特集　骨盤底機能障害と運動器障害の連関
企画：田舎中真由美

　骨盤底筋群は骨盤内臓器の支持，排泄機能（排尿・排便），姿勢保持，骨盤の安定化，腹圧コントロール，性的活動と役割が多岐にわたる．このため，骨盤底機能障害は尿失禁，骨盤臓器脱，便秘などの排泄・生殖器症状だけでなく，腰痛・骨盤帯疼痛，股関節疾患などの運動器疾患に大きく関連するため，かかわる診療科も多様である．本特集により，骨盤底機能と骨盤底機能障害の理解を深め，骨盤底機能障害を運動器障害として捉える．さらに他診療科と連携し，適切な評価・治療が普及していくことを願う．

泌尿器科医から理学療法士に求めること──泌尿器科医とともに取り組む泌尿器科疾患・骨盤底機能障害　青木芳隆
　尿失禁などの下部尿路症状や慢性骨盤痛に対して，骨盤底筋トレーニングを含む理学療法の役割は重要である．尿失禁は産後および40歳以上において起こる一般的な問題で，そのタイプによって治療法も異なるため，丁寧に多角的に評価することが大切である．泌尿器科疾患を有する患者に対し，理学療法士と泌尿器科医が連携し，専門的な知識と情報を共有しながら，適切な治療やケアを提供することが期待される．

産婦人科医から理学療法士に求めることと期待──ライフコースに応じたマイナートラブルへの対応　重見大介
　骨盤底機能障害によって生じる尿失禁や骨盤臓器脱，恥骨痛，腰痛などは特に妊娠期から産後にかけて表面化・悪化することが多く，対処法・治療法に制限があるなかで理学療法への期待は大きい．有効性や安全性のエビデンスは蓄積されてきており日本でより普及することが望ましいが，そのための体制整備には知識／ノウハウの相互共有，国内におけるデータベース構築とエビデンス蓄積，保険収載や補助金助成の実現などが重要である．

整形外科医から理学療法士に求めること──骨盤底と股関節との関連を診療科を超えて診る　田巻達也
　変形性股関節症に対する人工股関節全置換術の術後に，股関節機能の改善に伴い尿失禁症状が改善する症例が存在する．骨盤底において，内閉鎖筋と肛門挙筋とが密接な解剖学的関係をもつことから，股関節機能が骨盤底機能に影響を与える可能性があると考えられる．骨盤底機能低下に伴う疾患に対しては，診療科を超えた総合的な診療アプローチが必要であり，理学療法士の担う役割は非常に大きい．

リハビリテーション科医から理学療法士に求めること──障害者の妊娠・出産について考えるリハビリテーション医療の視点　上出杏里
　障害を有する女性の場合，妊娠・出産に伴う骨盤底機能障害，運動器障害について，それらの身体機能・構造変化が生活機能（活動・社会参加）へ及ぼす影響が大きいことに留意する．リハビリテーション医療の視点から生活機能（活動・社会参加）が阻まれることのないよう，運動療法だけでなくBio-Psycho-Social（BPS）モデルに基づいた評価，介入・支援計画が必要である．

骨盤底機能と腰椎・骨盤帯疼痛　城内若菜
　腰痛や骨盤痛が生じることで骨盤底機能にどのような影響が生じるのか，骨盤底機能は腰椎，骨盤の安定性にどのように関与するのか，疼痛を予防するために骨盤底のどのような機能が必要なのかについて，エビデンスや臨床的経験を踏まえ述べる．また，腰痛，骨盤痛を呈する症例に対する骨盤底機能の評価や治療を症例も含めて紹介する．

スポーツにおける骨盤底機能障害　磯　あすか，他
　骨盤底機能障害の有病率は一般人口よりアスリートで高く，特に高負荷のスポーツで女性の尿失禁が多い．その一方アスリートの骨盤底機能障害に対する疫学や介入方法は標準化されていない．また，産後のアスリートの競技復帰のためには，腹壁や骨盤底機能に加えて特に競技動作時の体幹・股関節の安定性を意識する．競技復帰は他のスポーツ外傷・障害と同様に機能評価に基づいて段階的に活動レベルを上げる．

骨盤底機能と変形性股関節症　西村圭二
　変形性股関節症患者は，股関節機能低下や歩行障害だけでなく，尿失禁や骨盤臓器脱などの骨盤底機能障害も有することがある．骨盤底は股関節周囲筋との筋連結を認めるため，股関節変形や不良姿勢により骨盤底への負荷が増大し，機能低下を引き起こす．股関節と骨盤底との関係性を理解し，骨盤底を含むインナーユニットとして下部体幹を捉え，股関節とリンクさせた理学療法を行うことで，排尿障害および跛行の改善につながる．

骨盤底機能と妊娠期の腰痛　山﨑愛美
　妊娠・出産は骨盤底構造にダイナミックな変化をもたらし，それに伴う機能障害を引き起こすことがある．本邦では，妊婦に対する理学療法の介入は，制度や環境の問題から十分に整っていない．その反面，骨盤底の問題も含め運動器疾患の視点で介入できることは非常に多い．臨床で多くみられる妊婦の腰痛や骨盤帯痛も骨盤底との関連がある．その評価・介入について解説する．

骨盤底機能と排便困難型便秘　永井豊美
　排便にかかわる構造や組織は骨盤底の後方に位置し，小腸から大腸，肛門へと排泄物を送り，排出あるいは貯める機能を有する．このなかには不随意筋と随意筋の双方が存在し，これらは体幹や股関節の機能とも連携している．本稿では，排便にかかわる機能を運動器の一部として捉え，理学療法士の行う評価・治療について症例を通じて述べる．

男性における骨盤底機能と排泄機能障害　井出志正
　前立腺癌は本邦男性の罹患率の第1位である．前立腺全摘除術後尿失禁に対する保存療法の第一選択は骨盤底筋トレーニングであるとされる．しかしながら，本邦においてはパンフレットを用いた口頭指導のみが行われることが多く，患者が誤った骨盤底筋トレーニングを習得しても見逃される場合がある．当院ではエコー（M-mode），Cine magnetic resonance imaging（MRI），触診を併用した骨盤底筋トレーニング指導を行っており，指導のポイントや適切な骨盤底筋トレーニングについて解説する．
 

特集　骨盤底機能障害と運動器障害の連関

エディトリアル　骨盤底機能と機能障害に対する理学療法
田舎中真由美

泌尿器科医から理学療法士に求めること──泌尿器科医とともに取り組む泌尿器科疾患・骨盤底機能障害
青木芳隆

産婦人科医から理学療法士に求めることと期待──ライフコースに応じたマイナートラブルへの対応
重見大介

整形外科医から理学療法士に求めること──骨盤底と股関節との関連を診療科を超えて診る
田巻達也

リハビリテーション科医から理学療法士に求めること──障害者の妊娠・出産について考えるリハビリテーション医療の視点
上出杏里

骨盤底機能と腰椎・骨盤帯疼痛
城内若菜

スポーツにおける骨盤底機能障害
磯　あすか，他

骨盤底機能と変形性股関節症
西村圭二

骨盤底機能と妊娠期の腰痛
山﨑愛美

骨盤底機能と排便困難型便秘
永井豊美

男性における骨盤底機能と排泄機能障害
井出志正

■Close-up　高齢者とのコミュニケーション
高齢者とのコミュニケーション──想いを推察する
山口美和

高齢者とのコミュニケーション──機能と能力を理解する
横山友徳

■特別記事
理学療法士が活躍するマンガ，知っていますか？
境界のエンドフィール（集英社）

●とびら
私とリンパ浮腫
木ノ下悠子

●単純X線写真 読影達人への第一歩（最終回）
脊椎圧迫骨折
古谷英孝

●今月の深めたい理学療法周辺用語 3
発達性協調運動障害（developmental coordination disorder：DCD）
新田　收

●中間管理職の悩み 9
スペシャリストであるスタッフの働き方を，どのように考え進めればいいでしょうか？
［回答者］森　憲一

●理学療法士のための「money」講座 3
老後の資金のために投資を！って言われても……──年金だけではだめなのか？
細川智也

●臨床実習サブノート
臨床実習で技術のステップアップをめざそう（最終回）
治療技術⑥ 日常生活活動練習
岡崎俊秀，他

●短報
理学療法士国家試験に対するChatGPTのパフォーマンス評価
澤村彰吾，他

●症例報告
妊娠前から分娩後に至る骨盤形態の縦断的症例検討
増田一太，他

●ひろば
理学療法の原理原則論を問う
中村壮大

●私のターニングポイント
知識と知恵
諏訪かおり

●My Current Favorite 24
理学療法士に必要なキャリアデザインとは
土居誠治

●学会印象記
第11回日本運動器理学療法学会学術大会──課題を探求し，新たな課題を探究する
下澤駿介

●第10回日本予防理学療法学会学術大会──介護予防の変遷と地域づくりを学ぶ
鹿内誠也

●臨床のコツ・私の裏ワザ
大殿筋の収縮を確認するコツ──その背景と考え方を治療に活かすには
岡本和久

●Close-up 高齢者とのコミュニケーション「思いを推察する」（山口美和） supplement

下記より、図2「5W2Hワークシート」のA4サイズ版をダウンロードいただけます。

• 図2 supplement　「5W2Hワークシート」A4サイズ版