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第3268号 2018年4月9日


【寄稿】

慢性低ナトリウム血症の症状に注意を
QOL低下および生命予後悪化との関連について

椙村 益久(藤田保健衛生大学 医学部内分泌・代謝内科学教授)


 低ナトリウム(Na)血症は,最も頻度が高い電解質異常疾患である。従来,急性低Na血症の場合は中枢神経症状を呈し重症化の場合死に至るため積極的な治療介入を行うのに対し,慢性低Na血症の場合は無症状と考えられ治療介入されないことも多かった。しかし近年,無症状と考えられる軽度の慢性低Na血症の場合であっても,転倒・骨折やQOL低下,生命予後の悪化につながることが明らかにされつつある。

 本稿では,最近の疫学研究の紹介と,われわれが見いだした知見について概説する。「もしかしたらこれまで比較的軽度な低Na血症の症状に気が付いていなかったのかもしれない」と考える機会になれば幸いである。

低Na血症と歩行障害・認知機能障害

 低Na血症は脳浮腫を引き起こすため,中枢神経症状を主体とする神経学的症状を呈する。症状は,低Na血症の重症度と低Na血症の進行速度による。一般的に血清Na濃度が125 mEq/L以上では無症状(時に頭痛・嘔気・記銘力低下),120~125 mEq/Lではさらに錯乱や食欲不振,115~120 mEq/Lでは不穏・傾眠・昏迷,115 mEq/L未満では痙攣や昏睡などの症状を来す。115~120 mEq/Lでは死亡率30%,115 mEq/L未満では死亡率50%という報告もある1)

 一方,慢性低Na血症では脳浮腫がなく,神経症状もほとんどないと考えられてきた。しかし最近,軽度の慢性低Na血症の無症候性と考えられる症例において,注意機能低下などの認知機能障害,歩行時のバランス障害などの神経症状が認められ,転倒・骨折のリスクが増加し,QOLの低下および生命予後が悪化するなどの疫学的調査結果が報告されるようになってきた。

 血清Na濃度が平均126 mEq/Lの比較的軽度な慢性低Na血症の症例において,歩行安定性が低下し転倒のオッズ比が67倍と,転倒リスクが著明に増加することが報告された2)。また,転倒後骨折のため救急外来を受診した65歳以上の患者の解析では,低Na血症は転倒後骨折のリスクを増加させること(オッズ比4.16)が報告された3)。さらに,低Na血症の患者は生存率が低下し,その原因のひとつに骨折のリスク増大が考えられた4)

 ただし,低Na血症を来す心不全,肝不全,悪性腫瘍,副腎不全等の基礎疾患によって神経症状が生じる可能性があるため,低Na血症自体によって神経症状が生じるのか否かは明確ではなかった。そこでわれわれの研究グループでは,SIADH(バゾプレシン分泌過剰症)モデルのラットを用いて,慢性低Na血症の歩行・行動への影響を検討したところ,慢性低Na血症のラットは一見無症状に見えるが,詳細な検討を行うと,歩行障害や認知機能障害が生じていることを見いだした5))。

 フットプリント(参考文献5より)(クリックで拡大)
血清Na濃度正常のラットの前肢と後肢の足跡はほぼ重なっているのに対し,血清Na濃度の低下により足跡のずれが大きくなり(中段・下段),解析の結果,失調性歩行を呈することが明らかとなった。

低Na血症と骨粗鬆症

 以上述べたように,低Na血症が転倒,骨折リスクを増加させることが知られてきたが,低Na血症と骨粗鬆症との関連は不明であった。

 われわれの研究グループは,米国50歳以上のデータのクロスセクション解析の結果,軽度低Na血症群(平均血清Na濃度が133±0.2 mEq/L)では,Na正常群(平均血清Na濃度が141.4±0.1 mEq/L)と比べ骨粗鬆症のリスクが有意に高くなること(オッズ比は大腿骨近位部で2.85,大腿骨頸部で2.87)を報告した6)。本解析は年齢,性別,人種,肥満度,運動度,利尿薬の有無,喫煙の有無,そして血清25(OH)D濃度で補正されており,無症候性と考えられる軽度な低Na血症が独立した因子として骨粗鬆症を引き起こすことが認められた。

 また,65歳以上男性を対象にしたコホート研究では,血清Na濃度<135 mEq/Lの低Na血症は大腿骨近位部骨折のリスクが高く(オッズ比3.04),また低Na血症では椎体形態骨折の既存骨折と約4.5年以上のフォロー中の新規骨折のオッズ比もそれぞれ2.46,3.53とリスクの増大が認められることが報告された7)

低Na血症が骨粗鬆症を引き起こす機序

 われわれの研究グループはラットSIADHモデルを用い,3か月間の慢性低Na血症が,血清Na濃度正常のラットに比べ,大腿骨の骨塩量を約30%低下させること,またμCT検査による評価で骨梁と皮質骨をともに著明に減少させることを見いだした。また,組織形態学的解析の結果,低Na血症ラットでは血清Na濃度正常群に比して,破骨細胞が著明に増加し,骨吸収が亢進し骨粗鬆症を発症することが明らかになった6)

 われわれの研究グループは,上記のin vivoの実験に引き続きin vitroの系で細胞外Na濃度の破骨細胞への直接的な影響を検討した。破骨細胞の前駆細胞であるRAW 264.7細胞と骨髄単球の初代培養を用いた検討で,培地中のNa濃度を低下させると,用量依存性に成熟破骨細胞数が増加し破骨細胞形成および骨吸収活性化を亢進させることが明らかとなった。また,その機序に,破骨細胞内での酸化ストレスが関与することが示唆された8)

 低Na血症および転倒・骨折・骨粗鬆症といったイベントは,いずれも高齢者において頻度が高い。したがって,超高齢社会を迎える日本においてますます重要な問題となる。今まで以上に低Na血症への症状に留意し,ふらつき,転倒,認知機能低下,骨折,骨粗鬆症への関与が考えられた場合は積極的に低Na血症の治療を検討することが必要と考えられる。

参考文献
1)Mark John Hannon, et al. Hyponatremia and Hypernatremia. In:J. Larry Jameson, et al, editors. Endocrinology:Adult and Pediatric. 7th ed. Elsevier;2016. pp1953-62.
2)Am J Med. 2006[PMID:16431193]
3)QJM. 2008[PMID:18477645]
4)J Bone Miner Res. 2011[PMID:21381111]
5)J Am Soc Nephrol. 2016[PMID:26376860]
6)J Bone Miner Res. 2010[PMID:19751154]
7)J Bone Miner Res. 2015[PMID:25294595]
8)J Biol Chem. 2011[PMID:21135109]


すぎむら・よしひさ氏
1995年金沢大医学部卒。2004年米ジョージタウン大留学(内分泌・代謝学),07年名大大学院医学系研究科博士課程修了。名大病院糖尿病・内分泌内科講師,名大大学院医学系研究科糖尿病・内分泌内科学講師などを経て,17年より藤田保衛大医学部内分泌・代謝内科学教授,藤田保衛大坂文種報徳會病院内分泌・代謝内科。