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Dr.KIDの
小児診療×抗菌薬のエビデンス

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風邪に抗菌薬は必要ないと知りながら、つい抗菌薬を処方してしまう…このように、日本の抗菌薬の適正使用は世界最低のレベルにある。本書は、小児感染症と疫学領域を融合させながら、日本を代表するデータベースを用いて、小児の抗菌薬処方パターンを分析し、問題点をあぶり出している。Twitterやブログで活躍中のDr.KIDがより良い診療に向けた抗菌薬使用の考え方を提言。統計学や疫学の知識もわかりやすく解説。
監修 宮入 烈
執筆 大久保 祐輔
執筆協力 宇田 和宏
発行 2020年04月判型:A5頁:256
ISBN 978-4-260-04164-5
定価 3,850円 (本体3,500円+税)

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監修の序(宮入 烈)/(Dr. KID)

監修の序

 目の前の患者さんに対して最良の診療を行うために,医療者には科学的な知見を追求する姿勢が必要です.稀な疾患の場合は,診断さえつけば成書やガイドラインを参考にエビデンスに則った治療がなされると思います.その一方で,日常的に診る風邪などの軽症感染症に対しては思い思いの診療が行われています.これらの疾患の多くは自然軽快するため,最適な治療を行わずとも「これをやったらよくなった」という経験を繰り返すことが可能です.この「成功体験」のもと,より確信をもって同じ間違いを繰り返すという罠に陥りがちです.しかし日常診療の大半を占めるからこそ,小児のありふれた感染症というテーマについては,データにある真実を読み解き,診療に反映させることが重要です.
 疫学のエキスパートであるDr. KIDこと大久保祐輔先生と小児感染症業界若手のホープである宇田和宏先生による本書には3つのフォーカスがあります.1つ目は小児における国内の抗微生物薬の処方実態について,ビッグデータを駆使して現状を把握していることです.いかにわれわれが間違った診療を行っているかが明らかになる驚きのデータが提示されています.2つ目は,感染症に対する抗菌薬や抗ウイルス薬の必要性について論文データをかみ砕いて解説していることです.風邪に抗菌薬は必要ない,ということを知っていてもそこから脱却できない,あるいは不安を感じている診療医のよりどころになる力強い情報です.3つ目は,データを解析し臨床研究の論文を読みこなすための解説である「疫学教室」です.症例対照研究からE-valueまで,実例を挙げたそのわかりやすい解説は目から鱗です.いずれも一般診療を行う場合は,知っておかなければならない知識です.
 多くの医療者が本書を手に取り,より良い診療のために役立てられることを期待しています.

 2020年2月
 国立成育医療研究センター感染症科/感染制御部
 宮入 烈




 幸運が重なり入学できたハーバード大学の公衆衛生大学院を2016年に卒業し,疫学研究者としての私の旅がスタートしました.同大学院への入学当初は「勉強は修士課程だけにして,さっさと臨床に戻ろう」と思っていました.しかし,同大学院で素晴らしい先生(Miguel Hernán教授とMurray Mittleman教授)に出会い,彼らから疫学のイロハを教わったことで,すっかり疫学の虜となってしまい,私の人生は大きく変わりました.
 本書を執筆している2020年春,私はカリフォルニア州立大学ロサンゼルス校(UCLA)の公衆衛生大学院・疫学部に所属して,因果推論という疫学の方法論とその応用をテーマに勉学と研究を続け,すでに3年の月日が流れています.ハーバード大学からUCLAに移行する期間に,国立成育医療研究センター・社会医学研究部の森崎菜穂先生からのお誘いもあり,1年だけ日本で疫学研究をしていた時期があり,この期間が疫学研究者としての本当のスタート地点でした.
 小児科分野において,疫学研究は世界的に遅れをとっています.残念なことに,日本はそのなかでさらに後方に位置しています.この遅れを補うのは,小児科医から疫学研究者に転身した私の使命と思い,日米の医療ビッグデータを用いて細々と研究を続け,1本でも多く小児疫学の論文を出すことを目標にしていました.「研究」と聞くと,イノベーションや新規治療薬といった派手なところに目がいきがちですが,私の行っている研究は真逆です.現状で行われている医療の全体像の把握,公衆衛生上で問題となる因子の探索,医療政策の評価,医師の診療パターンの分析など,非常に地味ではありますが,確実に臨床や政策決定に必要であろう研究を1つ1つ積み重ねていく作業です.
 2017年の春,後期研修医時代の後輩である宇田和宏先生と,国立成育医療研究センター感染症科の宮入烈先生から「小児の抗菌薬の適正使用の研究に協力してほしい」と研究のお誘いをいただきました.宇田先生・宮入先生の抗菌薬適正使用に対する熱心かつ真摯な姿勢に感銘し,私はこの依頼を快諾しました.以降,日本とアメリカを何度も往復しながら,宮入先生を中心としたチームで3年間という研究期間が経過し,査読付きの医学英語論文は10本以上受理され,現在投稿中の論文も複数あります.
 抗菌薬の適正使用の疫学研究も非常に地道な作業ではありました.しかし,それ以上に,小児医療における一流の臨床家の先生と一緒に研究し,未来に役に立つであろうデータを1つずつ積み重ねていけることに,大きな喜びを感じています.その一方で,抗菌薬の適正使用の論文は,日本のこの領域がすでに他の先進国から大きな遅れをとっているためか,あるいは書き手としての私の努力と経験が足りないのか,脚光を浴びるようなことは全くありませんでした.このテーマの読者は抗菌薬の適正使用をすすめる感染症の専門家や一部の小児科医であることから,仕方のない側面もあるのでしょう.研究を続け論文を数多く輩出する反面,一向に抗菌薬の適正使用が広がる実感がなく,その兆しすら見えない現状に,次第に大きなジレンマを抱えるようになりました.
 そのようななか,医学書院の北條立人さんから執筆依頼をいただきました.疫学研究の傍に「Dr. KID」というペンネームで,Twitter(@Dr_KID_)やブログ(dr-kid.net),メディアへの寄稿をしていた私を見てくださったことがきっかけのようです.北條さんと執筆に関する議論を進め,私たちが3年間で積み上げた論文をまとめ,本書『Dr. KIDの小児診療X抗菌薬のエビデンス』を執筆することになりました.
 本書は,小児感染症科と疫学の融合を試みています.医学書というと,現在でも病態生理に沿った本が多いですが,この本では完全にデータからアプローチする「データ・ドリブン」な方法をとっています.つまり,現実世界で起きているデータを根拠に問題点を明らかにし,「どのようなエビデンスを知れば“現状でのBetterな診療”に近づけるのか」を目標に書いています.もちろん,エビデンスがあるからといって,「全例,それに従うべき」といった極端な考えかたは避けたほうがよいでしょう.どんなに有名なRCTやメタ解析でも,患者背景が異なる症例は臨床ではしばしば遭遇することと思います.このため,エビデンスの適用には,あくまで個々の症例での議論が重要です.エビデンスとは,ある意味,医療の道標・地図のような存在だと私は考えています.臨床的な決断をする絶対的な指標とまでは言えませんが,それでも判断材料として知っておいたほうがよいのは間違いないでしょう.今回は,そのような内容を中心に執筆させていただきました.
 臨床が中心の先生からすると「疫学」もわかりづらい分野かと思います.臨床研究や疫学研究の論文を真に理解するには,疫学や統計学は必須の知識です.しかし,世界中を見渡しても,医学部生あるいは卒後教育に対して,臨床で必要になる統計学や疫学の教育は不十分なのは明らかです.何を隠そう,私も大学院に入学する前は「分散,正規分布,P値」もよくわかっておらず,統計や疫学に関する論文執筆や学会発表は極力避け,症例報告ばかりを執筆していました.本書では「疫学教室」というコラムを設けて,疫学的な考えかたを解説しました.少しでも疫学に対する理解が深まることを願っています.ここではデータを読む際に知っておいたほうがよいことを中心に説明しています.決して易しい内容ではないかもしれませんが,ハーバード大学・UCLAというアメリカの東と西を代表する大学院で学んだことの一部を,できるだけわかりやすく解説するように努めました.
 感染症は非常に幅広い分野で,専門性の乏しい私だけでは,一冊を書き上げることは難しいであろうことは執筆当初から明らかでした.宇田先生・宮入先生のサポートと専門家としての査読といった多大なる協力があったからこそ,この本を書き切ることができました.各章の最初には4コマ漫画を掲載しています.これまでDr. KIDのキャラクターを描いてくださっていた河澄かるめ(@kwkrart)さんが,急なお願いを快く受けてくださり実現できました.初めての書籍執筆で至らぬところが多い私を,医学書院の北條立人さんは最後まで気長に見守りサポートしてくださり,執筆を完遂することができました.この場をかりて,皆様に心から感謝申し上げます.

 2020年2月
 UCLA公衆衛生大学院疫学部
 大久保祐輔(ペンネーム:Dr. KID)

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1 世界からみた日本の抗菌薬の使用状況
 薬剤耐性菌は世界的な問題
 日本国内の抗菌薬の不適切使用と過剰使用
 column 疫学教室 抗菌薬の使用量をどうやって国際比較するのか?
2 世界からみた日本の小児の抗菌薬の使用状況
 国際比較と国内のビッグデータからみた,日本の小児の抗菌薬の使用状況
 column 疫学教室 JMDCとNDB/DPC,GeneralizabilityとTransportability
3 不適切な抗菌薬を処方する理由と各国の抗菌薬適正使用の試み
 医師が抗菌薬を過剰にor不適切に処方する理由
 column 疫学教室 疫学用語を正しく用いていますか?
4 小児の急性上気道炎と抗菌薬
 NDBとJMDCデータからみた,急性上気道炎に対する小児の抗菌薬の使用状況
 column 疫学教室 因果関係とは何か?
5 小児の溶連菌感染症と抗菌薬
 国内のレセプトデータからみた,A群溶血性レンサ球菌感染症に対する
    小児の抗菌薬の使用状況
 column 疫学教室 情報バイアス─3つのバイアス①
6 小児のマイコプラズマ感染症と抗菌薬
 DPCデータからみた,マイコプラズマ感染症に対する小児の抗菌薬の使用状況
 column 疫学教室 交絡─3つのバイアス②
7 小児の急性胃腸炎と抗菌薬
 NDBとJMDCデータからみた,急性胃腸炎に対する小児の抗菌薬の使用状況
 column 疫学教室 選択バイアス─3つのバイアス③
8 小児の下気道感染症と抗菌薬
 NDBからみた,急性気管支炎・肺炎に対する小児の抗菌薬の使用状況
 column 疫学教室 P値と95%信頼区間
9 小児のインフルエンザ感染症と抗インフルエンザ薬
 入院データからみた,インフルエンザに対する小児の抗菌薬の使用状況
 column 疫学教室 P値とダイコトマニア
10 小児の急性中耳炎と抗菌薬
 NDBからみた,中耳炎に対する小児の抗菌薬の使用状況
 column 疫学教室 P-valueとS-value
11 小児の皮膚感染症と抗菌薬
 NDBからみた,皮膚感染症に対する小児の抗菌薬の使用状況
 column 疫学教室 E-value

索引

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小児への抗菌薬という切実な問題を扱った臨床医必読書
書評者: 名郷 直樹 (武蔵国分寺公園クリニック院長)
 私は10年ほど前からTwitterを利用している。その中で小児のコモンディジーズに関して最も役に立つ情報を提供してくれていたのがDr. KIDである。私のクリニックの外来の3割は小児であるが,Dr. KIDのつぶやきなしに診療できないといってもいいほど,その情報は日々の診療にダイレクトに役立つものであった。

 臨床研究やそのシステマティックレビュー論文を網羅的に紹介し,臨床医のために情報提供をするというスタンスは,私自身がここ20年以上取り組んできた仕事の一つであるが,それを日々のつぶやきとブログの積み重ねの中で軽々とやってのけるDr. KIDの登場は感慨深いものがあった。

 そんな感慨にふけりながら,Dr. KIDとはいかなる医者なのだろう,どのような経歴の持ち主なのだろうと想像をたくましくしていたら,なんと後期研修中に私のクリニックで2週間研修をしていた大久保祐輔先生がその人だというではないか。びっくりである。さらには私に書評を書いてくれという。彼が研修したのは,私の意識ではほんの少し前の出来事というところだが,そのわずかな時間に,彼はDr. KIDへと進化を遂げていたのである。

 時の流れというのが個々人に固有のものであることを思い知らされる。日々退化するばかりの私と,数年のうちに本書のような,小児に抗菌薬を使用する臨床医にとって最も切実な問題を取り扱った教科書を出版するまでになった彼の時間との流れの違いにあぜんとするというかなんというか……。とてつもない医学書の書き手の登場である。

 本書は,そのDr. KIDの小児診療に関する抗菌薬についてのつぶやきとブログを基にした一冊である。内容について多くは触れずにおこう。それこそ何年もかからなければ網羅できないデータ,論文の数々がこの一冊に凝縮されている。さらにその解釈に関する重要な統計学的事項がわかりやすく説明されている。類書はない。

 「風邪に抗菌薬」というような診療が一刻も早く過去のものとなるよう,本書の普及が望まれる。小児科医に限らず,全ての医師,さらには薬剤師にとっても必須の書である。お薦めするというレベルではない。臨床に携わる以上,読まなければならない書といってよい。まずは私のクリニックの医師の必読書としたい。この本の著者は,ここのクリニックで2週間研修をしていたんだよという自慢とともに。
もっと勉強したくなる小児感染症の領域初の疫学学習書
書評者: 笠井 正志 (兵庫県立こども病院感染症内科部長)
 著者である大久保祐輔先生,監修者である宮入烈先生,そして執筆協力者である宇田和宏先生は「小児における感染症対策に係る地域ネットワークの標準モデルを検証し全国に普及するための研究」という壮大なテーマの研究班の研究仲間である。本書の中心となるデータは,われわれの研究班において主に大久保先生が取り扱われたNDB(National Data Base)が用いられている。処方数十億という単位のすごいビッグデータである。が,しかし班会議の報告会では「へーそうなんだー」,「よくわからんけど,すごいなー」といったレベルの理解で3年間の研究を終えた(その後,2020年からも継続更新し,楽しく研究している)。

 通読してよかったと思える医学書は一般的に少ないものだし,そもそも臨床医には時間がない。新型コロナウイルスまん延地域のためどこへも行くことができない5月のゴールデンウィークに何気なく読み始めたところ,一気に引き込まれた。「これが知りたかった」が満載である。自分の研究関連領域の知識だけではなく世界観そのものが新たにパーッと広がり,いつの間にか付箋と線引き用鉛筆を片手にじっくりと読み込んでいた(写真)。

 本書は小児領域にかかわるすべての医療関係者(特に小児科医,薬剤師,感染症医)に新たな学びと視点を与える本である。本書と『抗微生物薬適正使用の手引き 第二版』(厚労省)があれば,こどもの外来診療の際に自信を持って抗菌薬を処方でき,無用な抗菌薬を出さずに済み,明るい未来を創る第一歩を踏み出せることだろう。

 ぜひとも本書を読んでほしい方々は,以下のような医療従事者である。

(1)AMR対策の根幹は良いコモンディジーズ診療であると考え,実践している医師
(2)医師の抗菌薬処方行動を双方「納得」の上変容させたいと願う門前薬局薬剤師
(3)疫学について知ったかぶりをしている(したい)感染症医師
そして,(4)新型コロナウイルス感染症対策で疲れたICD

 よく知っていると思っていたことが,全然知らなかったということを知る。これを知の喜びという。そしてわれわれがやるべきことはまだまだあると教示してくれる本書は,新型コロナウイルス感染症対策でささくれ立つ良き医療者の心を癒やしてくれることは間違いないだろう。

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