特集 ストーン・ウォーズ 果てしなき“石”と医師との闘い
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私たち医師と“石”との果てしなき闘いは、古くはヒポクラテスの時代からと言われています。救急外来で診療していても尿管結石や胆石を診療しない日はほとんどありませんし、結晶沈着性関節炎(CPPD)や耳石による良性発作性頭位めまい症(BPPV)も日々遭遇する疾患でしょう。かのウィリアム・オスラー先生も1892年に出版した『The Principles and Practice of Medicine』の中で、尿管結石について明記しています。結石性疾患は古今東西のコモンディジーズです。
結石や石灰化が起こる場所や患者背景は実に多彩であり、その疾患スペクトラムや病態生理的機序に精通しておくことは、あらゆる臨床医にとって重要です。各臓器システムにおける結石・石灰化を整理し、背景となる食事や使用薬剤、ホルモンやビタミン摂取、リスク因子としての感染症や手術などの外科的治療介入についてまとまって記載されたものは、実はほとんど見当たりません。
本特集では、代表的な結石性疾患から比較的稀な疾患まで、“石”について可能な限り網羅できる特集を目指し、「結石性疾患のバイブル」として活用されることを期待しています。
ISSN | 2188-8051 |
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定価 | 2,860円 (本体2,600円+税) |
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Editorial
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Editor's Talk 矢吹拓先生に特集の内容を解説いただきました。
〔エピソードI〕 果てしなき“石”との闘い
矢吹 拓(国立病院機構 栃木医療センター)
分類学の父であるカール・リンネは『自然の体系(Systema Narurae)』(1735年)の中で、「自然界は鉱物界・植物界・動物界の3界に区分される」と体系化した。リンネはさらに「鉱物は成長する。植物は成長し生きる。動物は成長し、生き、感覚を持つ」と述べている。18世紀に登場した博物学者であるジャン=バティスト・ラマルクは、著書『動物哲学』の中で「動植物と鉱物の間には超えられない断絶がある」と強調し、分類体系として両者には大きな差異があるとした。
本特集テーマは「石」と「人体」である。リンネやラマルクからすれば、全く別の分類体系である鉱物界と動物界が、超えられない断絶を超え、人体の中で出合っているのは大変感慨深い。
▼
「石」と「人体」で思い出すのは、手塚治虫先生の医療漫画『ブラック・ジャック』に掲載されている「ときには真珠のように」である。ネタバレで恐縮だが、内容を共有させていただく。
ある日ブラック・ジャックの元に1本のメスが届けられる。メスは硬い鞘のような石に包まれていた。
送り主は「J.H.」。ブラック・ジャックが幼少期に瀕死の重傷を負った際に、手術で命を救ってくれた医師「本間丈太郎(J.H.)」からだった。
ブラック・ジャックが本間医師を訪ねると、本間医師は病床に臥していて、ブラック・ジャックに重大な打ち明け話をする。
なんと、あのメスは以前ブラック・ジャックを手術した時に、本間が体内に置き忘れてきたものだというのだ(→p.915)。メスを体内に忘れたことに気付いた本間は、いつしかメスが体内に突き刺さり大事故に繋がるのではないかと気に病みながらも、結局打ち明けることができなかったというのである。
本間は7年後にもう一度ブラック・ジャックを手術することになった。再手術の際にメスを探すと、なんと、メスはカルシウムの石のような鞘に包まれていた。真珠貝が体の中に入った砂の欠片を真珠質で包んでいくように、体内のメスをカルシウムで包み込んだというのである。意思を持つことのない石が、長期間にわたって危険から体を守ったという大変興味深いエピソードだ。
本間は最期に、次のようにブラック・ジャックに語りかける。「人間が生き物の生き死にを自由にしようなんておこがましいとは思わんかね……」
▼
「石と人体」「鉱物と動物」。分類体系は異なるが、この両者の邂逅は、現代医療においてなお、重要トピックである。石の持つ永遠性と人体の持つ有限性は、ある意味では対照的な関係であり、その対決は必然とも言えるのかもしれない。
本特集では、代表的な結石性疾患から比較的稀な石灰化病態まで、各領域のエキスパートの皆様に素晴らしい原稿を賜った。臨床現場における「石」について、できる限り網羅できる特集を目指した。本特集が多くの皆様の手に届き、「石との闘い」に少しでも役立つことを期待している。
P.S. 本特集は“エピソードI”である。次回“エピソードII”に乞うご期待!
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価格については医書.jpをご覧ください。
特集 ストーン・ウォーズ──果てしなき“石”と医師との闘い
企画:矢吹 拓
■総論
果てしなき“石”との闘い|〔世界編〕と〔日本編〕
矢吹 拓
■疾患別各論~コモンな疾患群
①頭頸部──頭蓋内石灰化/頭蓋内血管性病変/腫瘍性病変/唾石
安藤沙耶|塚元鈴音|金柿光憲
②呼吸器──肺結核/気管支結石/リンパ節石灰化など
山本晴香
③消化管──胃石/腸石/胆石/膵石/糞石/陶器様胆囊/腫瘍内石灰化
馬場 博・山田康成・浅山良樹
④ 腎・泌尿器・婦人科──腎・尿管結石/前立腺石灰化/子宮筋腫石灰化/奇形腫/乳腺石灰化
名嘉祐貴
⑤ 血管系──冠動脈・大動脈・心臓弁・静脈・中膜石灰化
大塚勇輝・谷山真規子・大塚文男
⑥筋骨格系──CPPD/石灰化腱板炎/脊柱靭帯骨化症
多田尭央
■疾患別各論~レアな疾患群
①原発性副甲状腺機能亢進症(半月板石灰化、尿路結石)
早瀬卓矢・藤岡健人・平岡栄治
②セフトリアキソン偽胆石症
平田理紗・多胡雅毅
③石灰沈着性頸長筋腱炎
土田知也
④ラプンツェル症候群(毛髪胃石症)
多賀谷貴史
⑤胆石イレウス
金子由佳
⑥陶器様胆囊
横山健介・菅野 敦・福嶋敬宜・山本博徳
⑦特発性基底核石灰化症(いわゆるFahr病)
山根清美
⑧アスベスト関連疾患(胸膜石灰化)
小澤良之・野村昌彦・大野良治
⑨ガーゼオーマ
奥野倫久・黒川雅史・奥野吉昭
⑩収縮性心膜炎(心膜石灰化)
坂口拓夢
⑪カルシフィラキシス
守矢英和
⑫進行性骨化性線維異形成症(FOP)
八木夏希
⑬開腹創瘢痕内異所性骨化
矢吹 拓
■病態別各論
①炎症性腸疾患と結石性疾患
宮島茂郎|石井 龍|高津典孝|久部高司|羽賀宣博
②感染症と石灰化病変
宮里悠佑
③悪性腫瘍と石灰化
野﨑周平
④膠原病と石灰化
鈴木康倫
⑤薬剤による石灰化・結石
矢吹 拓
今月の「めざせ!総合診療専門医!」問題
●Editorial
〔エピソードI〕果てしなき“石”との闘い
矢吹 拓
●What's your diagnosis?|260
愛も美もない
山下新菜|金森真紀
●アスクレピオスの杖|想い出の診療録|52
後悔先に立たず
安藤裕貴
●臨床教育お悩み相談室|どうする!?サロン|17
怒られるよりも、(作為的でも)褒められたい、真剣(マジ)で
長野広之|木村武司|佐田竜一
●臨床医のためのライフハック|限りある時間を有効に使う仕事術|17
ワーク・ライフ・バランス──仕事とプライベートを両立するには?
中島 啓
●オール沖縄! カンファレンス Ver.2.0|レジデントの対応と指導医の考え|91
甲状腺自己抗体陰性の甲状腺機能低下症の原因は?
棚橋 瑛|高嶺 光|徳田安春、他(監修)
●ジェネラリストに必要な ご遺体の診断学|17
解剖制度のお話
森田沙斗武
●投稿 GM Clinical Pictures
胸膜炎と腸腰筋膿瘍が同時に出現した1例
谷江智輝|篠澤早瑛子|鎌田勇樹
Psoas signは“not 腸腰筋徴候”!?
横山誓也|鈴木 哲|木佐健悟
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