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第3215号 2017年3月13日


めざせ!病棟リライアンス
できるレジデントになるための㊙マニュアル

ヒトはいいけど要領はイマイチな研修医1年目のへっぽこ先生は,病棟業務がちょっと苦手(汗)。でもいつかは皆に「頼られる人(reliance=リライアンス)」になるため,日々奮闘中!!……なのですが,へっぽこ先生は今日も病棟で頭を抱えています。

[第10話]
モンスター・ペイシェント?
“困った患者さん”にしちゃっているかも!?

安藤 大樹(岐阜市民病院総合内科・リウマチ膠原病センター)


前回よりつづく

 もう,何なのよあの家族! 来るたび来るたび,文句つけてきて!――ナースステーション奥の控室からこんな声が聞こえてきました。いつも感じがよく,患者さんからの評判もいい看護師さんの声です。話題に上っているのはへっぽこ先生の担当しているAさん。本人は高齢で寝たきりのため何も言いませんが,確かにご家族は一癖も二癖も……。控室から出てきた看護師さんと目が合ったへっぽこ先生,「先生担当でしょ。どうにかしてよ!」と言われてしまいました。

(へっぽこ先生) どうにかしてって言われても,僕が何を言ってもダメなんですよ。「この若造が!」みたいな感じで,全然話も聞いてもらえないし……。

「じゃあ,早く転院してもらってくださいよ! もう急性期の治療は終わっているんでしょ!?」と納得がいかない様子です。

(へっぽこ先生) そうなんですけど,転院の話をすると怒り出すんですよ(オロオロ)。
(セワシ先生) へっぽこ先生,苦戦しているね。確かにクレームの多い患者さんの担当はストレスだよね。僕もできれば避けたいけど……。でも,もしかしたら僕たちが患者さんを“モンスター・ペイシェント”にしちゃっているのかもしれないよ。


 “生命”という最も尊いものを扱う医師が,一生懸命働くのは当たり前です。でも,どんなに一生懸命,誠心誠意頑張っても,モンスター・ペイシェントには一定の割合で出会ってしまいます。理不尽としか思えないことを言われたり,女性の先生であればセクハラのような扱いを受けたり……。自分の生活も体力も犠牲にして「患者さんのために!」と頑張る医師にとって,これほどつらいことはありません。

 でも,もしかしたらわれわれの思い込みで,患者さんをモンスター・ペイシェントにしてしまっているのかもしれません。湧き出てくる負の感情をグッと抑え,プロフェッショナルな対応を心掛けましょう。

まずは背景を知りましょう

 なぜモンスター・ペイシェントが増えているのか,背景を知っておく必要があります。まず,医師法第十九条の「応召義務」です。非常に崇高な理念ではあるものの,医療者側に診療拒否権がないことが,われわれに毅然とした態度を取りにくくさせています。

 さらに,2001年に厚労省より出された「国立病院・療養所における医療サービスの質の向上に関する指針」もその一因となりました。この指針の中で「患者の呼称の際,原則として姓名に『さま』を付することが望ましい」という通達が出されています1)。これはパターナリズムと呼ばれる以前の医師-患者関係によって生じていたさまざまな問題を解決するもので,指針自体が悪いわけではありません。ただ,これによって患者さん側に「自分はお客さまだ」という認識が生まれ,中には「わがままを言っても許される」と拡大解釈する方がいたのも事実です。また,医療技術が進歩したことや,医療情報が氾濫状態となったことで,「医者は病気を治して当たり前」といった風潮が生まれたのも原因でしょう。

6つのキーセンテンス

 ①静かに傾聴,②可能な限り気持ちに共感,③話を遮らない,④毅然とした態度,⑤ダメなら組織戦,⑥それでもダメなら警察。これが,対処法のキーセンテンスです。相手の土俵に立って同じようにいきり立ったり,話を途中で遮って正論を述べたりするのは論外です。

 謝罪は有効ですが,共感を示した上で「お気持ちはよくわかりました。そのような状況に十分配慮できず申し訳ありませんでした」と伝えることをお勧めします。ただ謝罪するだけでは,こちらに落ち度がなかったとしても非を認めているようなものです。それでもダメなら組織戦です。モンスター・ペイシェントは,スタッフがばらばらでまとまりがないところを突いてきます。院内のクレーム対応について,あらかじめ確認しておきましょう。警察の登場はできればご遠慮願いたいところですが,暴力やセクハラ,恐喝などが起きた場合には仕方ありません。

 「簡単に言うなよ~」と思いますよね。確かに,実践するのは口で言うより何十倍も大変です。ここで皆さんに,こうした患者さんたちの話の聞き方の“3つのコツ+α”を伝授します。心療内科などでよく使われる手法で,もちろん一般の患者さんに対しても有効ですよ。

【コツ1】 男性には“尊敬” 女性には“愛”
 心理学の世界では,男性エネルギーは「行動する,先導する,決定する,大事にする」性質を持つのに対し,女性エネルギーは「感じる,受け取る,従う,尊敬する」性質を持つとされています。その代償として男性が求めるものが“尊敬”で,女性が求めるものが“愛”なのだそうです。もちろん,露骨に男性を持ち上げたり,女性に愛を語ったりしてくださいという意味ではありません。患者さんと対峙する前に,この原則をほんの少し意識するだけでOK! 男性には敬愛心を持って「それは素晴らしいですね」,女性には愛護心を持って「よく頑張りましたね」といった言葉を掛けるよう心掛けましょう。

【コツ2】 “相づちのプロ”に
 傾聴することが大切だとよく言われますが,傾聴の仕方まではなかなか教えてもらえませんよね。ポイントは「あるがまま」「適度な相づち」「オウム返し」です。まずは相手をあるがまま受け止めましょう。一歩引いて相手の話し方や視線,心理状態(緊張,興奮,不安など)を観察し,会話のテンポを合わせてみてください。これを“ペーシング”と言います。

 ペーシングのコツが,適度な相づちです。「はいはい」と高速で相づちを打たれると「早く話を終えてほしいのかな」と感じませんか? 理解しようとする気持ちを伝えるためには,ゆっくりとした相づちが効果的。さらに,うなずき方の強弱も大切です。ペーシングするために小さくゆっくりうなずき,大切な部分になったら大きくゆっくりとしたうなずきに変えると効果倍増。ぜひ“相づちのプロ”になってください。

【コツ3】 聞き上手は“オウム返し”上手
 相手の発した言葉をそのまま繰り返す「オウム返し」は,相手のことをしっかり受け止めているというメッセージになり,安心感を与える効果があります。ただ,何でもかんでもオウム返しをしていると,相手は揚げ足を取られた気分になりますので,まずは相手がある程度話してから,その会話の最後の部分を繰り返すことから始めてみてください。慣れてきたら相手の「最も話したいこと」「何度も繰り返している言葉」「印象的な表現」などを拾い上げてみましょう。

【+α】 “転移”を意識して
 さらに一歩踏み込んでみます。傾聴した内容を患者さんにどう還元するかのコツです。オーストリアの精神科医ハインツ・コフートは,人の深層心理の中には「理想化転移(方向性がほしい)」「双子転移(気持ちを共有したい)」「鏡転移(褒められたい)」があるとしています。詳細は成書に譲りますが,目の前の患者さんは気持ちをわかってほしいし,今までの苦労をねぎらってもらいたいし,目標を示してほしいと思っているんです。研修中にそこまでの対応は難しいかもしれませんが,余裕があるときに少し思い出してみてください。近い将来,あなたの診察能力がアップしているハズですから。

 モンスター・ペイシェントへの対応は,本当にストレスになります。でも,その対処法を身につけることは,自分自身やスタッフを守ることはもちろん,他の患者さんを守ることにもつながります(一人の困った患者さんがいると,知らず知らずのうちにそれ以外の患者さんに向けるパワーが減ってしまうものです)。さらには,その患者さん自身を守ることにもなります。対応する際は,一度大きく深呼吸して,3つのコツ+αを思い出してみてください。

セワシ先生の今月のひとこと

もしかしたらわれわれの思い込みが患者さんをモンスター・ペイシェントにしちゃっているかも!? 一癖ありそうな患者さんと向かい合うときは,話の聞き方の“3つのコツ+α”を意識してみましょう。大変ではありますが,うまく対応できたら,多くの人たちを助けることができるかもしれませんよ。

つづく

【参考文献】
1)国立病院等における医療サービス研究会.国立病院・療養所における医療サービスの質の向上に関する指針.新企画出版社.2002.

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