ショック(末梢)(志水太郎)
連載
2016.04.25
おだん子×エリザベスの
急変フィジカル
患者さんの身体から発せられるサインを読み取れれば,日々の看護も充実していくはず……。本連載では,2年目看護師の「おだん子ちゃん」,熟練看護師の「エリザベス先輩」と共に,“急変を防ぐ”“急変にも動じない”フィジカルアセスメントを学びます。
■第4夜 ショック(末梢)
志水 太郎(獨協医科大学総合診療科)
(前回からつづく)
J病院7階の混合病棟。おだん子ちゃんは今日も夜勤です。前回(第3夜/第3168号),助っ人として勤務した救急外来での経験が衝撃的だったらしく,最近どうやら急変や救急に興味を持ったようです。
ラウンドを開始して間もなく,具合の悪そうな患者に遭遇しました。患者は榎本さん(仮名)。糖尿病のコントロール不良の75歳男性で,今回は単純性腎盂腎炎で点滴加療のため入院していました。5日前に点滴を開始して,3日目には熱も下がり全身状態もよくなってきていたのに,一体どうしたのでしょうか……!
(おだん子) 「あれ,榎本さん。具合が悪そうですが大丈夫ですか?」
(患者) 「……(ぐったり)」
(おだん子) 「なんだか様子がおかしい……あ,こんなときこそ呼吸数!(アイウエオ,アイウエオ……)速いっ,30回/分くらい? でも何でこんなに速いんだろう。ええと,次は何をすれば……」
呼吸数が非常に速い患者さん。どうやら急変です。急変にも慣れてきたおだん子ちゃんはさっそく呼吸数を測りました(第1夜/第3159号)。さて,次に何をすればよいのでしょうか。
★
(エリザベス) 「ちょっとあなた何をぼんやりなさってますの? 頻呼吸ですわね」
(おだん子) 「うおっ! いつも通り突然の登場! もう慣れました……。でも呼吸数だけじゃ原因までは……」
(エリザベス) 「あら,やぁねぇ。呼吸数30回/分なんてそんなにないものよ」
いつものごとくエリザベス先輩の登場です。先輩は,呼吸数が30回/分以上というだけで思い当たる原因がいくつかあるようです。
急変ポイント❹
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痛みで呼吸が速くなることはよくあります。外傷や救急,術後の患者さんなどを思い出せばわかりやすいかもしれません。ICUで挿管されている患者さんも,呼吸数が増えているときには痛み(や違和感)の可能性が考えられますので,それを指標に鎮痛や鎮静の薬を調整することがあります。
超高熱の状態では,末梢血管が開いて血管床が広くなるため,血管内の血液が“相対的”に足りなくなる「血液の分布異常」が起こります。その場合,血液を末梢に送る中枢(=心臓)に血液が残りにくく,また戻ってきにくいため,血液がうまく循環しません。お風呂で温まって手足等の末梢血管が開くと,頭に血が回らなくなってのぼせるのと同じような状態が病的に起こるのです。酸素を送る血が少なくなるため,少しでも多く酸素を取り入れようと呼吸数が上がると考えられています。
低酸素血症が生じるメカニズムは,低換気や還流不全が原因と言われています。酸素を欲する生理的反応で息が速くなると考えられます。高CO2血症でも呼吸数は上がりますが,呼吸幅の大きい大換気が目立つので,呼吸数が30回/分まで速くなることは多くありません。
敗血症では,敗血症による代謝性アシドーシスで酸性に傾いた血液や体液を元に戻そうとして呼吸を速くする生理反応が起き,呼吸数が上がります。また,これにより,代償性の呼吸性アルカローシスが生じます。
さて,今回の原因は……?
(エリザベス) 「(末梢を触って)あら,熱いわね」
(おだん子) 「えっ? ……あっ,熱っ!」
(エリザベス) 「血圧も低そうね,100 mmHgを切っているわ。脈も120拍/分。ショックですわ。末梢がこれだけ熱ければ分布異常ですってよ」
先輩は,ダブルハンド法(第2夜/第3163号),瞬間脈拍(第3夜/第3168号)を使って,患者さんの血圧や脈拍を確認。身体的・精神的虚脱感や頻脈・頻呼吸などの症状から「ショック」であると瞬時に判断しました。
なお,ショックとは酸素供給と酸素需要のバランスが崩れている状態を指します。命にかかわることが多いので対応を急ぐ状態ですが,その原因はさまざまで,症状から病態を見分ける必要があります。でも先輩は,どうして末梢を触っただけで血液分布異常性のショックということまでわかったのでしょう。その秘密が下記です。
エリザベス先輩のキラキラフィジカル❹
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今回は温かいショックなので血液分布異常性ショックが最も考えられるということです。血液分布異常性ショックには,敗血症,アナフィラキシー,甲状腺クリーゼ,副腎不全,薬剤性,神経原性ショックなどがありますが,日常的に圧倒的に多いのは最初の2つでしょう。
(おだん子) 「機械を使って測ってみました。先輩の言う通り,血圧92/58 mmHgです。脈は120拍/分! 体温は38.5℃です!」
(エリザベス) 「超高熱や痛みはないようですわね。SpO2は97%ですってよ。熱源はいかがですこと?」
(おだん子) 「あっ,腫れてます!」
見ると,おだん子ちゃんが触った手の近く,点滴の入っている刺入部の周囲が赤く腫れあがっていました! カテーテル関連血流感染症によって起きる発熱が疑われます。
このように発熱がみられたら,熱の原因,熱源がどこにあるのかを探すことが不可欠です。頭からつま先まで,視診・聴診・触診・打診を組み合わせて,全身を丁寧に調べていきましょう。今回は,幸運なことに,明らかな熱の原因を一つ,すぐに発見できました。皮膚表面の熱源は見つけやすいと思われるかもしれませんが,きちんと「見つける」という意識がないと,見落とすことがあるので注意が必要です。
(エリザベス) 「すぐにドクターをお呼びになって。敗血症ですわ」
(おだん子) 「エッ! これだけでわかるんですか?」
(エリザベス) 「熱が出ていて,点滴のところが腫れていらしてよ。今年2月に改定された敗血症の新定義では,感染症が疑われて,qSOFAスコア2点以上,つまり,①意識変化,②収縮期血圧100 mmHg以下,③呼吸数22回/分以上のうち,2つ以上該当すれば敗血症と判断しましてよ。さ,ドクターをお呼びになって」
(おだん子) 「わ,わかりました!」
おだん子ちゃんがドクターコールすると,ドクターが下りてきて血液培養と採血,採尿,抗菌薬のオーダー,そして点滴抜去と別ルートの留置を行い,中心静脈ラインの準備を指示しました。もちろん,原因検索と治療を行いますので,今回の場合のように分布異常が疑われる患者さんであれば,初動はまず生理食塩水やリンゲル液などの細胞外液の輸液負荷になります。患者さんは個室に移され,慎重に経過観察する方針となりました――。
★
今回は,ショックを来した患者さんに遭遇したら末梢を触り,温かかったら敗血症も含めた分布異常の病態を疑う,ということがポイントでした。
通常,単純性の腎盂腎炎は3日以内に熱が下がります。臨床教育者であり著名な感染症専門医の青木眞先生の言葉を借りると「感染症は悪化か改善のどちらか一直線」が原則です。一度は改善したものが悪化した場合は,何か別の原因を疑い,全身検索をして熱の原因を突き止めます。
今回は点滴刺入部の発赤から血流感染症が疑われたケースでした。糖尿病もあり症状が悪化しやすかったのかもしれませんね。
ショック状態の患者を診たらまず末梢を触るところから始めてみましょう! 次回はさらに一歩進んで,血液分布異常性以外のショックで役立つフィジカルアセスメントを紹介します。
おだん子のメモ4月25日
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(つづく)
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