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第3307号 2019年1月28日


看護のアジェンダ
 看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第169回〉
「コンパクト・プラス・ネットワーク」構想

井部俊子
聖路加国際大学名誉教授


前回よりつづく

 2018年12月に開催された地域包括ケアイノベーションフォーラム(代表=慶大大学院教授・堀田聰子氏)・第30回ワークショップのテーマは「人口減少時代のまちづくり――地域共生の視点から」であった。なかなか面白かった。

 まず,国交省都市局まちづくり推進課長・佐藤守孝氏より,「コンパクト・プラス・ネットワークと都市のスポンジ化対策」が語られた(厚労省との付き合いが多い私にとって,そもそも「都市局まちづくり推進課」という名称が興味をそそった)。国交省では共通語となっている(らしい)「コンパクト・プラス・ネットワーク」という用語を私は初めて聞いた。講師は,この用語があまり知られていないことは想定内のようだった。つまり,「コンパクト(シティ)」では生活サービス機能と居住を集約・誘導して人口を集積し,「ネットワーク」ではまちづくりと連携した公共交通ネットワークの再構築をするというコンセプトである。都市のコンパクト化は,居住や都市機能の集積による「密度の経済」の発揮を通じて,住民の生活利便性の維持・向上,サービス産業の生産性向上による地域経済の活性化,行政サービスの効率化等による行政コスト削減などの具体的な行政目標を実現するための有効な政策手段であると考えられている。

コンパクトシティと都市のスポンジ化対策

 人口減少と高齢者の増加,市街地の拡散により,生活を支える都市機能の低下や地域経済の衰退を招き,社会保障費の増加やインフラ老朽化への対応といった厳しい財政状況に陥っている。その対策としてコンパクト・プラス・ネットワーク構想によって,生活拠点が利便性の高い公共交通で結ばれた多極ネットワーク型コンパクトシティを作ろうというものである。

 コンパクトシティによる効果は以下に示される。高齢者や子育て世代が安心・快適に生活できる都市環境が整備され,ビジネス環境の維持・向上により地域の「稼ぐ力」に寄与し,行政コストの削減等で財政面でも持続可能な都市経営が可能となり,低炭素型の都市構造の実現によって地域環境への負荷の低減ができるというものである。

 「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(2014年閣議決定)に基づいて「コンパクトシティ形成支援チーム」が設置されている。支援チームはコンパクトシティ化に取り組む市町村に対して,府省庁横断的な支援を実施する。市町村との意見交換会等を通じて施策連携にかかわる課題やニーズを把握し,他の市町村のモデルとなる都市の計画作成を共有しコンサルティングを行い,コンパクトシティ化にかかわる評価指標(経済財政面・健康面など)を開発・提供し,市町村における目標設定等を支援する。

 国交省はコンパクトシティをめぐる誤解にも言及している。「一極集中」ではなく,旧町村の役場周辺などの生活拠点も含めた「多極型の都市構造」であること,全ての居住者(住宅)を一定のエリアに集約させる人口集約ではないこと,強制的に短期間で移転させるのではなく,インセンティブを講じながら住居の集約化を推進すること。区域内外の地価水準の格差を生むとの懸念に対しては,中長期的な誘導であり急激な地価変動は見込まれず都市全体の地価水準の底上げ等の波及効果が期待できるとしている。

 一方で「都市のスポンジ化」がコンパクトシティ政策の重大な支障となっていることが指摘される。都市のスポンジ化とは,都市の内部において,空き地,空き家等の低未利用の空間が,小さな敷地単位で,時間的・空間的にランダム性をもって相当程度の分量で発生する現象を指す。都市計画区域をエリアで分けて開発規制するだけでは,ランダムに発生するスポンジ化に対処できない。利用の放棄を防ぎ施設の機能を維持するマネジメント手法がないことから,現在備えていない政策手法の検討が必要とされる。

 都市再生特別措置法等の一部を改正する法律(2018年7月15日施行)では,都市のスポンジ化対策として,土地の集約,身の回りの公共空間の創出,都市機能のマネジメント,都市の遊休空間の活用による安全性・利便性の向上などが盛り込まれている。

新潟県見附市における地域活性化の試み

 既にまちづくりは始まっている。420都市が立地適正化計画について具体的な取り組みを開始し,このうち177都市が計画を作成し公表している(2018年8月31日時点)。

 フォーラムでは,新潟県見附市の「コンパクト・プラス・ネットワークの実践」報告を久住時男市長が行った。見附市は人口4万711人,世帯数1万4785世帯,高齢化率31.3%,面積77.91 km2の都市で,新潟県の中央部に位置する。久住市長はSmart Wellness City首長研究会(2009年発足)の会長を務める。「健康アルゴリズムによる研究」(2010年度実施,n=733)から,見附市では健康行動の無関心層(運動未実施)が65%に上ることがわかった。そこで見附市は,人口が減少しても持続できるまち「コンパクトシティの形成」として,「居住誘導ゾーン」「生活機能誘導ゾーン」「コンパクトビレッジ」をつくり,地方都市型「地域活性化モデルケース」に選定された。まちづくりのポイントは,①社会参加(外出)できる場づくり,②中心市街地を中核とした賑わいづくり,③歩きたくなる快適な歩行空間の整備,④公共交通網の整備,⑤地域コミュニティの構築である。施策を担保するために,健「幸」基本条例,歩こう条例,市道の構造の技術的基準を定める条例を制定している(2011~12年)。

 久住市長は,市職員の体質にも触れ,「失敗しても大丈夫」「職員を褒める」など,商社マンの経験を活かした柔軟なマネジメントによってコンパクトシティが実現したことを強調した。なんだか老後が楽しくなりそうだ。

つづく

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