医学書院

検索
HOME週刊医学界新聞 > 第3346号 2019年11月11日



第3346号 2019年11月11日


流行期のインフルエンザ診断

インフルエンザの季節です。今シーズンもまた,インフルエンザの迅速検査が大量に行われるのでしょう。いくら何でもやり過ぎですが,患者は希望するし,保育園や学校・職場からも依頼されるし,医療機関はもうかるし,という中でそれ以外の要因は無視されがちです。本来は,臨床疫学的なアプローチで判断することが,検査を利用する医師の大きな役割です。その役割を十分果たせるように,インフルエンザの迅速検査の使い方について解説します(全4回連載)。

[第1回]ベイズの定理と事前確率の見積もり

名郷 直樹(武蔵国分寺公園クリニック院長)


迅速検査を利用するプロの医師として

 医師は検査をどう利用するかのプロです。どういう状況でどんな患者に使用して,その結果,どのような判断をするのか,十分理解して,利用できなければいけません。患者の希望があれば検査をして,陽性なら「インフルエンザです」,陰性なら「インフルエンザではありません」ということなら,隣のおじさんにもできます。医師免許など必要ないでしょう。

 プロとしてインフルエンザの迅速検査を使うためには,どうしても理解し,使いこなさなければいけない定理があります。ベイズの定理です。国家試験にも毎年出題され,知識としては知っていても,現実の臨床での利用となると実感がない人も多いでしょう。このベイズの定理を理解し,臨床現場でどう利用するかを,インフルエンザの迅速検査を例にお示ししたいと思います。

ベイズの定理

 ベイズの定理をインフルエンザの迅速検査に即して説明すると,検査結果が当たるかどうかは,「検査する前のインフルエンザの可能性」と「検査の正確性」に比例するということです。

 検査の正確性に比例するというのは当たり前のことでしょう。迅速検査の正確性が高いほど,陽性の時にインフルエンザの可能性が高くなる,陰性の時にインフルエンザの可能性が低くなるということです。

 しかし検査の正確性だけではなく,検査をする前のインフルエンザの確率が高い時も検査後のインフルエンザの可能性が高くなります。流行期にはインフルエンザの可能性が高いと言えばこれも当たり前のことです。

 上記を数式で表すと以下のようになります。

事前オッズ×尤度比=事後オッズ

 オッズとは,確率と対比するとわかりやすいでしょう。

確率=インフルエンザ患者/全患者
オッズ=インフルエンザ患者/インフルエンザでない患者

 つまり検査前のインフルエンザの確率が50/100=50%の時,オッズは50/(100-50)=1となります。オッズというと聞きなれないかもしれませんが,五分五分というのはオッズです。5/5=1ということです。確率は2分の1です。頭髪の七三分けも7/3というオッズです。確率で言うと七十分け=7/10となります(図1)。

図1 五分五分もオッズ,七三分けもオッズ

 尤度比は検査の感度と特異度から求められるものです。陽性の時にどれくらいインフルエンザの可能性が高まるかを陽性尤度比,陰性の時にどれほど低めるかを陰性尤度比と呼び,以下の式で表されます。

陽性尤度比=感度/(1-特異度)
陰性尤度比=(1-感度)/特異度

 感度・特異度が高いほど陽性尤度比は大きくなり,陰性尤度比は小さくなります。

 もう一度まとめておきましょう。検査する前の可能性が高いほど検査はよく当たり,検査が正確であるほどよく当たる,です。

血液型を当てる方法

 それではいったんインフルエンザから離れて,質問で血液型を当てる方法を考えてみましょう。ベイズの定理によれば,検査する前の可能性(事前確率)が高いほど,検査方法が正確なほど,正確に診断できるのですから,事前確率が高い状況を作った上で,よい質問を使うということです。

 まず事前確率を高くする方法を考えてみましょう。その方法は簡単です。「A型ですね?」と言えばいいのです。当たる確率は40%です。この時「AB型ですね?」と言うと当たる確率は10%になってしまいます。事前確率が重要だというのはこういうことです(図2)。

図2 血液型を当てる方法
予知能力を高めるよりも,事前確率を利用したほうがよく当たる

 もうひとつ別の例を考えてみましょう。両親のうちどちらかがAB型の人の血液型を当てる場合です。O型の可能性は0%です。0に何をかけても0%ですから,この人の血液型がO型かどうかを知るためにいくら優れた質問を考えたとしても,O型の可能性は0%です。事前確率が低いと,いくら優れた検査(質問)をしても当たらないということです。

インフルエンザで考えてみる

 インフルエンザの事前確率が高い状況とは,流行しているということです。反対に流行していなければ低くなります。つまり流行期に「インフルエンザです」と言えばよく当たるし,非流行期に「インフルエンザかも」と言ってもなかなか当たらないということです。

 検査が陽性ならインフルエンザの可能性が高く,陰性なら低いというだけではありません。流行期の検査陰性は,非流行期の検査陰性と異なり,陰性でもインフルエンザの可能性がまだかなり高いのです。逆に流行期の陽性と異なり,流行期でなければ陽性でもインフルエンザの可能性は低いのです。

実際の事前確率

 流行期にインフルエンザの事前確率が高いのは当然ですが,一体どれくらい高いのでしょうか。これを数字で見積もることができれば,感度・特異度のデータを加え,ベイズの定理から検査が陽性の時の検査後確率,陰性の時の検査後確率が計算できます。

 2000年に症状からインフルエンザの診断を予測する研究が発表されており,熱と咳がある場合の流行期のインフルエンザの確率を79%と報告しています1)。流行期に咳と熱があると,検査をする以前にインフルエンザの確率はすでに79%です。では流行期に迅速検査が必要なのはどういう状況でしょうか。あるいは不要なのはどういう状況でしょうか。検査の使い方についての入り口に差し掛かったようです。

 次回は感度・特異度,そこから計算できる尤度比,さらにはそのデータをどのように探し出すかについて解説します。

今回のまとめ

●インフルエンザ迅速検査の利用に際しては,ベイズの定理を理解しなければならない。
●検査結果が当たるかどうかは「検査する前の可能性」と「検査の正確性」に比例する。
●インフルエンザの流行期に熱と咳があれば,事前確率は約8割。

(つづく)

参考文献
1)Arch Intern Med. 2000[PMID: 11088084]

連載一覧