理学療法ジャーナル Vol.58 No.7
2024年 07月号

ISSN 0915-0552
定価 2,090円 (本体1,900円+税)

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特集 視覚障害を併存する対象者の理学療法を考える

 理学療法対象者は重複障害を抱えることがしばしばあり,視覚に問題があることも少なくない.感覚機能としての視覚には重要な役割があり,視覚障害を合併すると運動機能の改善にも影響を与え,時に視覚障害のほうが主たる問題となることもある.一方,理学療法教育では視覚障害に関する知識を整理することは少なく,臨床現場で視覚障害のある方への対応に苦慮することも多いと予想する.本号の特集の目的は,視覚障害について知識を深め,視覚障害を合わせもった理学療法対象者への対応,対処の方法について学び,実践に生かすことにある.

視覚障害に対するリハビリテーション 清水朋美
 日本の視覚リハビリテーションは,長い間,眼科医療ではないところで発展をしてきた.視覚リハビリテーションは,眼科医療ではロービジョンケアと呼ばれ,発展途上の段階である.近年の超高齢社会を反映し,視覚障害と身体運動障害を合併した症例は増加しており,今後,眼科とリハビリテーション科との連携はさらに重要視される.視覚リハビリテーションについては,歩行訓練士という職種があることもぜひ押さえ,連携を図れるようになるとより有益な理学療法を実現できる可能性がある.

目の不自由とはどのようなことか 平田怜子,他
 本邦での視覚障害認定は,視力と視野を個別に評価し等級指数を合算する形で行われている.視覚リハビリテーションにおいては,視力や視野の障害以外にも色覚異常や羞明など患者のquality of visionにかかわる多方面での評価が必要となる.その際,疾患別特徴や社会背景なども考慮し,個々人のニーズを正しく判断することが重要である.

目の不自由な方に関する施策やサービス 萬代由希子
 障害者がサービスを受けることは,障害者権利条約に権利として位置づけられている.目の不自由な方に関するサービスは,主に障害者総合支援法,身体障害者福祉法に規定されている.サービスのなかでも特に同行援護は,目の不自由な方の外出支援を行う重要なサービスであり,社会参加を促進することが可能となる.今後の課題として,わが国における政策策定過程においても障害当事者の参加・参画のもと,つくられることが必要である.

目に不自由がある方とのコミュニケーションスキル 藤下直美
 視覚障害者が感じる【不確信さ】とは? 視覚以外の感覚を活用する3つの要素とは? 大切なことは目の前にいる存在が,視覚障害者という普通名詞ではなく一人の人であるということ.視覚の果たす役割を考えつつ,視覚を使うことのできない視覚障害者の不便さとは何かに触れ,それを解消し,信頼関係を築くコミュニケーションをするために必要なヒントを紹介する.

後天眼球運動障害による複視の視能訓練 岡 真由美,他
 後天眼球運動障害のうち麻痺性斜視は,麻痺筋の拮抗筋の痙縮が原因で発症し,複視を来す.視能訓練は麻痺筋の筋力回復と同側眼拮抗筋の痙縮解除を目的とする.視能訓練の目標は,融像野(眼球運動により両眼単一視が可能な範囲)の拡大である.一方,sagging eye syndrome(SES)は眼窩周囲組織である眼窩プリーの加齢変化が原因の斜視である.SESは視能訓練の対象とならないが,加齢とともに増加する疾患として念頭に置き,斜視治療の基本である屈折矯正(眼鏡装用)により複視の消失を確認することで,治療の第一歩を担うことができる.

視覚障害のある方の歩行 別府あかね
 視覚障害者の歩行練習は,機能の回復を主眼としたものではなく,保有視覚を活用しながら,聴覚,触覚,運動感覚など他の感覚を活用して新たな技術を身につけていく過程となる.また,英語では「Orientation & Mobility(定位と移動)」といい,目的地まで安全・安心して移動(mobility)するために,周囲の環境を確認(orientation)しながら歩くことを意味する.視覚障害者の歩行方法や白杖の種類の紹介,病院や自宅での環境整備について解説する.

視覚障害が姿勢制御や運動学習に与える影響 長谷川直哉
 姿勢制御や運動学習において,視覚情報は欠かせない感覚入力である.しかし,視覚障害のある対象者ではさまざまな方法により視覚入力を代償していることが明らかにされつつある.本稿では,全盲患者およびロービジョンの対象者において,姿勢制御や運動学習に対して視覚障害が与える影響をシステマティックレビューや健常者を対象とした研究から解説する.加えて,視覚障害のある対象者におけるアプローチ方法について私見を交えて述べる.

視覚障害がある理学療法対象者のケーススタディ──病院などの医療機関編 坂上詞子,他
 視覚障害を伴う患者の理学療法を実施するにあたり,視力や視野などの問題を的確に捉え,安全に実施できるよう工夫する.また障害は個々の患者で重複する障害の内容や程度が異なるため,患者ごとに経過も異なることを理解し,他職種と協力することが大切である.活動量が低下しないよう,場面ごとに難易度を分ける工夫も必要である.また,視覚障害を発症した患者はさまざまな不安を抱えていることがあり,精神心理的な配慮も必要となる.

視覚障害がある理学療法対象者のケーススタディ──訪問リハビリテーションなどの在宅編 山本真未,他
 生活期理学療法では転倒・転落により重症度が上がり,在宅生活が困難となるケースが散見する.さらに視覚障害を併発している高齢者では転倒リスクが増大すると考えられる.本稿では転倒予防を目的に介入した,先天性の視覚障害を有し多職種との連携を要した症例と,進行性疾患により後天的に視覚障害を呈した症例の2例を報告する.


本誌では理学療法,リハビリテーションの考え方に立ち,「トレーニング」について法律・行政用語を除き,「訓練」という用語の使用を極力避けるように心がけておりますが,本特集内において,視能訓練士,歩行訓練士の領域では領域の慣習に則り「訓練」の語を採用しました.

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特集 視覚障害を併存する対象者の理学療法を考える

視覚障害に対するリハビリテーション
清水朋美

目の不自由とはどのようなことか
平田怜子,他

目の不自由な方に関する施策やサービス
萬代由希子

目に不自由がある方とのコミュニケーションスキル
藤下直美

後天眼球運動障害による複視の視能訓練
岡 真由美,他

視覚障害のある方の歩行
別府あかね

視覚障害が姿勢制御や運動学習に与える影響
長谷川直哉

視覚障害がある理学療法対象者のケーススタディ──病院などの医療機関編
坂上詞子,他

視覚障害がある理学療法対象者のケーススタディ──訪問リハビリテーションなどの在宅編
山本真未,他


■Close-up 物理療法と運動療法の併用
経皮的迷走神経刺激と運動療法の併用
横田裕丈

経頭蓋直流電気刺激と運動療法の併用
松田雅弘,他

全身振動刺激と運動療法の併用
小宮 諒

■特別記事 連載スピンオフweb企画 開催レポート
難しい症例から理学療法を考える──誌面には書きにくい悩みの本音


●とびら
藤の花
河尻博幸

●視覚ベースの動作分析・評価③
膝関節──下肢運動機能パターン障害を生じる変形性膝関節症の症例
市川和人,他

●運動療法に活かすための神経生理(学)[新連載]
ストレッチと筋の随意収縮後のリラクセーションが筋にもたらす神経生理学的機序の違いは?
原田恭宏,他

●今月の深めたい理学療法周辺用語⑦
TeamSTEPPS
池田一樹

●理学療法士のための「money」講座⑦
知っておきたい住宅ローン──固定金利,変動金利って何? 頭金,繰り上げ返済はどうする?
細川智也

●臨床実習サブノート
「どれくらい運動させていいかわからない」をどう克服するか④
前十字靱帯(ACL)再建術後のジャンプ・着地動作練習
松尾高行

●症例報告
左視床出血によるhypesthetic ataxic hemiparesisを呈した症例に対して急性期よりエルゴメーターを実施した1例
吉津智晃,他

●私のターニングポイント
どの時期に,どのメンターを選択するか
髙村雅直

●My Current Favorite
整形外科学に基づく理学療法
宮本 梓

●臨床のコツ・私の裏ワザ
呼吸リハビリテーションにおける非侵襲的モニタリング活用のコツ
石光雄太

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