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第3366号 2020年4月6日


【座談会】

これからの病院事務職の話をしよう
問題解決能力の向上と医療職との連携強化をめざして

森岡 将大氏(聖路加国際病院 医事課入院係)=司会
末吉 総一郎氏(聖隷福祉事業団 法人本部総合企画室)
小迫 正実氏(亀田総合病院 経営企画部)


 病院内にはさまざまな職種が勤務している。多職種によるチーム医療が重要性を増すなか,医療専門職のほかにも忘れてはならないのが病院事務職の存在だ。事務職はヒト・モノ・カネといった経営資源を司る事務部門(医事課や総務課,人事課など)で働くほか,近年では経営企画室や情報管理室といった経営直轄の管理部門で活躍する事例も目立つようになってきた。本座談会では,今後ますます活躍が期待される事務職の役割拡大に向けて,問題解決能力向上と医療職との連携強化の方策を議論した。


森岡 病院経営にはさまざまな課題があり,課題解決に向けて事務職が果たすべき役割も大きくなっています。本座談会では特に若手~中堅層に焦点を当てて,私たち事務職がどのように問題解決能力を高めていくかを議論したいと思います。

若手の当事者意識を育み,成果を可視化する

末吉 問題解決能力を高める前段階として,まずは当事者意識を持つことが大事ではないでしょうか。社会保障の財源が豊かな時代なら,指示された通りにオペレーションを回すだけでも良かったのかもしれません。しかし病床機能の再編が進む現在は,「適者生存」の時代に入っています。そうした環境の変化に対して,院長やベテラン事務職がトップダウンで方針を決めるのを待つのではなく,「組織としてどうあるべきなのか」「今後この病院をどうしたいのか」を若手~中堅層が当事者意識を持って企画・提案し変えていくことが求められています。

小迫 ベテラン事務職は医療制度や診療報酬に詳しいですし歴史的な経緯も把握しているので,経営課題に対してアクションを取るのは若手より上手な印象を受けます。一方で,「職員が働きにくい」とか「病院の都合で患者さまに迷惑をかけている」といった“現場の困りごと”は,若手のほうが気付きやすい。組織としてあるべき姿と現状のギャップについても,若手のほうが敏感な場合が多いでしょう。こうしたお互いの強みをうまく活かせる組織が良い組織だと思うのです。

森岡 若手としては,日々の業務をこなすだけでなく,主体的に情報を収集・発信して上司や組織を巻き込んでいく必要がありますよね。また組織としては,こうした若手の声をいかにして拾い上げるのかが重要です。

末吉 聖隷福祉事業団に入職後,最初に勤務した聖隷浜松病院で感心したのは,現場の声を組織として拾い上げる仕組みが存在することです。毎週開催される経営企画会議は主に事務系管理職が出席する場で,議題に制限は設けられていません。問題解決のために対策が必要であると現場スタッフが判断すれば,上長を通してその会議に諮ることができるのです。そしてその企画が通れば院長・事務長・看護部長の三役がそろう経営支援会議の議題となり,そこで承認が得られれば組織全体の支援を受けたプロジェクトになります。

森岡 現場の声を拾い上げる仕組みがあるからこそ,スタッフに当事者意識が生まれるわけですね。

末吉 はい。また,年度末に職場内・多職種間で構成された業務改善の取り組みが発表され,病院幹部による審査の上で表彰される制度もあります。成果を可視化し,表彰という形で病院としてその成果を認める仕組みも,現場の自信につながっていると感じます。

身につけておきたい2つのスキルと経験の「場」づくり

森岡 医療職と比較すると,病院事務職に必要とされる技能や経験,キャリアパスなどは明確ではありません。この点はいかがでしょうか。

小迫 若いうちにのようなスキルを身につけると将来的に役立つのではないでしょうか。ヒトや組織を動かす上では,診療報酬や医療知識などのハードスキルだけではなく,コミュニケーションやリーダーシップなどのソフトスキルも持ち合わせたほうが上手くいきます。

 病院事務職として身につけておきたいスキル(小迫氏作成)(クリックで拡大)

森岡 ハードスキルは,当該部署に所属することで自然と身につくものも多そうです。しかしソフトスキルについては,意識的に勉強しないと難しいかもしれません。

小迫 そうですね。ただ私自身,新卒のころはハードスキルばかりに注目していましたが,当時の上司が紹介してくれたビジネス書をきっかけにソフトスキルを身につけようと思えました。

 その上司が私に薦めてくれたのが,『伝え方が9割』(佐々木圭一著,ダイヤモンド社)でした。その本は,同じ内容でも伝え方次第で結果が変わることを教えてくれます。例えば好きな人をデートに誘うとする。「デートしてください」とストレートに言っても,相手が自分に興味がなければ断られる。でも「驚くほど旨いパスタの店があるのだけど,行かない?」と誘えば,乗ってくる確率は高くなります。このように伝え方ひとつにも工夫の余地があって,ソフトスキルとして原理原則を学べば,さまざまな仕事に応用できて,良い結果が出せるとわかりました。

末吉 私は法人の新人職員研修を担当しているのですが,最初に扱うテーマが「コミュニケーションの原則」です。そこでは,コミュニケーションは一方向ではなく双方向であることをグループワークなどを通して学んでもらいます。

森岡 若手事務職自身が,本を読んだり研修を受けたりすることは大事ですよね。ただそうは言っても,実践の機会がなければ学ぶ意欲も湧きません。例えば会議の議事録や資料の作成を手伝ってもらうなどを通じて,職場でソフトスキルが試されるような機会を上司や先輩が意識的につくることが必要だと考えています。

 そういう意味では,既存の病院の仕組みである各種の委員会を活かすことも有用です。委員会は医療職の考え方もわかるし,事務職のスキルアップの場としてとても適した舞台です。

小迫 私も新卒のとき,委員会や多職種とのプロジェクトを通じて,多くの視点を持つことができました。

森岡 先日委員会に参画する中で,集中治療室の看護師長が病床管理について悩んでいるという言葉が気になり,後で調べてみました。すると,それがデータとしても裏付けられていて,収入にも影響を及ぼしていることに気付きました。現在,医事課でデータをまとめて,その看護師長と一緒に委員会で改善策を検討しているところです。こうやって既存の会議をPDCAサイクルにつなげることも,事務職としては大事であると最近考えています。

末吉 同感です。そして可能ならば,経営企画や病院の機能評価・監査への対応といった業務にかかわることで,経営改善や業務改善など「変えていく経験」が積めるでしょう。事務職として問題解決能力の向上に必要なスキルを学ぶことができます。

森岡 私たち3人の共通点は,JCI(Joint Commission International)という国際的な医療機関認証にかかわったことですね。大変な仕事に違いないですが,経営層や多職種を巻き込みながらの経験は強烈なものがあります。

医療職との協働に必要な心得

森岡 医療職と事務職の協働に関して心掛けている点はありますか。私自身に関して言えば,相手の現場に出向くことを大事にしています。例えば看護師と打ち合わせる際は,その外来や病棟に出向いて,現場の雰囲気も見ながら話す。それにより相手の立場を理解しやすくなりますし,自分自身の現場の理解にもつながると思っています。

小迫 私の場合,交渉が必要な事項はできる限りWin-Winの関係になるように努めています。医療職に協力を求める際は,一方的にお願いするだけではなく,相手方のメリットについても繰り返し説明しますね。

 もちろん,Win-Winの関係を築くのが難しい場合も時にはあります。その際も冒頭で先方のデメリットを明示して,「組織全体を考えるとメリットがあるので,迷惑をかけて申し訳ないけど理解してほしい」と話した上で仕事を進めるようにしています。このあたりが,まさにソフトスキルを応用している部分です。

末吉 特に経営改善にかかわるプロジェクトは,医療現場に負担を強いる面がありますよね。お願いする立場である以上は,現場の抵抗感を和らげてモチベーションの向上につなげるための最大限のサポートを約束しなければなりません。それは「モニタリング」と「成果の可視化」ではないでしょうか。

森岡 大事なご指摘ですね。私もJCIでは記録の監査を行った経験があるのですが,記録の徹底をお願いするだけでなく,「私も記録を確認して改善点はフィードバックしますね」などと付け加えると,現場からも反応があって運用が改善された経験が何度もあります。

末吉 「お互いが努力して協力しましょう」ということですよね。それが病院経営のためになり,結果的には地域や患者さんにも還元されるわけですから。

森岡 事務職から医療職へのお願いの逆で,医療職から事務職に対してさまざまな要望が出ることもあります。そうした場合,病院によって事情は異なるでしょうが,特に医師に対しては気を遣う事務職も多いようです。

小迫 私は怖がらずに「ノー」と言うようにしています。医師がオーダーを出さない限り診療報酬上で算定されないのも事実ですが,ライセンスの有無自体に優劣はなく,もし事務職として全体最適が見えている場合は,責任を持って誠実に対応することにしています。「ノー」から始まる議論によって,新しい「イエス」を引き出せることもありますし,断る仕事があっても信頼関係があれば,次の仕事ではうまく協働できるはずです。とはいっても,歳を重ねるにつれて,「ノー」と即答せず,いったん持ち帰って代案を持っていくことで,健全な議論ができるようになってきました。

森岡 病院というのは,次から次へと問題が生じる職場です。それら全ての問題を解決しようとすると,労力やコストだけかかって結局は何もできなかったりする。ですから,「解決を今すぐしなければならない問題」と「解決に時間をかけてもよい問題」を見極める能力,さらにはそれを相手に伝え,交渉する能力も,事務職には求められていますよね。

看護部内の課題を共有し,改善につなげる

森岡 院内で最も多くの職員が所属する看護部との協働についてはいかがでしょう。本来は事務職からもかかわるべき問題が,看護部の中に多くあると思っています。

小迫 「看護に集中するために事務職を使い倒す」ぐらいでいい気がしますね。例えばExcel作業の苦手な病棟師長がいるなら事務職に振ってくれたほうが早いし,場合によってはテンプレート化して全病棟に配布することもできます。

 ただ難しいのは,看護部から事務への窓口が明確ではないことではないでしょうか。私が運営する一般社団法人を通しての経験ですが,院内の問題解決にかかわる事務系の部署――総務課や施設課,経営企画室あたりとは接点が少なそうに見受けられます。どうしても看護部だけで課題を解決しようとしているように感じます。病院の方針として窓口を決めるだけでも,両者の協働は進みやすくなるのかもしれません。

末吉 聖隷浜松病院の場合,看護部内の問題であっても病院組織として改善すべき問題ならば,とりあえず経営企画室に相談してもらう文化ができています。経営企画室の事務職はそれを受けて現場の現状把握を行い,経営企画室のプロジェクトとして看護部と一緒に問題解決に当たるべきかどうか判断するという流れです。

小迫 組織としてそれを“当たり前”にする文化を醸成するわけですね。

森岡 看護部と協働したプロジェクトで,私自身の事例を紹介します。患者さんに使用するおむつに関して,以前は病棟と患者さんの間で貸し借りが発生していて,事後処理が煩雑になっていました。看護師長から問題点の提示があり,入職1年目の私が事務の立場でかかわりました。

 解決に当たっては,やることがたくさんありました。まず各病棟でのおむつの使用量を調査し,物品管理担当に病院の採用品として卸すことを認めてもらう。その上でシステム室と医事課に依頼して,使用したおむつを請求できるように電子カルテや医事システムを変更する。最後に院内全体の看護師にその仕組みを周知して,使用分の請求漏れがないかをモニタリングする。こうした全体のコーディネートを,臨床現場の業務と並行して看護師さんが全て取り仕切るのは厳しいと思うのです。

小迫 部長レベルでなく,そうやって看護師長や若手事務職レベルでの交流が増えてくると,看護部内での課題が共有されて解決に向かいそうですね。

森岡 そもそも看護部長はカバーする範囲が広すぎますよね。当院は特に看護師が多いのですが,部下1000人って民間企業では社長レベルです(笑)。看護の現場で洗い出した課題点があれば,その解決の実行部隊として事務職にも協力を求めてほしいと思っています。それが事務職の成長にもつながりますから。

森岡 病院事務職として,当事者意識の醸成から問題解決能力向上,医療職との連携強化まで議論しました。他の医療機関の事務職とこういった話をする機会は意外に少なく,私自身もとても勉強になりました。本座談会を通して,全国の事務職の皆さんが個々のスキルアップや業務への考え方を再考する機会になればうれしく思います。

(了)


こさこ・まさみ氏
2012年慶大経済学部を卒業後,聖路加国際病院に入職。医療の質を司るQIセンター立ち上げおよびJCI認証に携わる。その後「データ×IT」に医療の課題解決の可能性を感じて,14年にヤフー株式会社に転職。データビジネスにかかわる傍ら,一般社団法人Healthcare Opsを設立しウェブマガジン Healthcare Compassを運営する。18年に英リバプール大のオンラインコースで公衆衛生学修士を取得。19年より現職。亀田京橋クリニックで,デジタルシフトを担当。

もりおか・まさひろ氏
2013年一橋大商学部を卒業後,聖路加国際病院に入職。医事課入院係・経営企画室・QIセンター(医療安全・品質の改善部門)に所属。診療報酬請求や各種窓口対応などの医事業務から,看護業務改善,JCI認定の受審事務局といった院内プロジェクトまでさまざまな業務に従事。現在は医事課入院係アシスタントマネジャーとして,医事業務全般に加え,医事課スタッフの採用・教育,監査対応や各種委員会の事務局業務を担当する。

すえよし・そういちろう氏
2010年慶大大学院経営管理研究科(KBS)を修了。在学中,田中滋氏,中村洋氏のもとで医療政策,医療マネジメントを学ぶ。進学前,有料老人ホームで営業企画担当の経験から医療と介護のトータルケアの必要性を痛感するなか,KBSのケーススタディで聖隷福祉事業団による先駆的な実践を知る。修了後,同事業団に入職。聖隷浜松病院にて経営企画室,入院医事課,JCI認証の事務局を経験。18年より現職。法人・関連法人の病院経営支援等を担当。