理学療法ジャーナル Vol.57 No.11
2023年 11月号

ISSN 0915-0552
定価 1,980円 (本体1,800円+税)

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特集 ヴィジョン──見えるものと見えないもの

 理学療法士あるいは医療職にとって,「みる」という言葉はさまざまな意味をもっている.「診る」,「看る」,「視る」など多様な漢字(意味)があてられ,さらに「vision(ヴィジョン)」となると,視覚を超えて「視角(パースペクティブ)」,「構想」などを含むことになる.本特集では,理学療法における「ヴィジョン」の多義性がまとう臨床的意義をさまざまな視角から解き明かす.

視覚というマルチプロセス──「見つめ合い」の現象学に向けて 稲垣 諭
 本稿では,現象学という現代哲学のアプローチを用いながら「見る」という経験が,対象を単に中立的に見る働きではないこと,つまり見ることは同時に,それとは別の何かを行ってしまうマルチプロセス的な経験であることを明らかにする.その際「まなざし」にとって本質的な「見られている意識」および「視線の交差」において,何が起きているのかを詳述することで,見ることが臨床場面において決定的に重要となるポイントとリスクを浮き彫りにする.見ることは,比喩ではない仕方で,他者に触れ,襲い,かかわり,庇護する関係性の力学を構成する決定的なモメントである.

無視された無視症状──見ていないものは無視されるのか 高村優作
 空間無視は脳損傷後に生じる空間性注意の障害の一つであり,脳損傷と対側の刺激を報告・反応することの障害として定義される.無視空間は見えていないように思われるが,潜在的情報処理が進んでいる場合や,刺激内容や環境,本人の気づきなどによって変化することがある.周りから見てわかりにくい症状であるため,空間無視の存在を見落とさないこと,本人の気づきや,心理面の様相などを注意深く観察することが重要である.

鏡のなかのヴィジョン 渡辺 学
 理学療法において,鏡は姿勢や動作を再学習するための治療手段としてしばしば使用される道具である.患者が顔や全身など直視できない自らの姿を,鏡を通じて観察することで自己身体に対する気づきをもたらすことを可能にさせる.一方で,鏡像による左右同定や運動方向の識別に混乱することや,身体イメージと鏡像とのギャップにより落胆することをしばしば経験する.本論文では鏡に映る自己や左右の識別と,幻肢痛の緩和や片麻痺の回復に用いられるミラーセラピーの生理学的機序の仮説を紹介し,鏡のなかに「見える」が直接的に「見えない」身体を自己であると認知することの複雑さと,臨床での鏡の使い方について解説する.

動作・仕草をみる──見えるものと見えないもの 檀辻雅広
 動作・仕草を観察するときには,表面から見えるものと表立って見えないものがある.理学療法を評価から治療へと臨床推論を進めていく過程において,隠れていて見えないものを見ることは非常に重要である.本稿では,先入観をもつことの弊害と自ら主体的に観察することの有用性に焦点を当て,見えないものを見るためにはどうすればよいのか,本質を見抜く洞察力について考える.

痛みをみる──自己の痛みと他者の痛み 池田耕二 痛みは主観的・個人的不快情動体験である.痛みの原因は身体組織の損傷だけではない.痛みが継続する慢性痛の場合には,①運動・身体活動と休養,②睡眠,③栄養・食事行動,④排泄,⑤ストレス,⑥社会的なかかわり,⑦生活史の7 項目に,孤独ストレスや苦悩,理学療法士の治療態度やかかわり方なども原因に加わる.また,患者の感情・情動,苦悩,思い込み・期待・注意,共感とも慢性痛は関連していると考えられている.このように慢性痛は多様なものから形成され複雑な様相を呈する.そのため慢性痛の理学療法では,慢性痛患者の痛みを理学療法士が理解することから始まる.本稿では,慢性痛の原因の多様性を整理し,感情・情動,苦悩,思い込み・期待・注意,共感という観点から,慢性痛の理学療法の際の理学療法士のかかわり方や配慮,工夫を筆者の経験を踏まえ提案する.

隠れている生活をみる──患者背景を推察する 伊藤卓也
 生活期では生活機能,活動と参加,自立支援,地域づくりといった考え方やかかわりが重視されるようになった.このため生活期理学療法では,心身機能だけでなく,患者の生活やその背景を十分に把握して介入していかなければならない.疾患,障害,機能低下,生活環境など,「見えるもの」を十分に観察することはもちろんのこと,その観察をもとに背景に隠れている「見えないもの」へまなざしを向け,推察していくことが重要である.

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特集 ヴィジョン──見えるものと見えないもの

エディトリアル ヴィジョンをめぐって
網本 和

視覚というマルチプロセス──「見つめ合い」の現象学に向けて
稲垣 諭

無視された無視症状──見ていないものは無視されるのか
高村優作

鏡のなかのヴィジョン
渡辺 学

動作・仕草をみる──見えるものと見えないもの
檀辻雅広

痛みをみる──自己の痛みと他者の痛み
池田耕二

隠れている生活をみる──患者背景を推察する
伊藤卓也
 


■Close-up HADって何だろう?
HAD(hospitalization-associated disability;入院関連機能障害)の理解と対策
角田 亘

疾患別のHAD──呼吸器疾患患者のHAD
髙橋佑太

疾患別のHAD──循環器疾患患者のHAD
平川功太郎

疾患別のHAD──がん患者のHAD
福島卓矢,他


●とびら
私が大切にしていること
瀧 昌也

●単純X線写真 読影達人への第一歩 8
大動脈弓の石灰化
中尾周平,他

●インシデント,ヒヤリハットから学ぼう 5
思い込み・コミュニケーションエラーによるインシデント──転倒を繰り返していた患者家族とリハビリテーションチームとのコミュニケーションエラー
髙橋智子

●難しい症例のみかた 5
人工膝関節全置換術後に術後遷延性疼痛を認めた症例に対する理学療法
田中 創,他

糖尿病を有し,足部潰瘍により入院となった多疾患合併症例への対応
田村由馬,他

●中間管理職の悩み 5
経営目標達成と教育時間の確保の両立に必要なことは何ですか
[回答者]本田知久

●臨床実習サブノート 臨床実習で技術のステップアップをめざそう 8
治療技術② 筋力増強運動,全身持久運動
佐藤久友,他

●短報
女子学生における月経痛に対する運動効果の認識
漆川沙弥香,他

●プラクティカル・メモ
関節リウマチ患者の座位・臥位における姿勢・動作の指導
上田泰久,他

●ひろば
理学療法士は幸せを売る専門職
奈良 勲

●私のターニングポイント
ターニングポイントに出合うには
田崎竜一

●My Current Favorite 20
人の行動を変えるには?──ナッジ理論
中村睦美

●学会印象記
World Physiotherapy Congress 2023──ドバイから世界理学療法連盟学会を振り返る
横山美佐子

World Physiotherapy Congress 2023──プロフェッショナリズムの重要性を再認識したきっかけ
吉田龍洋

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