される.神経障害,整形疾患,痛みの発現による歩行動作の破綻は,不可避に歩行動作の非対称性を生ずる.障害に伴う機能低下をもちながらも可能な限り安定した,効率のよい歩行動作の習得をめざすうえでは,残存機能を考慮した適正範囲の代償動作の獲得をめざすことが重要となる.

非対称性からみた健常者の歩行動作の特徴 平田恵介,他
 歩行は基本的な移動手段であり,理学療法士が解決を求められる身体運動の一つである.歩行の非対称性は複雑で,異常な左右差の解釈は難しい.歩行の非対称性を適切に解釈するためには,時期や症状に応じた詳細な評価が必要であり,健常者の非対称性も理解が必要となる.非対称性の定量方法は複数あり,結果の解釈に留意が必要である.偏側性は特異的な非対称性であり,臨床での疾患者の歩容評価に重要である.最終的に,歩行分析は力学的な分析と統合されるべきで,これによって問題解決が促進される.

非対称性からみた健常者の立ち上がり動作の特徴 鈴木 誠,他
 健常者の椅子からの立ち上がり動作は,マクロな視点でみれば左右対称的でエネルギーコスト最小の原理に従う.しかし,ミクロな視点でみると,運動機能や動作条件に依存した左右の非対称性が必ず存在する.マクロのレベルで潜んでいた立ち上がり動作の事象が,ミクロのレベルでの分析によって,理学療法に通じる新たな左右非対称性の情報を引き出せる可能性がある.

最適な非対称性歩行動作の獲得をめざした理学療法──運動器疾患 南角 学,他
 変形性股関節症(osteoarthritis:OA,以下,股関節OA)症例では,非対称性歩行により股関節への負荷の軽減を得ることができる.一方,非対称性歩行では歩行能力や身体機能のさらなる低下を招くことから,股関節OA症例に対する保存療法では非対称性歩行のメリットとデメリットについて十分に配慮する必要がある.また,人工股関節により股関節が機能・構造的に改善すると,歩行効率や身体機能の向上のためには左右対称性の歩行パターンを獲得することが必要となる.

最適な非対称性歩行動作の獲得をめざした理学療法──中枢神経疾患 荻原啓文
 脳卒中患者は特徴的な非対称性歩行パターンを呈すことから理学療法のターゲットを歩容に絞られることが多々ある.歩容改善も理学療法の選択肢の一つだが,非対称性歩行に捉われるのではなく,機能障害や歩行特性,活動的な問題点などさまざまな視点から評価,介入を進める必要がある.理学療法士のみの考えで介入を決定するのではなく,患者との目標設定や意思決定の共有のもと理学療法を進めていくことが重要である.

最適な非対称性立ち上がり動作の獲得をめざした理学療法──運動器疾患 井原拓哉
 運動器疾患における最適な非対称性立ち上がり動作を,変形性膝関節症を例に一考する.最適化すべき対象を疼痛と力学的負荷に分別して着目することが必要であるという視点に立ち,特に力学的負荷の最適化の観点から既存の研究報告を俯瞰することで,変形性膝関節症患者における最適な運動戦略の概観と身体運動の詳細について検討する.

最適な非対称性立ち上がり動作の獲得をめざした理学療法──脳卒中片麻痺 谷内幸喜
 脳卒中片麻痺者における立ち上がり動作のパターンを2つに分類(立ち上がり動作時における上方移動開始時の重心線が足圧中心より前方にあるタイプAと,後方にあるタイプB)した.タイプBに比べタイプAの脳卒中片麻痺者では,左右対称的な下肢荷重配分を目的とした麻痺側下肢への積極的荷重による立ち上がり練習ではなく,非麻痺側優位の最適な非対称性立ち上がり動作の獲得をめざした理学療法が有効である可能性を示した.

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特集 最適な非対称性動作を考える

力学的視点からみた非対称性の意義
水谷康弘

解剖学的視点からみた非対称性の意義
白鳥秀卓

左右対称の歩行動作を生み出す神経基盤──歩行障害に表れる非対称性をどう捉えるか?
河島則天,他

非対称性からみた健常者の歩行動作の特徴
平田恵介,他

非対称性からみた健常者の立ち上がり動作の特徴
鈴木 誠,他

最適な非対称性歩行動作の獲得をめざした理学療法──運動器疾患
南角 学,他

最適な非対称性歩行動作の獲得をめざした理学療法──中枢神経疾患
荻原啓文

最適な非対称性立ち上がり動作の獲得をめざした理学療法──運動器疾患
井原拓哉

最適な非対称性立ち上がり動作の獲得をめざした理学療法──脳卒中片麻痺
谷内幸喜


■Close-up
小型カメラの理学療法活用──片麻痺歩行の評価を目的とした臨床指向型歩行評価システムの開発
春名弘一,他


●とびら
二つの三猿
金子秀雄

●視覚ベースの動作分析・評価⑤
肩関節──外傷性肩腱板断裂保存療法において他部位からの介入が奏効した症例
北山達也

●運動療法に活かすための神経生理(学)③
下肢の運動により痙縮を有する脳性麻痺者の神経生理学的抑制は生じるか?
安部千秋

●今月の深めたい理学療法周辺用語⑨
超音波エラストグラフィー
中村雅俊

●理学療法士のための「money」講座⑨
生命保険は必要か──掛け捨てはもったいない?
細川智也

●臨床実習サブノート
「どれくらい運動させていいかわからない」をどう克服するか⑥
回復期脳卒中患者に対する筋力増強運動
大田瑞穂

●症例報告
高度肥満を伴う両側人工膝関節全置換術後症例に対し吊り下げ型体重免荷式歩行器を用いた理学療法を実施した1例
髙瀬慶太,他

●ひろば
理学療法管理学
奈良 勲

●私のターニングポイント
Escape Your Comfort Zone
南波祐介

●My Current Favorite
地域づくりによる介護予防をめざして
倉地洋輔

●臨床のコツ・私の裏ワザ
使ってみようチルトテーブル──意外と使われない便利な道具を使うコツ
井上裕貴

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