医学界新聞

2020.07.20



Medical Library 書評・新刊案内


AO法骨折治療[英語版Web付録付] 第3版

田中 正 日本語版総編集
澤口 毅 日本語版編集代表

《評者》大鳥 精司(千葉大大学院教授・整形外科学)

AOが提示する時代のニーズに沿った斬新な“改訂版”

 AO法は骨折治療に携わる多くの医師に多大なる恩恵をもたらしてきました。1958年の創設以来60年以上にわたり,研究,臨床,教育に貢献してきました。『AO Principles of Fracture Management』は2000年に原書初版が出版され,その後さまざまな改良が加えられ2007年に原書第2版,それから10年を経て第3版が発刊されました。

 このたび,日本語版総編集の田中正先生,日本語版編集代表の澤口毅先生らを中心に待望の日本語版『AO法骨折治療 第3版』が完成いたしました。1016ページからなる大作です。

 第3版は“AOの哲学”を踏襲しつつ,この10年で蓄積された新たな知見や新開発のデバイスによる手術など,情報が大幅に更新されています。骨折治癒の原理,インプラントのバイオテクノロジーから,術前計画,一般的な固定方法の原理,さらには軟部組織や感染,小児特有の問題点などの提示,合併症などが記載されております。各論として,各部位の骨折に対応したマネジメントがきめ細かく述べられております。全体的な印象として,鮮明な画像所見,イラストレーションも程よい大きさと立体感,実際の外傷の状態も,臨場感があり,大変素晴らしい構成となっています。専門性の高い医師から初心者に対する,事細やかな配慮がなされております。

 今回新たに加えられた項目は,「人工関節周囲骨折」「膝関節脱臼」「脆弱性骨折と老年整形外科ケア」「画像検査と放射線の危険性」などであり,時代のニーズに沿った構成になっています。本文中には,“黄色囲み”が採用され,AOが重要と考えるポイントが目立つように提示されています。引用文献では古典的文献とレビュー文献の色分けがなされており,Webコンテンツで参考文献にアクセスすると,一部文献はPubmedなどにリンクが貼られています。

 斬新な試みとして,章タイトル部分に掲載されているQRコードをスマートデバイスなどで読み込むと,AOが提供する動画やさまざまな補足的コンテンツ(講義動画)にアクセスできます。本書の「動画」記載からビデオが再生でき,それ以外にもAOが収集した貴重な症例やレクチャーの動画なども視聴することが可能となっています。第2版まではDVDにこれらのコンテンツが収められていましたが,第3版からQRコードを介したWeb配信となり,AOが提供する情報は日々,更新されます。これらはスマートデバイスで気軽に視聴でき,インターネット世代の若手医師には非常に親しみやすくなっています。

 最後になりますが,田中先生,澤口先生を中心とした翻訳,作成に尽力された先生方に深く御礼申し上げますとともに,本書が,多くの読者に裨益し,わが国において骨折治療が適切,安全に行われ,良好な成績をもたらすことを期待しております。

A4・頁1016 定価:本体40,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03943-7


Dr.セザキング直伝!
最強の医学英語学習メソッド[Web動画付]

瀬嵜 智之 著

《評者》清澤 宝(メディックメディア講師)

USMLE合格への筋道が本書一冊に!

 “USMLE”と聞いて,憧れを持ちつつも,ハードルが高いように感じて挑戦するに至らなかった学生も少なくないはず。「そもそもUSMLEって何から手をつけるの?」「英語力はどれくらい必要なの?」「自分でも合格できる可能性はあるの?」といったさまざまな疑問によって,やがては「やっぱりやめときますわ!」に落ち着いてしまう。そんな学生にとって,本書は必読の書籍ではないかと感じた。まさに英語力ゼロに近い状態からUSMLE最高得点を叩き出したDr.セザキングの医学英語学習メソッドは,英語に苦手意識を持つ学生に夢や希望を与える。

 第1章から第4章では「なぜ英語力に乏しかったDr.セザキングがUSMLEに合格できたか?」「USMLE合格という目的を達成するために,どのように英語を勉強するべきか?」ということが具体的に書かれており,USMLEをゼロから勉強するための事前準備が明確になるであろう。また医学英語を勉強する上で非常に役立つ知識や考え方がユーモアたっぷりに書かれているので,USMLEを受験しない医学生にとっても医学英語を勉強するきっかけになるに違いない。

 第5章からはいよいよ本格的にUSMLEの試験内容や勉強法が書かれており,「USMLEに合格するためには,このように問題集をこなしていけばよいのか!」ということが明確になる。そして最終章である第6章はDr.セザキングによる「USMLE合格の極意」! USMLEの各ステップにおける対策が書かれており,どれくらいの期間でどの問題集を終わらせて,いつ模試を受けるべきか,また“合格するための条件”が惜しげもなく確かに記されている。書評で具体的な内容まで書けないのが残念なところなのだが,USMLEに興味のある方は,まず『Dr.セザキング直伝! 最強の医学英語学習メソッド』を手にすればよいであろう。USMLE合格への筋道,その答えがこの一冊の中に!

A5・頁264 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04174-4


Dr. KIDの
小児診療×抗菌薬のエビデンス

宮入 烈 監修
大久保 祐輔 執筆
宇田 和宏 執筆協力

《評者》名郷 直樹(武蔵国分寺公園クリニック院長)

小児への抗菌薬という切実な問題を扱った臨床医必読書

 私は10年ほど前からTwitterを利用している。その中で小児のコモンディジーズに関して最も役に立つ情報を提供してくれていたのがDr. KIDである。私のクリニックの外来の3割は小児であるが,Dr. KIDのつぶやきなしに診療できないといってもいいほど,その情報は日々の診療にダイレクトに役立つものであった。

 臨床研究やそのシステマティックレビュー論文を網羅的に紹介し,臨床医のために情報提供をするというスタンスは,私自身がここ20年以上取り組んできた仕事の一つであるが,それを日々のつぶやきとブログの積み重ねの中で軽々とやってのけるDr. KIDの登場は感慨深いものがあった。

 そんな感慨にふけりながら,Dr. KIDとはいかなる医者なのだろう,どのような経歴の持ち主なのだろうと想像をたくましくしていたら,なんと後期研修中に私のクリニックで2週間研修をしていた大久保祐輔先生がその人だというではないか。びっくりである。さらには私に書評を書いてくれという。彼が研修したのは,私の意識ではほんの少し前の出来事というところだが,そのわずかな時間に,彼はDr. KIDへと進化を遂げていたのである。

 時の流れというのが個々人に固有のものであることを思い知らされる。日々退化するばかりの私と,数年のうちに本書のような,小児に抗菌薬を使用する臨床医にとって最も切実な問題を取り扱った教科書を出版するまでになった彼の時間との流れの違いにあぜんとするというかなんというか……。とてつもない医学書の書き手の登場である。

 本書は,そのDr. KIDの小児診療に関する抗菌薬についてのつぶやきとブログを基にした一冊である。内容について多くは触れずにおこう。それこそ何年も掛からなければ網羅できないデータ,論文の数々がこの一冊に凝縮されている。さらにその解釈に関する重要な統計学的事項がわかりやすく説明されている。類書はない。

 「風邪に抗菌薬」というような診療が一刻も早く過去のものとなるよう,本書の普及が望まれる。小児科医に限らず,全ての医師,さらには薬剤師にとっても必須の書である。お薦めするというレベルではない。臨床に携わる以上,読まなければならない書といってよい。まずは私のクリニックの医師の必読書としたい。この本の著者は,ここのクリニックで2週間研修をしていたんだよという自慢と共に。

A5・頁256 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04164-5


がんゲノム医療遺伝子パネル検査
実践ガイド

角南 久仁子,畑中 豊,小山 隆文 編著

《評者》土原 一哉(国立がん研究センター・トランスレーショナルインフォマティクス分野・分野長)

第一線の医療者チームによるがんゲノム診療の最適の解説書

 本書を手にして,まずはその厚さに軽く驚いた。実践ガイドということでポケットにも入るサイズを勝手に想像していたが,252ページのしっかりとした装丁である。もっとも本書がこれだけのボリュームになった経緯には心当たりがある。先日「次世代シークエンサー等を用いた遺伝子パネル検査に基づくがん診療ガイダンス 第2版」が発出されたが,その分量は初版(2017年)の5ページから105ページへと一気に膨れ上がった。とりもなおさず,遺伝子パネル検査の償還や,検査システム・実施医療機関の質の担保,データセンターへの情報集積など,他国およびこれまでのわが国の医療システムでは経験しなかった体制整備が数年の間に急速かつ包括的に進んだことの反映だろう。本書の編者,執筆者の顔ぶれを見れば,上記や日本病理学会などのガイダンス作成に中心的に関与された第一線の医師・研究者,おそらくは相当にタフであったであろう検査システムの申請作業に尽力された診断薬・検査企業の面々である。がんゲノム医療,遺伝子パネル検査を取り巻く諸事情を解説するには最適のチームである。

 あらためて内容を拝見すると,予想に違わず体制整備から遺伝子パネル検査の結果解釈に必要な解析学的および臨床的な情報,一般の臨床検査ではなじみが薄いゲノム科学の用語解説,実地で運用中,さらには今後登場する検査システムの紹介と網羅されている。カラフルな図や表も多く,検査レポートの雛形もそのまま掲載されておりわかりやすい。各ページの注釈欄や,ところどころに挿入されるノートも親切である。がんゲノム医療中核拠点病院などでゲノム診療に携わっている方にとって,これだけの情報を手軽に参照できるメリットは大きいだろう。

 あえて注文をつけるとすれば,拠点病院などに患者を紹介しようとする医師や,将来がんゲノム医療に従事したいと考える研修医や医学生が,がんゲノム医療の現場を体感したいと思った時に,少々とっつきが悪いかもしれない。エキスパートパネルではどのような議論が行われているのかなど,模擬症例の紹介などがあればより臨場感が増すのではと思ったが,そうなればボリュームがさらに増すだろうか。

 いずれにしても,この領域の進歩はさらに加速が予想される。早晩本書も改訂が検討されるだろうが,いま現在,必要な情報を短期間でまとめ上げた編者らのお仕事に感謝したい。

B5・頁252 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04246-8


地域医療構想のデータをどう活用するか

松田 晋哉 著

《評者》望月 泉(八幡平市病院事業管理者)

データ分析は自院の将来構想を描くために必要不可欠

 急速な少子高齢化の進展に伴い,医療介護需要の増大と疾病構造の変化が予測される2025年に向けて,構想区域ごとに協議の場(地域医療構想調整会議)で話し合い,将来の必要病床数や在宅医療等の需要を推計し,将来のあるべき医療提供体制の構築に取り組んでいく必要がある。同時に効率的かつ質の高い医療提供体制の確保の必要性が求められ,高齢化を見据えた,将来のめざすべき医療提供体制を実現していく上で,限られた医療資源のもとでは,病院・病床ごとに機能を分け,連携することが効率的であると考えられてきた。著者の松田晋哉氏は産業医科大学医学部公衆衛生学教室教授で社会医学者である。日本における医療制度改革分野でのオピニオンリーダーであり,地域医療構想における構想区域ごとに示される機能別病床数の推計値の基礎的研究も担当されてきた。

 本書は6章で構成されている。第I章は「地域医療構想の考え方」で,地域医療構想導入の経緯・意義,病床機能別病床数推計の考え方と続き,今までぼんやりとしていた地域医療構想についてあらためて頭が整理される。第II章は「厚生労働省の諸施策と地域医療構想」で働き方改革,専門医制度と地域医療構想のかかわりについてわかりやすく述べている。第III章は「地域医療構想におけるデータ分析の考え方」で本書の本丸となる。地域医療構想に関連して作成されている公開情報や公開ツールを用いて,自施設のある地域の状況について本書の記述に従って分析することが可能になると同時に,需要構造を把握し,自施設の計画を立てることができるようになる。一般臨床医にとってあまりなじみのない表やグラフが多数載っており一見とっつきにくい印象を与えるが,読み進めていくとデータ分析の面白さが実感され,すぐに応用できるようになる。私も地域医療構想アドバイザーとして地域医療構想調整会議に出席しているが,膨大な資料の報告に終始し,各医療機関が地域における自院内の病床機能をデータに基づいて客観的に把握し,自院の将来像を描くような議論にはなっていない。他院の病床機能に対し,何か意見を言うことははばかられ,活発な議論はできていないように思われる。ぜひともデータ分析に取り組む習慣を身につけたい。その後の章では機能選択・病床転換の事例紹介があり,極めて興味深く,自院の将来計画を描く際の参考になる。

 本書の「あとがき」で新型コロナウイルス感染症と地域医療計画との関係について述べられている。今までの5疾病5事業には新興再興感染症は含まれておらず,今回の流行時に混乱を来した。人の移動のグローバル化により,今後もわが国は新しい感染症の流行に直面する可能性がある。安全保障の観点からも議論が深まることを期待したい。

 本書は病院長・病院管理者だけでなく,日頃患者さんの診療に忙しい臨床医にもぜひ読んでいただきたい。本書を傍らに置き,データ分析の手法から自院の将来構想を検討することもまた楽しみである。

B5・頁144 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04252-9

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