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第3363号 2020年3月16日


【対談】

レッドフラッグを見逃さない,もうひと言を!
問診で絞り込む神経症状

黒川 勝己氏(川崎医科大学総合医療センター内科副部長/特任准教授)
中西 重清氏(中西内科 院長)


 神経疾患の鑑別を「苦手」「難しい」と感じる方は多いのではないか。頭痛,めまい,しびれなど,日常診療でよく遭遇する神経症状の中には,時に重篤な疾患が潜んでいることがある。そこで,神経非専門医(以下,非専門医)に求められるのが,重篤な疾患(レッドフラッグ)を見逃さないための病歴聴取(問診)だ。

 本紙同名連載(2013年10月~2014年9月)の『“問診力”で見逃さない神経症状』(医学書院)がこのたび書籍化された。著者で脳神経内科医の黒川勝己氏と,プライマリ・ケアの現場で診療を行う中西重清氏は,かつて市中病院と開業医院の間で患者を紹介し合う関係だった。その2人が,経験症例を交え病歴聴取のポイントについて議論。黒川氏の口からは,病歴聴取の大切さを強調するきっかけとなったある症例が語られた。


中西 一般外来の初診において「わからない」症状・症候のパターンに,神経疾患,内分泌性疾患,心因性疾患があります。実際に,頭痛やめまい,しびれなど,神経症状を訴える患者さんを診る機会は多くあります。しかし,「おかしいな」と疑っても,自信を持って診断できない難しさがあります。

黒川 中西先生のようにプライマリ・ケアの現場で患者さんを診ていらっしゃる非専門医にとって,神経症状は難しいと感じる理由は何でしょう。

中西 患者さんの主訴からだけでは,神経疾患との関連を判断できないことです。例えば,手のしびれから脳や脊髄の疾患をとっさに思い浮かべられません。

黒川 それに,主訴が神経症状であっても,その原因の全てが神経疾患とは限りません。歩けなくなった原因が熱性疾患である場合も多いですし,一過性意識消失の原因が不整脈など循環器疾患である場合もあります。多岐にわたる原因が想起される神経症状から,どう診断に近づき,どのような時に専門医に紹介すればよいかの判断も,非専門医が神経症状の診察を難しく感じる点ではないでしょうか。

コモンな神経症状に潜む重篤な疾患を見逃さない

中西 神経症状を訴える患者さんを非専門医が診る際,まず何に注意すべきでしょうか。

黒川 最も大切なことは重篤な疾患を見逃さないことです。危険な疾患の可能性を常に検討し,疑わしければ専門医に紹介してください。そこで重要となるのが,病歴聴取です。

中西 黒川先生が安佐市民病院に在籍した当時,市中病院の一般内科医や開業医に向け,神経診察の教育に尽力してくださいました。患者の紹介時や研修会で病歴聴取のアドバイスを受ける中,「わからない」症状からだんだんと具体的な神経疾患を考えられるようになりました。

黒川 病歴聴取は,神経学的所見や画像検査よりも重要だと考えています。的確な病歴聴取により,短時間のうちに診断を絞り込めるからです。

 ただし,確定診断に至るまでの的確な病歴聴取ができるようになるためには,疾患に対する豊富な知識が必要です。さまざまな疾患に対する知識を基に病歴聴取を行い,そして疾患を絞り込んでいくわれわれ脳神経内科医は,重篤な疾患かどうかの病歴聴取を最初に必ず行っています。

 重篤な疾患を見逃さない臨床力が求められるプライマリ・ケアの現場では,脳神経内科医の診察で初めに行われる病歴聴取のポイントを押さえていただきたいです。

中西 黒川先生が病歴聴取を重視するきっかけは,何かあったのでしょうか。

黒川 はい。頭痛を主訴にかかりつけ医を受診した60代男性の症例です。この方は,医師に「肩こりはあるか」と聞かれ,緊張型頭痛と診断されて帰されました。ところがその夜,自宅で倒れ救急搬送されたのです。原因は片頭痛や緊張型頭痛のような一般的な疾患ではなく,重篤な疾患であるくも膜下出血でした。

中西 見逃してはならない徴候が何かあったのでしょうか。

黒川 くも膜下出血を疑う明らかな項部硬直もなかったそうです。大切なのはやはり病歴です。患者本人の日記に,「朝,昆布茶を飲んだ瞬間に頭痛がドーンときた」という内容が書かれていました。緊張型頭痛はドーンときません。くも膜下出血は1回目に「警告出血」と言われる小さな出血が起こり,2回目に起こる出血が致命的とされます。残念ながらこの患者は亡くなってしまいました。

中西 初診時に何を聞いておけばよかったのでしょう。

黒川 「頭痛が起こった瞬間何をしていましたか?」と「このような頭痛は初めてですか?」という質問です。頭痛診療で大切なのは,片頭痛や緊張型頭痛といったコモンな一次性頭痛と診断する前に,重篤な二次性頭痛を見逃さないことだと思います。われわれは頭痛のレッドフラッグとして,①突然発症の頭痛と,②New headache(このような頭痛は初めてと言える頭痛)の2点を挙げて,必ず最初に聞くようにしています。この患者も受診時に,「頭痛は突然きたか」さえ聞いていれば,重篤な疾患と気付けたはずなのです。

中西 肩こりから緊張型頭痛と判断してしまい,危険なサインを見落としてしまったわけですね。

黒川 ええ。病歴聴取の重要性を強調するきっかけとなったこの患者は,実は私の父なのです。当時既に自分が脳神経内科医になっていながら,父を救えませんでした。

 先生方は皆,患者さんを救いたいとの思いで診察していらっしゃると思います。だからこそ,コモンな神経症状に潜む重篤な疾患を見逃さないために病歴聴取が大切だと強調しています。

一過性意識消失,明確な誘因がなければ専門医に紹介を

中西 頭痛に次いで突然の「意識消失」も問診の際に注意したい症状です。

黒川 一過性意識消失の主な原因はてんかんと失神です。その他に,頻度は高くありませんが椎骨脳底動脈系の脳血管障害や心因性などがあります。失神は,心原性失神とそれ以外に大きく分けられ,最も見逃したくないのは心原性失神です。心原性失神には致死性不整脈や器質的心疾患など極めて重篤な疾患が含まれるからです。

中西 気を付けるために,どのような病歴聴取が必要でしょう。

黒川 われわれは必ず,明確な誘因の有無を確認するようにしています。血管迷走神経性失神では,長時間の起立・緊張や,恐怖・痛み・驚愕などの情動ストレスといった明確な誘因があるはずです。もし誘因が明らかでなければ,血管迷走神経性失神以外の病態(疾患)が考えられますので,専門医へ紹介してください。

 先日,一過性意識消失で救急搬送された90代の患者さんがいました。明らかな誘因はなく,血管迷走神経性失神は否定的で,高齢発症のてんかんを疑いましたが,救急搬送時に吐いていたことが病歴でわかりました。また,診察時にも嘔吐していた。一般に,てんかんであれば意識が戻った後に頻回に吐くことはありません。

中西 吐いたとなると,鑑別に何を挙げればよいのでしょうか。

黒川 例えばワレンベルグ症候群や,小脳の血管障害です。この患者は脳幹症状や明らかな四肢失調は認められず,頭部MRIの拡散強調画像で異常所見はありませんでしたが,脳血管障害を強く疑い,当院脳卒中科に治療を依頼しました。すると,翌日再検した頭部MRI画像には小脳に脳梗塞が出現していたのです。

中西 病歴聴取によって画像検査の結果よりもいち早く絞り込めたわけですね。

黒川 はい。その結果,すぐ治療を開始できました。

中西 病歴を聴取しないまま画像検査に頼るのではなく,ここに疾患があると病巣を仮定した上で画像検査を行う。そうでないと,画像検査が無駄になるばかりか,早期発見の機会を逸してしまいます。非専門医では相当な経験がないと自信を持って判断できない面もあるため,レッドフラッグを疑ったらすぐに専門医へ紹介するのが望ましいですね。

黒川 おっしゃる通りです。今回の原因は,てんかんや失神ではなく,まれな椎骨脳底動脈系の脳血管障害でしたが,診断にたどり着けたのは,レッドフラッグをまず確認したからです。確定診断は脳神経内科の専門性に任せ,非専門医の先生には何より,レッドフラッグを含め病歴聴取のポイントを押さえていただきたいです。

「しびれ」や「震え」からどう診断に迫る?

中西 コモンな症状に「しびれ」があります。しびれの病歴聴取で注意したい点はありますか。

黒川 初めに,患者の訴えているしびれが麻痺や動かしにくさに伴う運動障害なのか,感覚鈍麻や異常感覚による感覚障害なのかを明らかにします。その上で脳血管障害やギラン・バレー症候群などの重篤な疾患を見逃さないように病歴聴取をします。

中西 ギラン・バレー症候群も特有の症状がありますね。以前,「風邪みたいで,急に動けなくなった」という患者さんが来ました。身体の片側だけ悪ければ脳血管障害を疑うのですが,両脚が立たない。さすがに見当がつかず,黒川先生に紹介したところ,ギラン・バレー症候群とわかりました。突然歩けなくなって来るとは思わず,驚きました。でも,一度特徴を知ったことで,その後何度も気付くことができました。

黒川 ギラン・バレー症候群は,下痢や呼吸器感染症の後に急性発症する四肢麻痺を主徴とする末梢神経疾患です。発症早期に治療を開始することが重要であり,呼吸不全を来し得るため,脳血管障害と同様,ギラン・バレー症候群も神経救急疾患です。

 急性発症の四肢麻痺の最も多い原因疾患であり,先行感染が7割の患者で確認できます。「急性発症の四肢麻痺・しびれ」と「先行感染」という病歴聴取によって,ギラン・バレー症候群を疑っていただきたいです。

中西 「震え」もよく出会う症状です。中には,神経難病を疑う患者さんもいるので気を付けたいものです。

 印象に残るのが,「手が震えるんです」と言って来院し,私が初めてパーキンソン病と診断した患者さんです。「パーキンソン病は体の片側から発症する」との黒川先生の教えを思い出し,診察室内で歩行試験を行いました。すると,歩き始めた途端に右手だけが震え始めたのです。

黒川 先生の見立ての通り,パーキンソン病でした。パーキンソン病では一般に症状に左右差があるのが特徴です。また,パーキンソン病の震えは,静止時が主体ですが,歩行時に手の震えがはっきりとする方がおられます。震えがどちらの手から始まったのか,どのような時に震えるのかを病歴や診察で確認することがとても有用です。

中西 歩行時の手の震えから「これはパーキンソン病だ!」と確信できました。

 診断はハンマーによる神経学的検査や画像検査が必須と考えていましたが,診察を1つ加えるだけで診断を絞り込めるのだと実感しました。

黒川 パーキンソン病は,コモンな疾患です。発症後,早い段階で診断をつけて治療につなげることは患者さんのQOLのためにも大切です。また,治療薬も多く,薬剤とリハビリテーションによる早期の適切な治療で症状も軽快します。

中西 黒川先生から「よく診断できましたね」と言われたときは,小学生がテストで良い点数をもらったようにうれしかったのを覚えています。

黒川 中西先生のように,神経症状を最初に診るかかりつけ医や一般内科の先生方がパーキンソン病を疑ってくださることは,本当に重要なことだと思います。

神経難病ALSも日常生活動作やピクつきから疑う

中西 複数疾患を抱え,中には神経難病を患い来院する高齢者が増えています。予想以上に診る機会が多いと感じるのが筋萎縮性側索硬化症(ALS)です。2年に1例ほどの頻度で当院に患者さんが来ます。ALSの患者さんに共通するのが,「ペットボトルの蓋やアルミ缶が開けられない」「文字がうまく書けなくなった」との訴えです。

黒川 中西先生から以前,「ALSではないか」と紹介を受けたときは驚きました。まだ親指の症状が出ただけで,その他の症状がない初期の段階でした。今でこそ「スプリットハンド(split hand)症候群」の名が付き,親指側の筋萎縮が小指側よりも強ければALSを疑うとされますが,脳神経内科医でも見逃すことがあるのではと思うような段階での紹介でした。

中西 ALSの病歴聴取で確認しておきたいことはありますか。

黒川 体の「ピクつき」です。線維束性収縮といってALSに特徴的な所見です。頸椎症や腰椎症で手術をする前に脳神経内科に紹介されると,ピクつきの有無を全例必ず聞くようにしています。ALSは脊椎などの手術によって筋力低下が進行してしまうからです。

中西 筋肉のピクつきは,「体重が減った」「力が入らない」といった症状と異なり患者さん本人もあまり困らないため,聞かれないと意識しないのでしょう。

黒川 そうですね。ピクつきの有無の確認は,原因不明の体重減少や筋力低下がALSによるものだと診断するきっかけになるので重要です。

中西 パーキンソン病同様,ALSは早期に発見する意義の大きい疾患のため,プライマリ・ケア医による診断が役立つと思います。

黒川 おっしゃる通りです。たとえ治らない病気であっても,症状が顕著でない早期に診断がつくことで,患者さんやご家族と今後の見通しや治療方針について時間をかけてお話しできるからです。

 QOLの良好な時間を少しでも長く有意義に過ごしてもらうためには,初療での発見が鍵を握ります。

中西 紹介した患者さんはその後,黒川先生が当院に返してくださったことで,主治医として本人や家族の側で見守ることができました。自宅で最期を迎えるまで責任を持って診るという,開業医の使命を果たした経験にもなりました。

「患者はあなたに診断を告げてくれている」

中西 一つ,専門医の先生方にお願いがあります。それは,紹介した患者が,どのような診断だったかフィードバックすることです。専門性を要する疾患は,診断や治療方針が適切か答え合わせをする必要があります。それを受けてプライマリ・ケア医も学び,経験を積み重ねることで自信を深めていけるはずです。

黒川 中西先生のように,神経難病も含めてさまざまな疾患を持つ患者さんをまるごと診てくださる先生方に頭が下がりますし,感謝しております。脳神経内科医はまだまだ不足していて,多くの非専門医の先生に助けていただいています。これからもそのような先生方に神経疾患の診断とその後の治療方針についてお伝えしたいと思います。

中西 開業して30年になる私が最近特に意識しているのは,病気について学び続けることです。中でも神経疾患を学ぶのは楽しいですね。学びがすぐに患者さんの役に立つからです。神経症状は診断が難しく,専門医に紹介すべきか判断に迷う方も,黒川先生のノウハウが詰まった,『“問診力”で見逃さない神経症状』に目を通せば,日常診療に役立つでしょう。

黒川 中西先生のように楽しく学んでいただければありがたいです。本書にある神経症状の診かたは共著者の園生雅弘先生(帝京大)にご教示いただいた内容であり,脳神経内科医に求められるジェネラリストの素養は中西先生に教えていただきました。学び続ける大切さをあらためて実感しています。

中西 そして,忘れてはならないのが患者さんからも学ぶことです。オスラーが言っていますね。“Listen to the patient, he is telling you the diagnosis”(患者の話に耳を傾けなさい。あなたに診断を告げてくれているのだから)と。患者さん自身が自分の病気を一番よく知っています。

黒川 神経症状は,患者さんに教えてもらうことは実に多いですね。本書に載せた病歴聴取のポイントは,私が園生先生や患者さんから学んだことを基に書いています。患者さんやその家族の方のQOL向上に,少しでもお役に立てれば幸いです。

(了)


くろかわ・かつみ氏
1989年広島大卒。同大病院等を経て,2000年川崎医大神経内科講師。02年米アラバマ大に留学。帰国後,広島市立安佐市民病院にて地域の神経内科医療の充実に力を注ぐ。川崎医大病院神経内科准教授,広島市民病院脳神経内科主任部長,大田記念病院脳神経内科部長を歴任し,19年より現職。日本神経学会神経内科専門医。著書に『“問診力”で見逃さない神経症状』(医学書院),『神経症状の診療に自信がつく本』(カイ書林)。

なかにし・しげきよ氏
1977年日医大卒後,広島市立安佐市民病院(呼吸器内科,内科一般)などの勤務を経て,91年中西内科を広島市安佐北区に開設。2004年より安佐市民病院臨床研修指導医,広島大総合内科・総合診療科臨床教授(医学部学生実習)を兼任。16年に開業医による医師のための勉強会「21世紀適々斎塾」「合水塾」を立ち上げ,「万年研修医」の気持ちを持つ医師や若手と互いに刺激し合って勉強を続けている。