医学界新聞

未来の看護を彩る

連載 新福 洋子

2020.04.27



未来の看護を彩る

国際的・学際的な領域で活躍する著者が,日々の出来事の中から看護学の発展に向けたヒントを探ります。

[DAY 10]新型感染症に対する若手科学者の動き

新福 洋子(広島大学大学院 医系科学研究科 国際保健看護学教授)


前回よりつづく

 世界中が影響を受けている新型コロナウィルス感染症(COVID-19)ですが,本稿執筆の3月末時点では国内外で収束が見えない状態です。日々患者さんに向き合う医療者への畏敬の念とともに,一刻も早い沈静化を願うばかりです。国際保健の研究者としては,海外渡航の抑制や国際学会での発表の延期などさまざまに影響を受けていますが,動けないこの時期だからこそ行っていること,世界の科学界の動きを紹介したいと思います。

 まず,これまでにも何度かご紹介してきたGlobal Young Academy(GYA,本連載Day1参照)では,「Beyond Boundaries:A global message from young scientists on COVID-19(境界を超えて:新型コロナウィルス感染症に関する若手科学者からの国際的メッセージ)」を2020年3月26日に発表しました1)。若手科学者として考えていることを,政府機関,若手研究者,一般市民向けに具体的な提言としてまとめました。簡易版の日本語翻訳も公開されています。

 実はGYAメンバーはWhatsAppというコミュニケーションアプリでつながっており,オンタイムで各国の状況を報告し合っていました。その中で,この世界の混乱に対して,われわれの意思を表明しようという話になりました。参加意思のある,主に生物医学系・政治学系の研究者らが集まって個別にスレッドを作り,Googleドキュメントを使った同時作業でスピーディに声明文をまとめました。すぐに「短縮版のビジュアルも作ってみた」という声があり,英語の短縮版があっという間に仏語,独語,スペイン語,アラビア語,ギリシャ語に翻訳されました。私も慌てて日本語版()を作り,日本の若手アカデミー兼GYAメンバーの確認後にアップロードしてもらいました。

 GYAによる国際的メッセージの日本語ビジュアル版(クリックで拡大)

 研究論文の出版はどうしても時間がかかるため,刻一刻と変わる感染症に関する国外の情報はメディアから伝わる情報に偏ってしまいがちです。現地にいる研究者,つまり情報を科学的に伝えられる人から共有してもらえることは,非常に貴重な機会であると思いました。噂や怪しい情報も,すぐに現地の研究者の目で見た情報で修正することができます。そうしたつながりのプラットフォームとなるGYAの存在のありがたみを改めて強く感じたことと,そこで話し合った情報を伝えたいと思ったことが,日本語版を作成した意図です。

 また,同時期に「政府に対する科学助言に関する国際ネットワーク(International Network for Government Science Advice:INGSA)」学会の若手研究者向け能力構築ワークショップの企画も動いていましたが,2021年4月に延長されました。INGSAはその名の通り,「エビデンス情報を提供された政策(evidence-informed policy)」の可能性を促進する科学と政策の架け橋をめざす国際的ネットワークです。今回のような世界の混乱に対し,正しいエビデンス情報を提供することが本来の目的であるため,COVID-19関連のエビデンスや資料を収集するサイトを作成しました2)

 こうした動きに貢献し,国内状況に合わせて政府に助言できる科学者を増やすため(自身もその能力を高めるため),この世界的な科学界の動きに参画し,情報を国内に伝えていきたいと考えています。

つづく

参考文献・URL
1)GYA.Beyond Boundaries:A global message from young scientists on COVID-19.
2)INGSA.Science Advice and COVID-19.

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