• 医学

2026.06.01

 「古典」と聞くと、どうしても身構える。堅い文体に、難解な展開。読み手に覚悟を求めてくる。それなのに内容は時代を越えて普遍的で、読むたびに新しい示唆を得られる。だがやはり再読には勇気が要る。これが一般的な古典の姿であろう。

 では、青木本こと『レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版』(『医学書院のレジデントBOOKカタログ2026』 p.42)はどうか。確かに、本書は名実ともに古典であるものの、他の古典とは一線を画す作品でもある。レジデント諸君には誤解されがちだが、この名作は平易で柔らかな口語体で書かれ、まるで頼れる兄貴分が隣に座って語りかけてくれるような温かさに満ちている。見た目のハードルとは裏腹に、実は最も入門書と呼ぶにふさわしい、通読可能な一冊なのだ。

 腎盂腎炎の患者にセフトリアキソンを投与したが、3日経過しても解熱せず、抗菌薬を変更すべきか迷っているーー。そんな臨床の岐路に立ったときに本書を開いてほしい。「腎盂腎炎はただちに解熱しない」とはっきり書いてある。感染症診療で最も大切なのは、治療効果判定のパラメータを誤らないことーーつまり、発熱やCRPに振り回されないことである。この視点を日本の多くの指導医に共有させた原点こそが、他ならぬ青木本だ。

 半信半疑で構わない。まずは本書の冒頭38頁だけ通読すること。ここには、オーセンティックな感染症診療を行うための共通言語が凝縮されている。優れた指導医が日々見ている景色を自分の瞳に映したいと願うのなら、この一冊を避けてはいけない。

筑波大学附属病院病院総合内科 講師

2017年東大医学部卒。茨城県立中央病院,東大病院感染症内科,英Anglia Ruskin大大学院(MBA)などを経て,25年より現職。著書に『知識がつながる抗菌薬』(医学書院)。