今日の理学療法指針

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いま“現場”で求められているのは究極の奥義ではない! 本書は、(1)誰もが実践できる具体的な治療/介入プログラムを本文と表で詳解、(2)学問的な体系にこだわらず臨床の処方状況を重視、一定以上遭遇する疾患・病態を網羅、(3)エビデンスや標準的な知見に基づいた知識と技術を統一フォーマットで解説、(4)臨床判断の流れをフローチャートで示した。個別性の高い理学療法の“現場”で奮闘する理学療法士のための“指針”がここにある。
シリーズ 今日の治療指針
総編集 内山 靖
編集 網本 和 / 臼田 滋 / 高橋 哲也 / 淵岡 聡 / 間瀬 教史
発行 2015年06月判型:A5頁:562
ISBN 978-4-260-02127-2
定価 5,940円 (本体5,400円+税)

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 1966(昭和41)年にわが国の理学療法士が誕生し,今年で50年の節目を迎える.これまでの理学療法士国家試験合格者数の累計は,129,942人に達している.
 この間,科学技術の進歩は目覚ましく,疾病構造の変化に加えて,生活習慣の変容,少子高齢化,国際化,情報化など,現代社会のニーズに適応した理学療法の構築と実行が求められている.国民の共通した期待は,健康寿命の延伸を目標として,生活の場に応じた連続した理学療法を,明確な根拠をもって安全かつ効果的に実施することがあげられる.
 理学療法士は人間を総体としてとらえ,参加や活動に資する基本的動作能力の回復を中核とする専門職である.近年では,運動器,神経,呼吸循環など,診療科に対応した高度な病態の理解に基づく専門医との連携による理学療法が求められている.一方で,基本的動作を保証する筋─骨・関節,神経の制御,動作遂行に必要な酸素供給と栄養,情動などを切り離してとらえることはできない.また,健康増進,転倒・傷害や再発の予防を含んだ行動変容への支援が,活動・参加の実現に大きな影響を与えることになる.
 このような現状を鑑みると,10万人を超える理学療法士が,さまざまな状況や立場で標準的な理学療法を実行するための指針が不可欠であるといえる.その内容は,(1)エビデンスや一般的な知見に基づくものであることに加えて,(2)多くの理学療法士が参考とするために特殊な技術や機器を用いずに模倣が可能な内容であることが望まれる.あわせて,(3)臨床実践で遭遇する疾患や病態を幅広く取り上げ,(4)統一のフォーマットで簡潔に示す必要がある.また,(5)理学療法の評価と治療における臨床推論を視覚的に示すことが重要となる.
 本書は,上記に掲げた骨子に基づき制作したものである.編集は,各領域の専門家である網本和先生,臼田滋先生,高橋哲也先生,淵岡聡先生,間瀬教史先生に参画いただき,全16章208項目を取り上げ,総勢111人の分担執筆で構成した.内容は,専門的な見地からの新鮮さと正確性に加えて,他領域からみた水準ならびに用語や表現の難解さについて逐一確認した.また,フォーマットの共通性については幾度となく執筆者へ改稿をお願いすることもあったが,真摯に対応いただいた.このような丁寧な工程を踏んだにもかかわらず,構想からわずか1年間で発刊できたことは,医学書院の七尾清 前専務取締役・編集長,青戸竜也 常務取締役・医学編集担当ならびに制作部の長友裕輝氏のご理解とご協力によるところが大である.
 なお,医学書院からは,1959年に『今日の治療指針』が発刊され,最新版では1,121項目が掲載されている.本書においても皆様方のご理解と忌憚のないご意見をうかがいながら,理学療法の実情を反映し続けられるように努力していきたい.

 2015年5月
 総編集 内山 靖

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編集方針・凡例

総論
 理学療法の現状と展望

各論
 I 骨・関節
  変形性股関節症
  股関節~大腿部の骨折
  股関節~大腿部の筋損傷
  変形性膝関節症
  膝関節~下腿部の骨折
  膝関節~下腿部の靱帯損傷
  膝蓋骨(亜)脱臼
  半月板損傷
  膝関節~下腿部の過用性障害
  足関節~足部の骨折
  足関節靱帯損傷(内反捻挫)
  アキレス腱損傷
  外反母趾
  肩関節~上腕部の骨折
  肩関節周囲炎
  投球障害肩
  肩関節(亜)脱臼
  腱板損傷
  肘関節~前腕の骨折
  肘関節~前腕の過用性障害
  手関節~手・手指の骨折
  手指腱断裂(再建術後)
  頸椎症
  腰椎椎間板ヘルニア(術後)
  腰部脊柱管狭窄症(保存療法)
  腰痛症(神経障害のない)
  関節リウマチ
  下肢の切断
  骨軟部腫瘍
  スポーツ外傷・障害
 II 中枢神経系障害
  脳血管障害
  外傷性脳損傷
  脳腫瘍
  脊髄損傷
  そのほか
 III 神経・筋
  パ-キンソン病
  脊髄小脳変性症
  筋萎縮性側索硬化症
  多発性硬化症
  筋ジストロフィー
  多発性筋炎・皮膚筋炎
  重症筋無力症
  末梢神経障害
  そのほか
 IV 小児・発達
  脳性麻痺
  二分脊椎
  デュシェンヌ型筋ジストロフィー
  ダウン症候群
  小児整形外科疾患
  先天性多発性関節拘縮症
  低出生体重児・ハイリスク児
  発達障害
  重症心身障害児
  遺伝性疾患・染色体異常
 V 呼吸器
  急性呼吸不全
  慢性閉塞性肺疾患(COPD)
  間質性肺炎
  気管支喘息
  そのほか
 VI 循環器
  心筋梗塞
  心不全
  大動脈解離
  治療後の理学療法
  不整脈
  在宅理学療法
  末梢動脈疾患(PAD)
  そのほか
 VII 糖尿病・代謝
  糖尿病
  メタボリックシンドローム
 VIII 腎臓
 IX 高齢者
 X ウィメンズ・ヘルス
 XI がん
 XII 精神疾患
 XIII 皮膚障害
 XIV 有痛疾患
 XV 予防

索引

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大きな節目の時期に提示された最新のアプローチ
書評者: 鶴見 隆正 (湘南医療大リハビリテーション学科長)
 深みのある藍色の『今日の理学療法指針』を手にしたとき,「とうとうここまで理学療法士界は来たのだ」という感慨を覚えた。なぜなら1966年に全国でわずか183名の理学療法士によってスタートした理学療法士界が,今年で50年という大きな節目を迎えたこの時期に,医学書院の名書シリーズである『今日の治療指針』に,内山靖氏総編集による本書が加わり,これまでの理学療法士界の臨床・教育・研究活動の「来し方」が凝縮され,さらなる理学療法の発展すべき指針が込められているからである。

 振り返れば草創期の理学療法士教育は3年制の専門学校で始まったが,現在では98大学,56大学院での教育へと進化し,理学療法士国家試験合格者の累計数は約13万人となり,その活動領域は医療から行政,産業保健などに広がっている。また日本理学療法士協会は神経理学療法や運動器理学療法などの7分野の認定・専門理学療法士制度を設けるとともに,日本小児理学療法学会や日本基礎理学療法学会などの12分科学会などの臨床研究体制が整っている。

 一方,この間の医療情勢は激変し,入院医療の機能分化と医療連携が強化され,施設医療から地域医療へシフトしている。同時に診療ガイドラインや診療の標準化,電子カルテなどのIT化が図られ,質の高い医療体制と地域包括的ケア体制の整備をめざしており,これらに対応した効果的な理学療法が求められている。このような中,病態・障害,評価,治療/介入,リスク管理,経過・予後など一連の理学療法過程を臨床判断の視点で解説し,統一のフローチャートで可視化した『今日の理学療法指針』の刊行は,まさに時宜を得ており意義深い。

 米国理学療法士協会では,「理学療法における臨床判断」と題した研修会を1980年10月に開催し,臨床への導入啓発に努めてきたが,広く汎用されるまでには至っていない。その背景には理学療法に関するエビデンスの蓄積不足と理学療法の個別性重視などが根底にあったが,現在では臨床推論の考えと臨床判断を踏まえた理学療法をいかに適応させるかが問われている。その点,本書は,日々の理学療法業務で担当することの多い運動器系疾患,中枢神経系疾患,呼吸循環器系疾患,代謝系疾患などの他に,重症心身障害児や精神疾患,周産期を含むウィメンズ・ヘルス,産業理学療法における健康増進や訪問理学療法などの全16章208項目を取り上げて,病態・障害を細分化し,病期や重症度に対応した臨床判断を基に,最新の標準的アプローチを全てに提示している。これは本書の最大の特徴である。

 臨床現場の理学療法士は,限られた分刻みの単位内に,impairmentのみでなく患者・家族の社会参加や活動までを視野に入れた個別性のある理学療法の立案・実施に腐心しているのが現状である。それだけに今回,分担執筆された各専門領域のエキスパート総勢111人の長年の経験則を基盤に,最新のエビデンスを軸にしたサイエンスとアートの融合した臨床力の提示は心強い。各項目には,臨床判断する上でキーポイントとなる文献提示と臨床のコツを織り交ぜており,読者にとって参考になるが,今後,改版される際には臨床判断のクリティカルな情報をさらに増して,臨場感に富む理学療法を思考する書となることを願っている。

 『今日の理学療法指針』は,医療最前線から介護老人保健施設や通所リハビリテーションなどで日々,臨床判断を重ねる理学療法士にとって必携必読の書として,また臨床実習に取り組む学生にとっても理学療法過程を理解する上で参考になる良書としてお薦めする。
臨床での思考過程をフローチャートで明示した書籍
書評者: 奈良 勲 (金城大学大学院リハビリテーション学研究科長/元日本理学療法士協会会長)
 日本に理学療法士が誕生したのは1966年で,今年で50年目の節目を迎える。この時期に,医学書院から『今日の理学療法指針』が刊行されたことは誠に喜ばしい。

 医学書院の看板書籍の一つである『今日の治療指針』は,1959年に創刊されている。当時,編集を担当された日野原重明氏は,「教科書ではなく,臨床の最前線にいる医師による実践書。その道の専門家が“私はこう治療している”ことを書くもの」と述べている。

 現在,医療においてはエビデンスに基づく医療が推進され,診療ガイドラインの推奨グレードは医師を含めた医療者の教育課程でも積極的に教授され,いわば治療の標準化が進められている。評者は,やはり医学書院の看板書籍である標準シリーズとして,2000年に《標準理学療法学》のシリーズ監修を引き受け,これまで15のタイトルを発行してきた。本書の総編集を担当された内山靖氏には,『理学療法評価学』 『理学療法研究法』 『理学療法学概説』の編集を依頼している。

 理学療法は,“サイエンスとアーツの総体”であり,かのWilliam Oslerは,“臨床医学は不確実なサイエンスであり,確率のアートである”と表現しているように,臨床実践は標準化と個別化の両輪で成り立っている。『今日の理学療法指針』では,理学療法士であれば日常臨床で遭遇するであろう16章208項目という多くの病態・動作不全を取り上げ,具体的な治療/介入プログラムを紹介している。

 本書の最大の特徴は,臨床判断の流れを統一のフローチャートで示している点にある。理学療法50年の歴史の変遷の中で,標準的な検査・測定と多くの治療手技が開発され,普及してきた。一方で,評価から治療方法を選択する臨床思考過程を実践的に明示した書籍は皆無であり,本書はこのことに真摯に取り組み,臨床での柔軟さを視覚化しようとする姿勢に魅力を感じる。

 執筆者111人の中には,中堅から若手も数多く含まれており,今後,改版を重ねることで,さらに充実した内容に熟成していくことを期待している。その際,本書では専門用語も厳密に使用し,「訓練」などの適切でない用語は使われていないが,「障害」という用語についても再考してほしい。また,病態,評価,治療/介入,リスク管理,経過・予後の5項目で統一されているが,上述した特徴から評価については極めて簡潔に記載されている。ぜひとも,『今日の診断指針』に対応する『今日の理学療法評価指針』も,近いうちに発刊されることを希望したい。また,医学・看護領域では,関連する書籍を電子版として利用者の便宜を図っていることから,この機会に,《標準理学療法学》シリーズや『理学療法学事典』と合わせて,理学療法関連書籍の電子化を進められることを医学書院に要望しておきたい。

 『今日の理学療法指針』は理学療法学を学ぶが学生や臨床で働く理学療法士はもちろんのこと,理学療法を処方する医師,チーム医療を展開する看護師,作業療法士,言語聴覚士も一読して携行する価値の高い書籍である。
実践可能な理学療法標準化の先駆的試み
書評者: 居村 茂幸 (茨城県立医療大名誉教授/植草学園大教授・理学療法学)
 わが国に理学療法士が誕生して,今年で50年の節目を迎えた。理学療法士養成教育については,その誕生2年前より始まっていたが,当時は専門分野の日本語教育書が皆無で,教師として世界理学療法連盟から派遣された外人教師が持ち込んだ英語のプリントのみであった。ただ記憶をたどると,この理学療法士誕生に前後して,必読書として理学療法・臨床医学・基礎医学編からなる3冊の『理学療法・作業療法教本』(天児民和編,医歯薬出版)が出版されている。この3冊を完全マスターしておけば国家試験も万全という,いわば,当時の理学療法士にとって最低限理解しなければならない知識と技術を網羅したスタンダード版であったと言える。

 現在,理学療法士の総数は約13万人に達し,かつ対応している分野も当初とは比較できないほど領域広く,また深くもなっている。これに伴い,各領域に精通した理学療法士によって,優れた学術書も数多く発刊されているが,ある分野ではあまりに多く,また興味が深すぎ,加えて医学書の体裁,つまり治療医学の切り口で執筆されていることも多く,われわれが主として扱う障害を中心とした医学について,病態から始まれば良い理学療法のあり方が希薄になっている感もあって,理学療法臨床場面での実践書としてはいささか歯がゆい感が強かった。

 このたび,医学書院より『今日の理学療法指針』が発刊された。本書は,1959年に『今日の治療指針』を創刊された日野原重明先生の言葉を借りて言い換えると,まさに「教科書ではなく,臨床の最前線にいる理学療法士による実践書」であり,その道の理学療法士が科学的な基盤に立脚した上で,今まさに自分が行っている理学療法のことを書き認められた逸品である。

 本書の特徴は,総編集者の内山靖氏の言う,動作を基軸とする『臨床推論(clinical reasoning)』の“視覚化”が体裁として試みられていることである。つまり,病態を推測し,仮説に基づいた鑑別と選択を繰り返しながら最も適した治療・介入を決定していく一連の心理・認知過程が臨床推論であり,さまざまな要素が入り乱れ,複雑で視覚化しにくく,教える側も学ぶ側も理解が困難であり,標準化し難い。本書『今日の理学療法指針』では,これら困難な課題に対し,基盤となる病態の理解から治療・指導方法を選択する根拠や妥当性を整理し,それをフローチャートで示すことで実践可能な標準化が試みられている。

 内山氏や編集に参画された方々は,豊富な臨床経験を経て,現在は大学の要職におられる先生方であると推察するが,過去,あまり注目がなかったウイメンズヘルス・精神疾患・予防理学療法などを含め,全16章208項目もの多岐にわたる領域について,整った書式での調和を持った標準化作業は,さぞ困難を極めたことと敬意を表するばかりである。また,理学療法士界では比較的中堅の臨床実務にあたっておられる先生方を執筆者として据えられたようであるが,各執筆者も,編集者が理学療法士として今まで取り組んでこられた仕事の意図を十分に把握された上での執筆と拝読できた。

 今後,執筆者の臨床におけるさらなる積み重ねが,次版以降の『今日の理学療法指針』の内容充実に結び付き,かつ領域の広がりが新たな指針の項目となることを期待したい。加えて,構築困難であったわれわれの業界初の理学療法治療標準化の先駆的礎として,疾患別クリティカルパス作成や教育現場での利用も十分に期待できる。

 最後に,理学療法士にとって『今日の理学療法指針』は,まさに日々の臨床時に手元に置いて参考にすべきクリニカル・スタンダードであり,まずは必読・必見であると推薦する。

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