医学書院

検索
HOME週刊医学界新聞 > 第3372号 2020年05月25日



第3372号 2020年5月25日


未来の看護を彩る

国際的・学際的な領域で活躍する著者が,日々の出来事の中から看護学の発展に向けたヒントを探ります。

[DAY 11]遠隔教育と信頼

新福 洋子(広島大学大学院 医系科学研究科 国際保健看護学教授)


前回よりつづく

 新型コロナウイルス感染症の影響で,大学は遠隔授業に切り替わりました。演習も,試行錯誤しながら遠隔で始まっているようです。私もこれまで続けてきたアフリカでの教育研究活動に関して渡航ができない状況にありますが,これまでに開発してきた携帯アプリでの学習ツールを用いた教育効果の評価をしている段階にあり,現地に行かなくても研究を続行できる状況になっています。

 現在運用しているアプリのコンテンツは,WHOのガイドラインに基づきアフリカの環境に即して,妊婦さんにとって「なぜ」それが大事で,助産師が「どのように」妊婦さんに伝え,ケアできるかという視点でまとめました。助産師が助産師のために助産師目線でガイドラインを「ローカライズ」した教材です。

 携帯アプリ学習は,いかに継続してもらうかが鍵になります。アプリの試用を開始したところ,助産師たちの継続率が非常に高いことに,開発グループも驚いていました。タンザニアの現場においては教科書や専門図書が十分にあるわけではなく,インターネットでの情報は何が信じられるかがわかりにくい状況にあります。開発チームでは,現在運用しているアプリへの「信頼」が高いエンゲージメントにつながっているのではないか,と議論しています。

 このアプリではコンテンツにコメントしたり,コメントに対して「いいね」を付けたりする機能があります。一方向で教材を送るだけではなく,SNSのような双方向のコミュニケーションが可能となっているのです。これまでに研究を継続してきた中で,e-mailだとなかなか返事をくれなかったタンザニア人研究者も,スマートフォンの普及後はWhatsAppというメッセージアプリで即時に返事をくれるようになった経験があります。タンザニアの人々はWhatsApp上でグループを作り,日々の献立やニュース,さらにはお祈りの音声まで,大量の情報をやりとりしています。こうした観察から,タンザニアでアプリを使ってもらうには「双方向で交流ができること」「会話のようなやりとり」がポイントなのではないかと考えていました。さらに,それをPhDを持つ助産学研究者(私)が配信してコメントにも返信してくれる,つまりはアプリの向こうに人がいると感じられることも,信頼の一助になっていると考えています。

 遠隔教育において「信頼」が鍵になるというのは,実施してみて気がついたことです。しかしながら,日本で広がる遠隔教育に話を戻しても,「信頼」がないと成り立たないことに気がつきます。顔が見えない学生がきちんと話を聞いていることを教員が信頼すること,また学生は,対面で会えない教員(オンラインで初めて会うということもある)が自分たちのことを理解し考慮して,慣れないオンライン教育に全力を注ぎ,それが近い将来に役立つと信頼しなければ,画面の前で集中力を使って学習を進めることは難しいでしょう。

 これまで「科学と信頼」について若手アカデミーやGlobal Young Academyの研究者間でも議論し,科学者が信頼を得るためのコミュニケーションの在り方(サイエンスカフェやシチズンサイエンス)について議論してきましたが(),この感染症の危機的状況においても,現場で活躍する医療者に情報を届けるに当たっても,「信頼」が構築できるような組み立てが鍵になることを改めて感じました。

つづく

本連載DAY3・3339号DAY5・3348号参照

連載一覧