医学界新聞

連載

2017.04.10



めざせ!病棟リライアンス
できるレジデントになるための㊙マニュアル

ヒトはいいけど要領はイマイチな研修医1年目のへっぽこ先生は,病棟業務がちょっと苦手(汗)。でもいつかは皆に「頼られる人(reliance=リライアンス)」になるため,日々奮闘中!!……なのですが,へっぽこ先生は今日も病棟で頭を抱えています。

[第11話]
退院したらあとはお任せ!?
患者さんの“その後”に思いをはせよう

安藤 大樹(岐阜市民病院総合内科・リウマチ膠原病センター)


前回よりつづく

 救急外来中のへっぽこ先生,受付の画面に見覚えのある名前を見つけました。自分が担当してCOPDと肺炎の治療を行っていた78歳のAさんで,つい一週間前に退院したばかりです。病気自体は良くなったのですが,廃用も進んだ上に一人暮らしで,「退院後は大丈夫かな?」なんて会話をしていた気がします。案の定,離れて暮らしている長女さんに連れられてきたAさんはヘロヘロです。付き添いの長女さんは明らかに不機嫌そう。今回も同じ病態で入院となってしまいました。「やっぱりこうなると思っていたんですよ。(指導医の)B先生,やたらと退院を急いでいたみたいですしね。病棟もいっぱいだから仕方ないけど」と,看護師さんもどこか釈然としない様子。

(へっぽこ先生) まぁ,この病院は急性期病院ですもんね。DPC対象病院としては,ベッドの回転率を上げないと……(と,最近覚えたばかりの知識を得意げに話すへっぽこ先生)。
(セワシ先生) おー,いつの間にか医療経済のことまで考えだしたんだね。でもさ,それって完全にこちら側の都合だし,不完全な状態で退院させた理由にはならないんじゃない? 入院診療にかかわるってことは,退院後の生活にも責任が出てくるってことなんだよ。
(へっぽこ先生) 言われてみたら,退院後のことってあまり知らないかも……。


 急性期病院の最も大切な役割は,言うまでもなく急性期の治療です。ただ,医療崩壊が叫ばれて久しい現在は,地域の中核病院(つまり,皆さんが研修している病院)と地域との連携能力を高めることで地域医療を守るのが,医療政策の基本方針になっています。中核病院で働いている医師は,自分の患者さんがどのような手続きで,どのようなサービスを使い,どのような場所に退院していくかの知識を持っていなければなりません。こうした知識を持たずして,患者さんの“その後”に思いをはせることができないのは言うまでもありません。今回は,研修中に押さえておいてほしい最低限の知識をまとめてみます。

入院前からの“足し算”と“引き算”

 まずは,退院時にどのような状態かを検討する必要があります。事務的な表現になりますが,退院時の状態を予測するには「入院前のADL/IADL」+「病気による変化」+「入院生活による変化」という考え方が必要になってきます。第7話(3202号)で取り上げた「高齢者総合的機能評価(CGA)」は非常に有用なツールになりますし,病気の経過によっては早期のリハビリ導入やケアマネジャー介入の必要性を想像しなければなりません(病気や入院による変化は,これからいっぱい経験して覚えていってくださいね)。

 ディフェンダー,ミッドフィールダー,フォワード……。それぞれの役割を知らなければ,サッカーの試合に勝つのは難しいですよね。退院支援だって同じこと。退院に向けて動くメンバーのそれぞれの役割を知ることは,退院支援のイロハのイです。「そもそもどんな職種の人がかかわっているか知らないなぁ」という人のために,チームメイトを紹介します。

<中核病院側>
担当医グループ,病棟看護師,薬剤師,管理栄養士,リハビリ職,NSTチーム,緩和ケアチーム,褥瘡対策チーム

<橋渡し>
ソーシャルワーカー,退院調整看護師,地域連携部,患者家族

<地域側>
診療所(歯科も含む),訪問看護師,訪問リハビリ担当者(看護師や理学療法士など),ケアマネジャー,ヘルパー,地域包括支援センター

 どのメンバーも大切ですが,個人的に最も大切なのは“ケアマネジャー”ではないかと思います。介護福祉士,看護師等の国家資格に基づく業務,あるいは特定の福祉・介護・障害者施設等で相談支援業務に5年以上従事した人が,試験に合格し実務研修を受けて初めて取れる資格(2018年度より受験資格が変更)で,要介護認定(後述),介護支援サービス(例:状況アセスメント,ケアプラン作成,各施設間の連絡),給付管理(例:支援限度額や利用者負担額の計算,給付管理票作成)などその役割は多岐にわたります。地域医療には絶対欠かせないチームメイトです。ネットの情報でもいいのでその仕事内容を一度確認してみてください。

介護保険制度を押さえよう

 高齢化・少子化・核家族化の進む現代において,地域医療を支える肝となる「介護保険制度」は,是が非でも覚えてもらいたいところです。給付対象は65歳以上と,老化に関する特定疾病(16疾患)を持つ40~64歳の人です。この16疾病の中には末期のがんだけでなく,関節リウマチ,骨折を伴う骨粗鬆症,初老期認知症,パーキンソン病,合併症を伴う糖尿病,脳血管疾患といった比較的なじみのある疾患も含まれていますので要チェックです。

 要介護認定は7段階(要支援1・2,要介護1~5)に分けられます。もちろん全部の段階の内容を覚えておければいいのですが,実際には難しいと思いますので,まずは要介護1(立ち上がりや歩行などに不安定さがみられることが多く,排泄や入浴などには部分的な介護が必要な状態)だけ覚えておいてください。なぜなら,要支援状態と違い要介護1からは「夜間対応型訪問介護」を受けられる上,後述する「介護老人福祉施設」,「介護老人保健施設」,「介護療養型医療施設」などの施設介護サービスを利用できるようになるからです。これは退院先決定の際に非常に大切なポイントになります。ちなみに,2014年に改定された最新のデータによると,要介護1で受けられる支援限度額(月額)は16万6920円です。自己負担1割の場合,ホームヘルパーやデイサービス,ショートステイなどを組み合わせればほぼ1か月利用できますし,介護療養型医療施設なら,約26日利用できます1)

自宅への退院にこだわりすぎない

 元気に自宅に退院できればいいのですが,自宅への退院にこだわると,冒頭の症例のような失敗をしてしまいます。慢性期病院以外に,看護師や作業療法士などの専門スタッフがいる施設への入居も,重要な選択肢になってきます()。その他,小規模多機能型居宅介護,認知症対応型共同生活介護(グループホーム),軽費老人ホーム(ケアハウス)などがあります。

 介護保険法に基づく介護保険施設の種類(筆者作成)

 退院は医療者にとっての一つのゴールかもしれませんが,患者さんやご家族にとってはむしろスタートです。そのスタートをスムーズに切るには,医療のプロであるわれわれがいかに今後のレース展開を予測できるか,つまり,患者さんのこれからにどれだけ思いをはせられるかにかかっているのです。

セワシ先生の今月のひとこと

医療者にとって退院はゴールになりがちだけど,患者さんにとっては次の生活へのスタート! 患者さんがこれから利用するであろうサービスや施設に関する知識を押さえておけば,患者さんのその後の生活を少しでも豊かにすることができるかもしれませんよ。

つづく

【参考文献】
1)厚労省.平成26年度介護報酬改定について.2014.

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