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第3268号 2018年4月9日


身体所見×画像×エビデンスで迫る
呼吸器診療

肺病変は多種多彩。呼吸器診療では,「身体所見×画像×エビデンス」を駆使する能力が試されます。CASEをもとに,名医の思考回路から“思考の型”を追ってみましょう。

[第10回]特発性肺線維症を考える

皿谷 健(杏林大学呼吸器内科 講師)


前回からつづく

CASE 76歳女性。20年前から乾性咳嗽が出現。10年前の健診で胸部X線の異常を指摘され,経過観察となっていた。ここ数か月で労作時呼吸困難が出現し,自宅での家事はできるが外出は月に1度程度。咳嗽の増悪があり紹介受診。咳嗽は日中に強いが,就寝時にも増強。Vital signsは呼吸数の軽度上昇(22回/分)以外は問題なし。両背側の肺底部を主体にlate inspiratory cracklesを聴取。ばち指なし。Review of systemsでは,レイノー現象,筋肉痛,関節痛,乾燥症状はいずれもなし。胸部X線で食道裂孔ヘルニア(図1A),胸部CTで蜂巣肺(UIP pattern)を認めた(図1B,C)。

図1 胸部X線(A),CT画像(B,C)(クリックで拡大)


 びまん性の肺病変を見たら,感染症だけでなく,膠原病,吸入抗原関連,薬剤性肺炎などの可能性を吟味する必要があります。第4回(3243号)で述べたように,特発性間質性肺炎は常に除外診断であるからです。本症例は身体所見や血清学的検査で明らかな基礎疾患を認めず,特発性間質性肺炎の中でも蜂巣肺で特徴付けられる,特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis;IPF)と診断されました。

 IPFの咳嗽は日中に強く出現することが知られていますが,就寝時にも生じる場合は逆流性食道炎や後鼻漏症候群を疑います。実際に本症例では食道裂孔ヘルニアがあり,上部消化管内視鏡で逆流性食道炎を認めました。

IPFの疫学と予後

 IPFは慢性進行性の経過をたどり,線維化が高度に進行して不可逆性の蜂巣肺形成を来す,予後不良の難治性疾患です。本邦の調査では,発症率は10万人当たり2.23人,有病率は10万人当たり10.0人,診断時からの平均生存期間は3~5年,生存中央値は35か月とされています1)

 これまで抗炎症作用を期待し投与されていたステロイド,免疫抑制薬,N-アセチルシステイン(NAC)の併用療法がプラセボと比して予後を増悪させるという衝撃的な報告を受け2),典型的なIPF症例の慢性期に対するステロイドや免疫抑制薬の使用は控えるように,本邦を含め各国のガイドラインが変更されています。

IPF治療のパラダイムシフト

 抗炎症作用ではなく抗線維化作用を有するピルフェニドンとニンテダニブの登場がIPFの治療を大きく変えました。その臨床研究を紹介します()。

 抗線維化薬の臨床研究

 ピルフェニドンはTGF(トランスフォーミング増殖因子)-βの産生抑制を主な作用機序とし,本邦では2008年,世界に先駆けてIPFの治療薬として承認されました。本邦での第II相・第III相ランダム化比較試験(RCT)では,52週の時点でVC(肺活量)低下を抑制する効果が認められ,米国主導の第III相RCT(CAPACITY 004・006,ASCEND)が実施されました。52週のプール解析において,ピルフェニドン投与群ではFVC(努力性肺活量)が10%以上低下した患者数が43.8%減少し(p<0.001),FVCの低下が40.7%抑制され,progression-free survival,6分間歩行距離,呼吸困難の自覚スコアも有意に改善しました3)。また,全死亡率は48%低下しています(HR 0.52,p=0.01)4)。現時点ではIPFにおいて全死亡率と IPF関連死亡率の改善効果が示された唯一の薬剤となっています5)

 ピルフェニドンの長期観察試験であるRECAP,PASSPORTは前者のみ論文が出ており,CAPACITY 004・006,ASCEND,RECAP,コンパッショネートユースの5つを統合した1299症例の長期解析では,最長9.9年の投与でも良好な忍容性が確認されています6)

 ニンテダニブはVEGFR(血管内皮増殖因子受容体)1~3型,FGFR(線維芽細胞増殖因子受容体)1~3型,PDGFR(血小板由来増殖因子受容体)を阻害するトリプルキナーゼ阻害薬で,本邦では2015年に承認されました。

 世界25か国92施設で施行されたRCTであるTOMORROWでは,40歳以上,FVC≧50%かつDLCO(肺拡散能) 30~79%のIPF症例を選択し,ニンテダニブ150 mgを1日2回,12か月間投与しました。その結果,プラセボに比してFVCの低下抑制(-0.06 L/年 vs. -0.19 L/年),急性増悪の有意な頻度低下が見られました(2.4%/年 vs. 15.7%/年)7)

 INPULSIS-1・2の両試験でも,ニンテダニブ投与群ではプラセボに比してFVC低下が約50%抑制されました8)。INPULSIS-1・2の統合解析では,中央判定で急性増悪についても抑制効果を認めています8)。TOMORROWおよびINPULSIS-1・2の統合解析では,ニンテダニブはプラセボに比してやはり50%程度のFVC低下抑制効果(-112.4 mL/年 vs. -223.3 mL/年)を示しています9)。長期観察試験(INPULSIS-ON)は現在終了しており,今後結果が出る予定です。

 なお副作用については,ピルフェニドンで嘔気36.1%, 皮疹30.3%, 食欲不振13%6),ニンテダニブで下痢61.5%, 嘔気24.3%, 嘔吐11.8%と報告されています9)。INPULSIS全体ではニンテダニブの肝障害は10.5%ですが,日本人だけのサブグループ解析では27.6%と多い傾向にあります10)

IPFの急性増悪に感染症の関与はあるか?

 IPFの急性増悪は,肺の異常陰影の出現とともに急速に生じた呼吸状態の悪化と定義され,以下の4つのクライテリアが提唱されています11)

1)以前または同時にIPFと診断
2)30日以内に増悪した原因不明の呼吸困難
3)胸部CTでUIP patternを示し,Ground glass opacity(GGO)やコンソリデーションなど新たな両側肺異常陰影が出現
4)心不全や体液貯留で説明できない呼吸状態の悪化

 日常診療では,IPFの急性増悪に感染症の関与があるのかが大きな謎の一つです。われわれは,間質性肺炎急性増悪に関する3年間の前向き研究を行い,特発性間質性肺炎51症例,膠原病性間質性肺炎27症例の合計78症例を検討しました(図2)。鼻咽頭,喀痰,気管支肺胞洗浄液などの呼吸器検体で,全症例のうち15症例(19.2%)でウイルスが検出されましたが,その多くはヒトヘルペスウイルス7(HHV7)や,HHV7とサイトメガロウイルスの両者の検出であり,いわゆる一般的な呼吸器ウイルス感染症の関与は乏しいと考えられました12)。IPFとnon-IPFでのウイルスの検出率に差はなく,ウイルス感染そのものは短期予後(60日後死亡率)を予測する因子にはなり得ませんでした。

図2 間質性肺炎急性増悪を対象にした前向き研究(文献12

 IPFの治療は大きなパラダイムシフトを迎えましたが,以下の点が解決すべき課題となっています13)

1)抗線維化薬開始のタイミング(無症状でも早ければ早いほど良いのか?)
2)ピルフェニドンとニンテダニブのどちらが優れているのか?
3)治療変更のタイミングは?
4)ピルフェニドンとニンテダニブの併用療法は行うべきか?
5)ProbableまたはPossibleと呼ばれるIPFの非典型例に対して抗線維化薬を使うべきか?

POINT

●特発性間質性肺炎は常に除外診断。他疾患の可能性を吟味しよう。
●特発性肺線維症に関する最新のエビデンスを確認しよう。

(つづく)

参考文献
1)Am J Respir Crit Care Med. 2014[PMID:25162152]
2)N Engl J Med. 2012[PMID:22607134]
3)Eur Respir J. 2016[PMID:26647432]
4)N Engl J Med. 2014[PMID:24836312]
5)PLoS One. 2015[PMID:26308723]
6)BMJ Open Respir Res. 2016[PMID:26835133]
7)N Engl J Med. 2011[PMID:21992121]
8)N Engl J Med. 2014[PMID:24836310]
9)Respir Med. 2016[PMID:26915984]
10)Respirology. 2017[PMID:27997064]
11)Am J Respir Crit Care Med. 2016[PMID:27299520]
12)Respir Med. 2018[PMID:29501253]
13)Pneumologie. 2018[PMID:29341047]

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