• 医学

2026.06.01

 「状況が悪化してもし心臓が止まったら、心臓マッサージをするかどうか家族で話し合って決めてきてください」というやりとりを耳にしたことはないだろうか。このやりとりに疑問を覚えない人ほど、『新訂版 緊急ACP』(『医学書院のレジデントBOOKカタログ2026』 p.69)を読んでほしい。本書は救急の現場にフォーカスしつつ、準備が整っていない「死」に医師が向き合う状況全般で役立つ本である。

 本書が教えてくれるのは、悪い病状を伝え、今後の治療方針を患者・家族らと相談するための対話法である。抽象的な理念ではなく、「どの手法で話を進めるか」「どんな態度・言葉を選ぶか」が具体的に示されているため、研修医でも迷わず活用できる。例えば、表出された感情に向き合わないまま医学的データを提示しても、相手の理解や納得にはつながりにくい。そこでNURSE(Name, Understand, Respect, Support,Explore)というフレームワークを活用して感情を受け止めてから、データや選択肢を提示する流れで、明解な手順が整理されている。

 患者・家族との関係性を大切にすることは、単なる情緒的な付加価値ではない。安全で納得度の高い意思決定を支えるための、医師の専門的業務である。死にかかわるコミュニケーションは難易度が高いからこそ、型を学び、反復して身につけたい。本書はその出発点に最適だ。

秋田大学大学院医学系研究科救急・集中治療医学講座 病院講師

X : @Yukkuri_991