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第3216号 2017年3月20日


【寄稿】

オーラルフレイルへの早期介入で高齢者の「食力」向上を

飯島 勝矢(東京大学高齢社会総合研究機構 教授)


 超高齢社会を迎えた今,高齢者の健康寿命をさらに延伸させる必要がある。そして,高齢者にも社会参加を促し,「社会の支え手」となるよう社会システム全体を組み替えていくことが求められる。本稿では,その実現に向けた方策の一つについて,「オーラルフレイル」の概念から紹介したい。

新概念「フレイル」を軸に負の連鎖を断ち切る

 ヒトは「健康→虚弱→要介護→終末期→看取り」という一連の流れをたどる。日本老年医学会は2014年,この過程にある虚弱を,「フレイル」と呼ぶことを提唱した。新概念であるフレイルは,健康な状態と要介護状態の中間の時期であり,しかるべき適切な介入によって機能(予備能力・残存機能)を戻すことができる可逆性のある時期に位置付けられる。フレイルは,身体の虚弱(フィジカル・フレイル)だけではなく,こころ/認知の虚弱(メンタル/コグニティブ・フレイル),および社会性の虚弱(ソーシャル・フレイル)と多面的に存在する。

 Friedらによってサルコペニア(筋肉減弱症)を中心とするフレイル・サイクル(Frailty cycle)が示されている1)。これは,サルコペニアが若干進行することで安静時代謝が減り,消費エネルギーも減ることから食欲(食事摂取量)低下に傾き,低栄養や体重減少に陥って次なるサルコペニアが進行するという負の連鎖が生じることを示す。そこに,社会的問題(独居,閉じこもり,貧困等)や精神心理的問題(認知機能障害や抑うつ等)も大きくかかわってくる。この負の連鎖をより早い時期からいかに断ち切るかが,超高齢社会の大きな課題となっている。

高齢期の食の課題は社会性・心理面も見逃せない

 高齢者の食の安定性,すなわち「食力(しょくりき)」がどのような要素によって下支えされているのかを再考してみる。すると,残存歯数や咀嚼力,嚥下機能,咬合支持などの歯科口腔機能が重要になってくる。また,複数の基礎疾患(多病)による多剤併用(Polypharmacy),口腔を含む全身のサルコペニアの他,栄養摂取バランスの偏りや食に対する誤認識など,栄養面の要素も大きい。

 さらに,それ以上に重要なのが「社会性,心理面,認知面,経済的問題等」である。当然,その中には孤食か共食かなどの食環境の差異も含まれる。以上のように,高齢者の食を考え直してみると,高齢者が低栄養に傾いてしまう原因は多岐にわたるのだ。

 その中で,生活習慣病を厳格に管理するためのカロリー制限をどの高齢者に指導するのか,一方で,どの時期から従来のメタボ概念からの切り替えを図るべきなのか,考え方のギアチェンジ(スイッチング)は,今後フレイル対策を進める上で重要な鍵を握る。

「ささいな衰え」を早期に発見することが重要に

 より早期からの包括的なフレイル予防が求められる中,われわれは栄養・運動・社会性などの幅広い視点を盛り込んだ形で,千葉県柏市での大規模自立高齢者コホート研究(柏スタディー)を実施している。これはサルコペニアの視点を軸に,ささいな老いの兆候を多角的な側面から評価し,「市民により早期の気づきを与え,自分事化させ,どのように意識変容~行動変容させ得るのか」を狙ったものである。

 中でも,より早期からの口腔機能維持の重要性が新知見として得られたため,われわれは栄養(食/歯科口腔)から考えるフレイルのフロー概念図を構築した(図1)。フロー概念図は,フレイルの主な要因(特にささいな衰え)とその重複によるリスク,さらにそれらへの早期の気づきがいかに重要になるかを示したものであり,歯科口腔分野の研究を中心に詳細に記している。

図1 新概念「オーラルフレイル」(文献2より作成)
歯科領域を中心に発表された報告をもとに,小規模なシステマティックレビューを行い,さらに柏スタディーから見えてきた新たな知見を盛り込みながら構築した。初期の変化は社会性の低下から始まる点が特徴。第2段階の歯科口腔機能における軽微な虚弱兆候が,身体への大きな虚弱化への入り口となるなるため,早期発見と早期介入が欠かせない。

 特に初期の変化(第1段階)は,人とのつながりの希薄化や生活の広がりのなさ,孤食など社会性の低下,あるいは意欲低下といった心理面の変化から始まる。口腔に関する健康リテラシーの欠如も大きな要因となる。

 さらに第2段階として栄養面のフレイル期を設定し,その中でも歯科口腔機能における軽微な衰え(滑舌の低下,食べこぼし・わずかのむせ,噛めない食品の増加など)をあえて見える化し「オーラルフレイル」として位置付け,身体の大きな虚弱化(フレイル化)への入り口であることを強調した。この段階を軽視し見逃してしまうと,徐々に不可逆的な身体面のフレイル期(第3段階:顕著なサルコペニア・ロコモ・低栄養等)に移り変わっていく。

 オーラルフレイルとしての軽微な口腔機能の衰えが少しでも重複すると,全体のフレイルやサルコペニア,低栄養リスク,食欲低下,食品多様性低下などの危険度が増すことが判明している(全て有意差あり)。さらに柏スタディーでは,口腔機能を,①咀嚼能力,②口腔巧緻性,③舌圧,④主観的咀嚼能力低下,⑤むせ,⑥残存歯数20未満の6項目と幅広く設定し,縦断追跡調査(最大追跡期間:45か月間)により総死亡リスクを検討した。仮に3項目以上の該当者(16%)をオーラルフレイル,1~2項目の該当者をオーラル・プレフレイルと仮定してみると,調整後の総死亡リスクはハザード比2.1倍であった。また,サルコペニア発症のリスクは2.2倍,フレイル(CHS基準)発症に至るリスクは2.4倍であった(未発表データ:論文投稿中)。この概念図をもとに,口腔機能へのさらなるヘルスリテラシー向上も狙いながら,国民に対するさまざまな啓発に取り組んでいきたい。

医科―歯科―栄養が連携し国民目線の対策を

 本研究を通じて,多面的なフレイルに対し「栄養(食と口腔機能)・運動・社会参加」の3つの柱が大切であることを国民により早期に気づかせ,自分事化してもらい,最終的に行動変容へとつながることを狙いたい(図2,3)。言い換えれば,国民も専門職も,より早期からの口腔ケアおよび口腔機能維持の重要性を再認識する方向へ転換していくことが重要になる。そのためには,口腔分野においても国民目線としてわかりやすい概念と簡易評価法を設け,医科―歯科―栄養の連携スクラムを組んだ臨床活動,普及啓発活動,骨太の共同研究と情報発信活動が求められることになる。

図2 フレイルドミノ――社会とのつながりを失うことがフレイルの入り口になる(筆者作成)

図3 健康長寿のための「3つの柱」でフレイル予防を(筆者作成)

参考文献
1)J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2001[PMID:11253156]
2)鈴木隆雄,他.平成25年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業.食(栄養)および口腔機能に着目した加齢症候群の概念の確立と介護予防(虚弱化予防)から要介護状態に至る口腔ケアの包括的対策の構築に関する研究 事業実施報告書.2014.


いいじま・かつや氏
1990年慈恵医大医学部卒後,千葉大循環器内科入局。亀田総合病院,君津中央病院,東京都東部地域病院を経て,97年東大大学院医学系研究科加齢医学講座医員。米スタンフォード大医学部循環器内科研究員,東大大学院医学系研究科加齢医学講座講師,同大高齢社会総合研究機構准教授を経て2016年より現職。専門は,老年医学,総合老年学(Gerontology)。フレイル予防のための大規模コホート研究およびシステム構築,在宅医療を基盤に多職種連携推進を軸とする地域包括ケアシステム構築に携わる。